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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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22/36

君の嫌いを飲み干して


君をこのバーに連れて来たのは、

別に大人を演出したかったからじゃない。

単純に、僕の〝好き〟を、

君と共有したかっただけ。


タンカレージンのソーダ割り——

さして高いお酒ではないけれど、

僕が一番好きなスピリッツ。

お世辞にもスマートとは言えない、ずんぐりとした緑のボトル。

ほのかな甘味と、独特な苦味……ジン特有の香りを愉しむには、

ソーダでアップするのが最適解だ。

これはまぁ、目の前のバーテンダーの受け売りだけど。


カウンターに置かれたラバーシートの上に、

暗い照明に映える薄作りのグラスが二つ。

豪快に割られた氷がグラスに入れられ、

そこへ、冷えたジンが注がれる。

とろみをおびた液体が、ゴツい氷を締め付ける。

丁寧に、丁寧に……炭酸がグラスと氷の隙間を縫って、

小気味良い音楽を奏でながら、最奥のジンと絡み合う。


ほんの二回、優しくステアされて、

僕の〝好き〟が完成する。

スタンディングオベーションしたいくらいだ。

シンプルな中に詰め込まれた拘りが、

弾ける泡となって、僕の感性を刺激する。

僕の〝好き〟が、君の〝好き〟に、

なってくれると良いなと願う。


君は恐る恐る、グラスのふちに口をつける。

僕の好きな唇が、僕の〝好き〟と触れ合う。

顔を顰める。〝苦い〟と零す。

そうだね。

最初から全てを共感できるほど、

僕たちは同じレシピで作られてはいないさ。

だけど少しずつ、グラスの中で溶け合っていければ——


バーテンダーが、薄切りにされたシロップ漬けのレモンを差し出す。

僕は心で否定しながらも、その好意を受け取る。

君は迷うことなく、ひと切れ口に咥える。

甘酸っぱい刺激が、君の舌とリンクして、

僕の胸を締め付ける。


〝お酒の中に入れてごらん〟

君は一切れ、二切れと、

グラスの中に落とし入れる。

輪切りのレモンが、場違いに戸惑う。

僕の〝好き〟が汚される。


〝飲みやすくなった〟と、喜ぶ。

君は、薄まった炭酸の代わりに、

あどけない笑顔を弾かせる。

薄っぺらな僕の心が、耐えられずタップする。

僕の〝好き〟なんて、どうでも良い。

君がそんなにも、喜んでくれるのならば。


僕は、君の〝嫌い〟を飲み干す。

新たなジンソーダを用意して、

君と同じようにレモンを落とす。

僕の〝好き〟な透明を濁してでも、

君にそばにいて欲しいから。


どうやらこの恋は、僕が君に染まるのだろう。

その証拠に、今しがた汚した僕の〝好き〟が、

美味しくてどうしようもない。

決してスマートではなく、不格好な僕だけれど、

君に飲まれるためならば、どんなレシピも甘んじて受け入れる。


僕の〝好き〟なんて、どうでも良い……


君の〝好き〟で、あり続けられるのであれば——



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


恋は落ちた方が負けとよく言いますが、その通りだと思います。

好きではない相手の〝好き〟ほど、興味のないものはなく、好きな相手の〝好き〟ほど、最優先すべき事象もないから。


それでも、どこかで線を引かなければ、自分ってものが無くなってしまう。

カクテルのレシピと同じように、適切な分量があるはずなのです。

今作の〝僕〟のように、あまりにも相手に合わせてしまうのは、最適解ではないでしょう。


事実、昨夜が思うこの物語の続きは、そんなに幸せではありません。

分量が狂ったカクテルなど、飲めたもんじゃないですから。

しかし、恋愛なんてものに正攻法があるとも思いません。

材料が変われば、自ずとレシピも変わるものです。


作者として、いつか〝僕〟と〝君〟とがグラスの中で溶け合って、

誰にも真似できない甘美なオリジナルカクテルになれば良いなと願うまでです。


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