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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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20/30

人と成る


 あれは何年前か……

1月の10か11日くらい。

世に言う『成人式』だった——


その前日……

夜遅くに同級生からの電話。

〝明日迎えに行くけど、どうする?〟

私は短く答える。

〝俺、今、多分新潟〟


私の地元は岡山県なので、前日のこのセリフは『行かない』を意味する。

その後の会話はあまり記憶がない。

ただなんとなく、相手は残念がっていた気がする。

驚いていたような気もする。

私の〝成人式に行かない〟という選択肢が、相手にとっては、想定外だったのであろう。


このときの同級生は、

今や連絡先も分からず、

元気に過ごしてくれていれば幸いくらい。

なぜなら、中学でも、中退した高校でも、

さして仲良くはなかったし、

今思い返してみても、

実家の場所すら思い出せない。


でもきっと、彼は私に〝何か〟があったから、

あの日誘ってみたのだろう。

それは当時、私が活動していたバンドの影響なのか、

単に、彼が私より『成人』に向いていたのか——


 『人と成る』とはなんだろうか。

〝人と成れば〟偉いのだろうか。

人は必ずしも成らなければならないのであろうか。

人として成るとは法律なのか。

精神論なのか、社会論なのか。


いったい何をすれば、ばんの上でひっくり返されるのか。

それは、自らひっくり返るのか。

それとも、

見ず知らずの誰かに、

ひっくり返されるのか――


当時から、そんなことをぼんやりと思い悩んでいた。

19歳にしては大人びた悩みだったのか……答えは見つからぬまま、

楽器と人間がぎゅうぎゅうに詰め込まれたバンの助手席で、

揺られていた。


あれから十数年。

気づけば年相応の悩みとして、いまだに私の中にある。

ひとつだけ分かったのは、

こうして考え、悩み続けることも、

『人と成る』の片鱗ではあるのだろう。


 あの夜の新潟でのライブは、

今でもハッキリと覚えている。

初めての地に、私たちのバンドのファンなどはおらず、

小さな箱の中の客は10人に満たない。


それでも、全力でライブをした。

衣装が絞れるほどに汗をかいた。

私のことを覚えて欲しいと声を枯らした。

好いて欲しいと懇願した。

同級生たちが色鮮やかな振り袖を纏い、

晴れて大人に成った日、

私は静岡のライブハウスで、

大人に成ることを拒否した。


 『人と成る』とは、結局のところ、

人であろうと悩み続けることなのだと思う。

人に成ろうと足掻き続けることなのだと思う。

その結果、思い描く理想の人に成れなくても、

それもひとつの人とりなのだ。


 あの日の自分になにか伝えられるならば、

そのまま焦らず、好きに生きれば良い。


途方もない夢を抱え、世間に唾を吐き、

どんなに現実から目を逸らしたところで、

あの日、新潟から長野へと県を越えたように、

成人への線も跨いだのだ。

バンの助手席で、身体を丸め、

世界から隠れるように……。


それでもお前は今、

好き勝手に生きられている。

お前が嫌った『常識』や『当たり前』と程よい距離を置き、

充分に『普遍的』ではない人生を歩んでいる。


お前のためにも、私は人と成る。

自我を真正面から受け止め、

書きたい夢を描き続け、

人と成ることに、この生涯を捧げる。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


今作は私の記憶をベースにした人生論です。

『人と成る』とはなにか。

〝立派な人間〟とはなにか。

〝素晴らしい人生〟とはなにかってのを、うっすらとでも思い浮かべていただければ幸いです。


特にもともと決めていたわけではなく、ただ、【朗読台本用】にと書き始めたこのシリーズの、

20作品目という節目に、安易に『成人』という主題を用意した結果、たまたま、この記憶が掘り起こされました。

当時バンドマンとしてツアー中だった自分。

今思えばさぶいぼが立つほど、世間を軽蔑していた時代。

お恥ずかしい限りですが、私はあの時の自分も、やっぱり好きですし、特段間違っていたとも思いません。

ただ、今の自分からすると、あまりにも子供だな……と。


皆さんにとっての『成人』とはどうだったでしょうか。

嬉しい記憶、悲しい記憶、人それぞれだと思います。

ただなんとなく跨ぐには、人生においても中々に重要なチェックポイントではある気がしますので、これを機に、ほんのりと、想ってみてください。


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