燻る背中
さよなら……と、告げられたのであれば、
それは救いだ。
さよならは、
明確なる意思であり、
強き言霊だ。
人類に残された誠意であり、
救いの象徴だ。
あなたはなにも言わずに去った――
それはもっとも卑劣で、
人間ならざる悪意だ。
残された者に深い傷を負わせる、
罪深き蛮行だ。
そして、私は炭となり、
あなたとの記憶は灰になった――
私の中で燻っているのは言い訳であり、
釈然としない理解の権化。
あなたと私とを繋ぐ、
力なき最後の灯火。
それは、細い細い煙となって、
どうしようもなく立ち込める。
今さらあなたをとっ捕まえて、
いかに尋問しようとも、
そこに救いなどあろうはずもない。
それは、私自身の心を、
拷問するのに等しい。
後ろ手に縛られ、
椅子に貼り付けられて俯くあなたを、
それでも私は愛するというのか。
情けなく萎れるあなたを見ることで、
私の心が晴れるとでもいうのか。
分かりきった答えが、首筋に血を滲ませる。
引っ掻いてやりたいと腕を伸ばしても、
爪は虚しく空を切る。
最後の言葉の代わりにと、
あなたの背中が脳裏を埋め尽くす。
悔恨は炎となることなく、
炭壺の奥底で静かに消える。
自分の心に水を掛ける。
大げさな音と、煙が舞う。
あなたとの記憶たちも、
縦横無尽に飛散する。
私は再び前を向く。
それでも……
あなたの背中が燻り続ける——
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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今作は実にシンプルであり、裏テーマもありません。
さよならを告げずに去った者……
それは、恋人、友人、または死別……あらゆる人間関係の最後に起こりうることです。
そして、さよならを告げられなかった者の中には、ただ答えのない感情だけが、煙のように漂うのです。
相手を想えばこそ、別れの言葉はしっかりと伝えてあげましょう。
また、日々の生活の中で、しっかりと気持ちを言葉にしていきましょう。




