↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/73

【恋】追憶


初めまして。

三軒長屋(サンゲンナガヤ) 与太郎(ヨタロウ)です。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。


挿絵(By みてみん)



 知らない部屋。

経験則から察するに、四畳半……一辺は2.7メートルってところか。

正四角形で無機質。

薄暗いなんてことはなく、寧ろ明るいくらい。

幸いにも、水と食料は定期的に手に入る。


俺は決して捕まったわけではない。

勿論、なにか犯罪を犯したわけでもない。

ただ、ここで管理されている——


あれは、一ヶ月前くらいになるか。

いつものダーツバーからの帰り。

そもそもに、酔い過ぎて記憶も朧気。

いまだにテキーラの味が舌に残っている気さえする。

また飲みたいものだなぁ。


どうやら俺をここへ閉じ込めた犯人は、

危害を加えるつもりはないようだ。

一日二回、朝と夜。

日替わりの飯と、

大きめのペットボトルに入れられた未開封の天然水が一本。


飯は、質素で豪華。

俺が普段食べていたレストランや飲み屋、

ウーバーの飯に比べれば派手さこそは劣るが、

手作りで、なんとも気持ちがこもっている。


今日は……五穀米に納豆、茹でた卵と胸肉のサラダ。

白菜の漬物に、メインは紫蘇おろし豆腐ハンバーグ。

南瓜やら人参やらがたっぷり入った、

温かい白味噌の汁物まである徹底ぶり。

キッチンで鼻歌を歌う背中が、

容易に思い浮かべられる、〝愛の籠った〟一膳。


強制的に酒も抜かれているからして、

ここに連れて来られて以降、

俺の体調は日に日に良くなっている。

犯人は、俺の不摂生な生活を思い悩み、

改善してくれようとしているのか……とすら思う。


しかし、これだ——

『君の瞳に恋をしたんだ』

『俺の命は、君を守るためにある』

『出逢えて嬉しいよ。

君に出逢う前は、寂しさに震えていた』

『今夜は寝かせない』


さぶい俳優の台詞だろうか……

いやにキザで……読んだことはないが、少女漫画のような、

もしくは、翻訳版のハリウッド映画のような台詞が、

部屋の隅に付けられた天吊りのスピーカーから、

定期的に流される。

すべて、俺の声で……。


「なぁ、いい加減に俺をここから出してくれよ。

俺は怒ってないし、むしろ感謝してるくらいだ。

お前も俺に、危害を加える気なんてないんだろ?」

どんなに言葉を吐いても反応はない。

ただ、狭い部屋の壁に、こもるだけ。


犯人の目処はついている。

仲の良い友人からも忠告はされていた。

「お前も気を付けろよ。

若いうちに火遊びしとくのも良いが、

それが仇になるときだってある」

なんて、言ってたかな。


俺はなんの変哲もない不動産屋の従業員だからして、

熱狂的なファンってわけでもないだろうに……

なにもここまで縛り上げずとも。


ダーツしてぇなぁ……。

〝ダーツが〟というよりも、あの空間が恋しい。

なんとなく盛り上がって、なんとなくテキーラ飲んで、

なんとなく知らない女を抱いて……

追憶が、浮かんでは消える。


犯人がその気なら、

別に俺はこのままでもいいさ。

飯には困らないし、今のところは健康的に生きられているわけだし、

無駄な金を使う隙もないし。


ただ、窮屈だ。

ただ、詰まりはしない。

ただ、自由が恋しくて、

世界が遠くなってしまった気がする。

いや、それは確実に遠くなったのか……。


小窓の外から赤子の鳴き声がする。

瞬間的に、意識が覚醒する。

すべての悩みや、不安がかき消される。

解決ではない……無理やりに上塗りされる。


俺はもう分っている。

犯人はこいつだ。

この鳴き声の主こそが、俺をここに閉じ込めたのだ。

俺の自由を奪い去り、拘束し、

世界から隔離したのだ。


俺は立ち上がり、〝外へ出る〟。

刺々しい現実が、胸に刺さる。

「ただいま」

「おかえりなさい」


そうか……俺ってやつは、結婚をしたんだな。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。



【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


まず、今作に出てくる正四角形の無機質な部屋は、〝俺〟の精神描写です。

結婚という檻ですね。

〝俺〟は監禁されているわけではなく、社会的に束縛されているのです。

それだから、独身時代のダーツバーの思い出が、追憶となって悩ますのです。


そして、子供の泣き声を『鳴き声』と言っている辺り、まだ現実に向き合えていないのです。

しかし、帰宅して家の前に立つと、中から泣き声がする。

ここで、正四角形の部屋からは解放される代わりに、強制的な現実が露になるのです。


今作を、悲劇ととるかは自由です。

しかし、作者としては、今後〝俺〟がしっかりと現実と向き合い、今までとは違う……ダーツバーのような楽しさではない……結婚生活の中でしか得られない楽しさや幸せを感じながら、徐々に正四角形の無機質な部屋と、現実に暮らす家が、同化していくのだと思います。

追憶に逃げずに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。