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探偵と鬼ごっこ

作者: ひろ
掲載日:2026/01/01

※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。

 「いらっしゃいませ。

 数ある探偵事務所の中から当探偵事務所をお選びいただきありがとうございます。

 ご要件をお伺いしてもよろしいですか?」



 「身辺調査を依頼したい。対象は私自身だ。」



 「それは、ご自身の出自をお知りになりたいと言うことですか?」



 「いや。私がどのような人物であるかを調べて欲しいという意味だ。」



 「…なるほど?


 失礼ですが、お客様は記憶喪失や解離性同一性障害などを抱えてらっしゃるとか?」



 「いや。私はいたって健康だ。」



 「となりますと、恐れ入りますがご依頼の意図が掴みかねます。」



 「つまりは鬼ごっこだ。


 私はいつもの生活を続けつつ、あなた方に個人情報を抜かれないよう注意を払う。

 あなた方は、私に悟られぬようあらゆる手段を用いて私の身辺を調査する。


 調査途中に私があなた方の気配に気付いたり、あなた方が私へ満足のいく調査結果を提出できなかった場合は、私の勝ちだ。」



 「…失礼ですが、私どもを陥れる意図でも?」



 「いや、ただの自己満足だ。

 

 私は経営者として、若くして大きな富を築き上げた。

 一方で、仕事一筋で趣味もなく、金の使い方もろくに知らない男だ。

 そんな生き方に息苦しさを感じ始めていた。

 なので、何か面白いことをして貯め込んだ金を散財したら、気分も晴れるかと考えた。

 そこで、思いついたのがあなた方だ。


 私は、人を見る目にも、危機察知能力にも自信がある。生き馬の目を抜く社会で勝ち抜いて来た自負もある。

 その才覚を活かして、探偵と勝負することを思いついたのだ。」



 「あくまで遊びとして、私どもと探偵勝負がしてみたいと仰るのですね。


 始めから調査対象に存在を知られている条件は、私どもにとってかなり不利でございます。

 また、私どもが敗北した場合、あなた様がそれを公言されれば、私どもの信用はガタ落ち。


 …遊びというには、些か悪趣味ではございませんか?」



 「失礼な事を依頼しているのは重々承知の上だ。

 無理をお願いするのだ。成功失敗に関わらず報酬は弾もう。

 そして、私が勝ったとしても、それを公言しないことについては宣誓書を提出しよう。もとより、勝敗なんて私の主観でしかないからな。


 どうだろうか。受けてくれるか? 吉永。」




 「………ハァ。

 久しぶりの旧友との再会が、妙な仕事の依頼とはね。

 他の探偵事務所には行ってないだろうね?

 失礼すぎるからね?探偵の仕事を馬鹿にしすぎだ。」



 「駄目か?」



 「…仕方ない。友達の誼で受けてあげるよ。

 報酬は期待しているよ。」



 「ああ。ありがとう。」





**********一ヶ月後**********





 「さあ桜井。どうだい?報告書を見た感想は。」



 「…凄いな。


 収入、銀行や証券会社の保有口座情報、公私に渡る交友範囲。誰にも明かしていない別荘の存在まで。

 出自に至っては、俺の知らない祖先のルーツまで調べられている。

 君たちの動きを俺はまったく掴めなかったというのに。」



 「ふふん。前にも言ったよね?探偵の仕事を馬鹿にしすぎだよ。」



 「いや、すまなかった。まったく君の言うとおりだった。」



 「素直でよろしい。

 

 それにしても…驚いたよ。女性関係が真っ白というのは。

 学生時代から将来を有望視されていて、おまけに顔も良い。モテモテだったよね?

 『異性関係がかなり派手』という噂で持ち切りだった。

 …いや、実際はもっと酷かったな。『乱れきった』、『取っ替え引っ替え』なんて言われてた。

 そんな君がさ…。」



 「当時はたくさんの女性に誘われたが、全て丁重にお断りしていたよ。

 なのに、あの噂は本当に堪えた。

 …君もその噂を信じていただろう?」



 「そうだね。本当にごめん。」

 

 

 「なに、もう過去のことだ。

 その言葉が聞けただけで十分だよ。


 さて、報酬についてだが…」



 「え〜?この流れで報酬のことなの?もう少し反省させてよ。」



 「報酬は、その、俺の財産と人生で、どうだろうか?」







 「…………、は?」



 「俺と、結婚を前提に、付き合って貰えないだろうか?」



 「ちょっ、ちょっと待って!

 君は、私のことを…好きなの?」



 「学生時代から好きだった。

 でも君は噂のせいで、俺を良く思っていなかっただろう?言えなかったんだ。

 そして、噂を払拭できないまま卒業を迎え、君との縁は切れた。


 …つい最近だったんだ。

 風の噂で、君が探偵稼業を始めたと聞いた。

 居ても立っても居られなくなって…ここに来た。

 身の潔白を、他ならぬ君に証明してもらうために。」



 「……つまり、この勝負、最初からソレが狙いだったの!?

 私は君の掌の上で転がされていたってこと?


 そんなの私の完敗じゃないか、まったくもう……。」





 「返事を、もらえるだろうか?」



 「…今は悔しさと、過去の自分を許せない気持ちと、告白の衝撃で、何も考えられない。


 それに、君の告白は重すぎる!

 もう少し段階を踏んで欲しい!」



 「段階を踏めばOKしてくれるのか?」



 「そうじゃなくてっ!!

 

 ああもう参ったなあ、

 これ、逃げ切れるかなぁ…。」




おしまい

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