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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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17/26

追憶


初めまして。

三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。


挿絵(By みてみん)



 知らない部屋。

経験則から察するに、四畳半……一辺は2.7メートルってところか。

正四角形で無機質。

薄暗いなんてことはなく、寧ろ明るいくらい。

幸いにも、水と食料は定期的に手に入る。


俺は決して捕まったわけではない。

勿論、なにか犯罪を犯したわけでもない。

ただ、ここで管理されている——


あれは、一ヶ月前くらいになるか。

いつものダーツバーからの帰り。

そもそもに、酔い過ぎて記憶も朧気。

いまだにテキーラの味が舌に残っている気さえする。

また飲みたいものだなぁ。


どうやら俺をここへ閉じ込めた犯人は、

危害を加えるつもりはないようだ。

一日二回、朝と夜。

日替わりの飯と、

大きめのペットボトルに入れられた未開封の天然水が一本。


飯は、質素で豪華。

俺が普段食べていたレストランや飲み屋、

ウーバーの飯に比べれば派手さこそは劣るが、

手作りで、なんとも気持ちがこもっている。


今日は……五穀米に納豆、茹でた卵と胸肉のサラダ。

白菜の漬物に、メインは紫蘇おろし豆腐ハンバーグ。

南瓜やら人参やらがたっぷり入った、

温かい白味噌の汁物まである徹底ぶり。

キッチンで鼻歌を歌う背中が、

容易に思い浮かべられる、〝愛の籠った〟一膳。


強制的に酒も抜かれているからして、

ここに連れて来られて以降、

俺の体調は日に日に良くなっている。

犯人は、俺の不摂生な生活を思い悩み、

改善してくれようとしているのか……とすら思う。


しかし、これだ——

『君の瞳に恋をしたんだ』

『俺の命は、君を守るためにある』

『出逢えて嬉しいよ。

君に出逢う前は、寂しさに震えていた』

『今夜は寝かせない』


さぶい俳優の台詞だろうか……

いやにキザで……読んだことはないが、少女漫画のような、

もしくは、翻訳版のハリウッド映画のような台詞が、

部屋の隅に付けられた天吊りのスピーカーから、

定期的に流される。

すべて、俺の声で……。


「なぁ、いい加減に俺をここから出してくれよ。

俺は怒ってないし、むしろ感謝してるくらいだ。

お前も俺に、危害を加える気なんてないんだろ?」

どんなに言葉を吐いても反応はない。

ただ、狭い部屋の壁に、こもるだけ。


犯人の目処はついている。

仲の良い友人からも忠告はされていた。

「お前も気を付けろよ。

若いうちに火遊びしとくのも良いが、

それが仇になるときだってある」

なんて、言ってたかな。


俺はなんの変哲もない不動産屋の従業員だからして、

熱狂的なファンってわけでもないだろうに……

なにもここまで縛り上げずとも。


ダーツしてぇなぁ……。

〝ダーツが〟というよりも、あの空間が恋しい。

なんとなく盛り上がって、なんとなくテキーラ飲んで、

なんとなく知らない女を抱いて……

追憶が、浮かんでは消える。


犯人がその気なら、

別に俺はこのままでもいいさ。

飯には困らないし、今のところは健康的に生きられているわけだし、

無駄な金を使う隙もないし。


ただ、窮屈だ。

ただ、詰まりはしない。

ただ、自由が恋しくて、

世界が遠くなってしまった気がする。

いや、それは確実に遠くなったのか……。


小窓の外から赤子の鳴き声がする。

瞬間的に、意識が覚醒する。

すべての悩みや、不安がかき消される。

解決ではない……無理やりに上塗りされる。


俺はもう分っている。

犯人はこいつだ。

この鳴き声の主こそが、俺をここに閉じ込めたのだ。

俺の自由を奪い去り、拘束し、

世界から隔離したのだ。


俺は立ち上がり、〝外へ出る〟。

刺々しい現実が、胸に刺さる。

「ただいま」

「おかえりなさい」


そうか……俺ってやつは、結婚をしたんだな。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。



【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


まず、今作に出てくる正四角形の無機質な部屋は、〝俺〟の精神描写です。

結婚という檻ですね。

〝俺〟は監禁されているわけではなく、社会的に束縛されているのです。

それだから、独身時代のダーツバーの思い出が、追憶となって悩ますのです。


そして、子供の泣き声を『鳴き声』と言っている辺り、まだ現実に向き合えていないのです。

しかし、帰宅して家の前に立つと、中から泣き声がする。

ここで、正四角形の部屋からは解放される代わりに、強制的な現実が露になるのです。


今作を、悲劇ととるかは自由です。

しかし、作者としては、今後〝俺〟がしっかりと現実と向き合い、今までとは違う……ダーツバーのような楽しさではない……結婚生活の中でしか得られない楽しさや幸せを感じながら、徐々に正四角形の無機質な部屋と、現実に暮らす家が、同化していくのだと思います。

追憶に逃げずに……。

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