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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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貴方が唇を尖らせる理由


挿絵(By みてみん)



もう二度と会えない人……

アナタにも、居ませんか?

正確には、会わないであろう人……

決して死別ではなく、

けれど、その人が今、生きているのかすらも分からない……

だけど、あの時確かに繋がっていた人。


私には居ます。

名前は『りょう』。

いや、涼さん。

本当に綺麗で、

本当に切ない人でした。


たった一度の繋がりでした――

何度も繋がりましたが、

お互いが真に繋がったのは、

あの初夜だけだったと思います。

そんな考えすら、私の自惚れかもしれません。


『届かない人』

人生で初めて生身で感じた所感しょかん

高嶺の華って意味を、ちゃんと理解させてくれた人。

『好き』って感情以外の『好き』を教えてくれた人。

自分になんて、どうしようもない人。


貴女は淋しい人でした。

ずっと影を背負い込み、周りに不幸しか与えない……そんな人でした。

それなのに、貴女は道すがらで振り返られるほどの、凛と咲く美しさを持っていました。

今、瞼を閉じてみても、それが事実だったことを、私の中の記憶が訴え続けます。

そしてそれが、貴女の毒であったのだと、心が力なく震えます。


誰にも真似できない口角。

丸くて鋭利な目は、ほんの少しだけ離れていて、綺麗と可愛いを混ぜ合わせた美術品。

華奢な身体に、自身の胸へのコンプレックスを秘め、太腿だけが、妙な肉感を光らせる。

それに、いつも尖らす唇……

本当に、すべてが愛おしかった。


貴女と初めて繋がれた夜、

私は世界を手に入れた気がした。

ここに手が届くなら、なんの努力も要らないのではないかとすら思えた。

自分は選ばれた人間なのだと、感涙かんるいむせんだ。


次の日、貴女は私に別れを告げた。

悔しく、腹立たしく、世界を憎んだ。

こんなにも苦しむのなら、手に入れたくなどなかった。

自分は所詮、自分なのだと、身が引き裂かれる痛みを感じた。


今思えばこそ、あの別れが、貴女の優しさであったのだと胸に滲みます。

そのあとすぐに、貴方が私と繋がった理由を知ったから。

そうして、私は貴女を慰めるために、服を脱ぐようになったのでした。


ヴィヴィアン・ウエストウッドのネックレス。

貴族のような貴女に対して、相反するパンク。

……貴女には、想い人がいました。

立場上、決して実らぬ恋。

童話の中に迷い込んだような、結末の知れた悲恋物語。

その恋の色が、おかしいと知りながら、ひとつひとつのやり取りに喜怒哀楽する。

そうして悪びれる様子も見せず、無邪気な笑顔で私に相談し、

ふと寂しく俯くと、得意気に唇を尖らせる。

そして、私はまた、服を脱ぐ。


あなたの恋路に、私の入り込む隙間はなかった。

だから、私は貴女を想うのを止めた。

ただ、より濃くなっていく影のソースに、貴女を絡めて、

溢れ出す新鮮な陰気を味わうように、甘美に酔いしれた。

私の中の微熱を塗り込んで、より原始的なせいに昇華した。

貴女の毒を分解して、欲望のままに排泄した。


貴女と最後に会ったのは、渋谷の奥まった場所にあるバー。

若さも、高貴さも失い、

過去の高嶺の花も、この路地裏に転がる空き缶と大差ない。

草臥くたびれた哀愁の中で、貴女の影は、随分薄まったように見えた。

今度結婚しますと言った貴女の言葉に、私の心は微塵も反応を示さなかった。

路地裏の空き缶がどこに転がろうと、知ったこっちゃないから。


それでも、貴女が唇を尖らせると、心よりも先に身体が反応してしまう。

醜く浅はかな官能に、吸い寄せられた。

私の中の鬼畜が、檻を掴んで叫んだ。

そうか……よかったじゃないですか。

残念だけれど、これまで私を魅了し続けてきたソースは〝しゃばく〟なり、

理性の服を脱ぎ捨てるほどには、美味しそうではない。

私は、貴女の懇願には応えず、そっと箸を置いた。


貴女が唇を尖らせる理由。

一夜の寂しさを紛らわす毒を、練り込むため。

貴女が唇を尖らせる理由。

私のシャツの第一ボタンを外すため。

貴女が唇を尖らせる理由。

薄い影と重なり合い、自らの煮詰まった影を、程よく中和させるため。


今や影は、私の方が濃くなった。

濃い影に慣れすぎて、舌がバカになった。

これでは、貴女の味など感じられない。

今の私の影を、貴女に重ねるわけにはいかない。

貴女はこれから、〝普通〟を生きるのです。

それはきっと、退屈でしょう。

それはきっと、不安でしょう。

それでも、それがごく普遍的な幸せなのです。


貴女が目から流しているそれは、卒業という侘しさでしょうか。

重圧という苦悩でしょうか。

未知という恐怖でしょうか。

寂しさという原始でしょうか。

過去を憂い、謝罪し、許しを請うているのでしょうか。


さようなら……好きだった人。

貴女はこの道玄坂どうげんざかを下っていく。

フォーマルな白黒に馴染んでいく。

私はもう少しだけ登って、またネオンに消える。

原色を重ね合わせて、自分の影を誤魔化す。

もう二度と繋がることはないけれど、

最後に、あなたの尖らせた唇に、サーチライトなキスをして。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


私の経験をもとに描いたモノローグです。

自分の好きな人の、好きな人を応援する恋。

皆さまは経験ございますでしょうか。

あれはなんとも苦しくいものですが、そこにしかない味わいがあるのもまた事実です。

今作を書いてみて感じたのは、結局は、理由付けなのです。

〝貴女〟が唇を尖らせるのを、ひとつの合図にしたかっただけです。

理性を脱いでも良い……〝私〟の中の合法性を探ったのです。

それでも、もう影が重なることのないように、サーチライト(一方的な強い光)で照らすのです。

〝私〟なりの、『背中を押す』だったのでしょう。


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