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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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25/37

月の裏側にキスをして


 あなたはいつも、私と向かい合う。

ご飯を食べるときも、カフェで語らうときも、

初めて出逢ったバーのカウンターでも、

あなたはバーテンダーとして、私と向き合っていた。

あなたはずっと、その優しい表情で、

私を見つめ続けてくれていた。


 私はよく、あなたに背を向けた。

あなたの優しさに甘え、わがままに振り回した。

私が軌道を描き、あなたがそれをなぞる。

どんなに背中を見せても、

あなたはすぐに私の正面へと回り込み、

またその顔を覗かせる。

それが虚しく、腹立たしく、

思ってしまったのです。


 あなたの背中が見たかった。

あなたの背中に、触れたかった。

私の中には、

あなたの優しさも、ほどよく明るい笑顔も、

十分に蓄積されていたから。

あなたが背中を向けてくれなくては、

あなたの中に、私を蓄積することができないじゃない。

私ばかりが照らされて……

そんなの、ずるいじゃない。


 私は、あなたの周りを回りたかったのです。

あなたの影も、教えて欲しかったのです。

そうじゃなきゃ気が済まない。

そうじゃなきゃ……

自分自身がどんどんと、

卑劣で、傲慢に思えてならなかった。

私は、私自身の気晴らしのためにも、

あなたに悲しんで欲しかったのです。


 あなたは、私の周りをぐるぐる回る。

私を中心に、背を見せず、

360度愛してくれる。

私はあなたの表面しか知らない。

あなたを中心に、回ることを許されない。

これじゃ……あなたのすべては愛せない。


 私は、あなたを傷つけたい衝動に駆られた。

あなたが逞しすぎたから……

あなたがあまりにも、弱さを見せてくれなかったから……

付け入る隙がなかったから。

あなたのためにできることが、

見当たらなかったのです。

私の……私があなたのそばに居続ける理由が……。


 あなたが初めて背中を見せた――

だって、私があなたを振ったから——

いつもみたく、あなたに背を見せるのではなく、

ちゃんと向き合って、別れを告げたから。

そうか……と、あなたは背を向けた。

こんなにも呆気ないものだとは思わなかった。

そして、私はまた……あなたの優しさを知る。

初めて見るあなたの背中が、

私の知ってるあなたの表面よりもいっそうに、

大きく逞しかったから。

この事実をもっと早く知っていたら、

私はきっと、逃げ出していた。

自分自身の無力さに、

打ちひしがれていたことでしょう。


 私も背を向ける。

背中と背中が見つめ合う。

あなたが背中を見せなかったのは、

あまりにも脆弱な私に、現実を見せない配慮。

私という無価値に、

最大限の価値を与えてくれる慈しみ。

やっぱり、あなたが私の周りを回るべきじゃない。


これからは、私があなたの周りを回るから……

どんなことがあっても、あなたに背を向けたりなんかしないから……

だからお願い……振り返って。そして決して……私の前には回り込まないで。


ただそっと、

月の裏側にキスをして——



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


今作は、愛を与える側の傲慢さと、受け取る側の苦悩を描いた作品です。

作者の解釈としたは、決して〝私〟が傲慢なのではなく、寧ろ〝あなた〟の方が傲慢なのです。


モチーフとしては、愛される側を地球、愛する側を月と見立て、作中の〝私〟は月になりたいのです。

しかし、決して背中を見せないほどの強さは持ち合わせておらず、『背中を見せたい月』といったところでしょうか。

〝あなた〟の愛を真正面から受け続けるのが辛い。

だからそっと、〝私〟の背中にキスをしてくれるくらいの、そんな他愛もない愛情が欲しいのです。

即ち、本来この二人は、〝あなた〟が地球、〝私〟が月であれば、うまくいき続けていたのかもしれません。

今となっては、〝あなた〟が振り返り、〝私〟を引き留めてくれることを、祈るしかないのです――



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