そばにいさせて
——あり得ない通知。
届くはずのない電子手紙。
瞳を震わせ、静かに開く——
***********************
こんばんは。
お元気ですか?
私は……言わなくても知ってると思います。
突然のご連絡すみません。
どうしてもあなたに伝えたいことがありまして、
人伝に、メールアドレスを聞きました。
電話は、設定の仕方が分からず、
LINEはできないし、
SNSも考えましたが、他の人に見られるのも嫌ですし。
先に、
怒ってなんていません。
勿論、恨んでもいません。
むしろ、心の底から感謝しています。
だからこうして執念深く、連絡をしてしまっているのです。
正直、気持ち悪いですよね?
それでも、
どうか最後まで読んでください。
あなたと出会ったカフェ。
この間覗いたら、まだ営業してました。
相変わらずタバコが煙たくて、
タバコ嫌いなマスターが、咳き込んでいました。
相変わらず、変な人だと思います。
『ペガサス』なんて名前つけて……
でもやっぱり、好きです。
打ち合わせの場所があそこじゃなければ、
あなたに出会えなかったかもしれませんし。
マスターの元気そうな顔も見られたし、
そのまま、あそこの水族館に行きました。
実は、一人で水族館に行くのなんて初めてだったから、
そわそわしてしまいましたが、
ぷかぷか浮かぶクラゲたちを見ていると、
なんだか全部どうでも良くなって、
まさか、クラゲに慰められる時が来るなんて……と、
可笑しくなりました。
心がぷかぷか軽くなったので、
夜が更けるのを待って、ダーツバーに行きました。
そうです。
あなたとよく行った『Grapevine』。
〝葡萄の蔦?〟って不思議がると、
これはオーナーが好きなバンドの名前なんだって、教えてくれた。
それ以来、好きです。
お店もダーツも、バンドも……。
そういえば、店長がすごく気まずそうにしてましたよ。
何か、変なこと言ってないよね?
でも、安心してください。
店長にも言ったけど、もう行きません。
あなたに嫌われたくなんてないから。
そして今、あなたの後ろにいるの……
なんて、どうしようもない冗談はさておき、
今、あの丘の上の公園にいます。
遠くまで夜景が見渡せる綺麗な場所。
なんだか久しぶりだから、
感動して涙が出ました。
あなたとは別れてしまったけれど、
この景色くらい、たまに見に来てもいいよね?
やっぱり夜景は好きです。
綺麗なのに寂しくて、
沢山あるのに、手に取れなくて。
そんな夜景に包まれながら、このメールを書いています。
書けば書くほど思います。
あなたのことが好きなのは、ちっとも変わらない。
でも、あなたに嫌われたくないのも、ちっとも変わらない。
だから、これにてさようなら。
いつまでも、幸せに、どうか長生きしてください。
そっと、願いながら。
*******************
——恋人は、このメールが届く二週間前に死んだ。
それは、私が別れを告げて、すぐのことだった。
あれからもう一年以上経つが、いまだに毎日、送られてくる。
アドレスを変えても意味はなく、拒否することも許されない。
私はただ、返信不可の電子手紙を、毎日毎日、読まされる——
【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
——————————
最後の〝——恋人は〟からの解説ですが、
これは、物理的にメールが届き続けるといった意味ではなく、
恋人の『わざわざ死ぬ前に、送信予約をし、しっかりと〝私〟に死の現実を植え付けた上で、メールを送る』という、
異常な執着心によって、心に深く刻まれてしまったという解釈です。
故に、アドレスを変えても意味はなく、拒否も出来ない。そして、返信もできるはずがない。
ただ毎日、特定の時間になると、思い出してしまい、この一通のメールを、心の中で読み返してしまう。
そんな、人間ったらしいホラーです。




