猛追と、雪解けの修行
遺跡からの脱出は、困難を極めた。雪原は彼らの足跡を消すどころか、逃走を妨げる障害となった。リナは、追っ手を欺くために複雑な幻術を雪煙の中に仕掛けたが、闇の追跡者・影守の霊力は執拗だった。
「後ろから、影の霊力が近づいてくるわ!影守は私たちの霊力の残留を辿っている!」リナが叫んだ。彼女の顔には疲労の色が濃い。
「ちっ、しつこい!」タロは舌打ちした。彼は今、以前のような傲慢な態度は見せなかった。自らの火遁術が影守に通用しなかった屈辱が、彼を謙虚に、そして慎重に変えていた。
タロは後方を確認し、炎を絞り出して一瞬だけ雪を溶かし、**水の霊力**と混ぜて足跡を凍結させ、偽の痕跡を作り出した。これは、彼が里で学んだどの教科書にも載っていない、生存のための応用術だった。
「ケンジ!走れ!お前の体力が唯一の霊力だ!」タロが怒鳴る。
ケンジは**雷剛**を担ぎ、歯を食いしばって雪を蹴った。彼の中に宿る紫電の霊力は、彼の肉体に膨大な熱と力を与えるが、同時に彼の持久力を急激に消耗させる。
クロ先生は左腕をかばい、ケンジに背負われながら指示を出していた。先生の傷は、影守との戦いで再び開いたようで、顔色は青白い。
「ケンジ、あそこだ。あの巨大な岩壁の裏に、古い**温泉洞窟**がある。霊力の熱が遮断され、影守の追跡を一時的に欺けるはずだ...急げ!」
彼らはなんとか温泉洞窟にたどり着いた。洞窟の内部は、地熱のおかげで暖かく、中央には湯気が立ち上る水たまりがあった。外の極寒とはかけ離れた、束の間の**隠れ家**だった。
クロ先生は洞窟の奥で倒れ込み、リナが急いで彼の治療を始めた。
「先生、傷が...」リナが心配そうに言う。
「構わん。それよりも、ケンジの修行だ」クロ先生は、痛みに耐えながらも、瞳に鋭い光を宿した。「影守は戻ってくる。時間はわずかしかない。」
ケンジは雷剛を壁に立てかけ、湯気の中、先生の前に座り込んだ。「先生...俺は、あの瞬間、どうやって影守を弾いたんだ?なぜあの時だけ、紫電が暴走しなかったんだ?」
クロ先生は咳払いをした。「お前の力は、霊力と肉体、二つの衝動が混ざり合ったものだ。通常の忍者は、霊力経路を使って力を流す。だが、お前は霊力経路が閉ざされている。だから、力は血管という肉体の衝動に流れ込む。」
クロ先生は続けた。「お前があの時、衝動を抑え、雷剛という金属の相棒を介して、そのエネルギーを地面に流した。それは、お前の肉体が霊力を外部に逃がすための、独自の避雷針となったのだ。」
タロは、脇でその会話を聞いていた。タロにとって、霊力は理論と技術だったが、ケンジの力は、まるで錬金術か、異世界の理屈だった。しかし、影守に敗北した今、タロは理論を越えた力の必要性を理解していた。
「霊力を、流すのではなく、伝えるのか...」タロが口を挟んだ。「ケンジ。やってみろ。あの時の構えを再現しろ。」
ケンジは驚いてタロを見た。「お前...手伝ってくれるのか?」
「フン。誤解するな」タロは顔をそむけた。「俺は、お前が暴走して俺の足を引っ張るのが嫌なだけだ。お前の構えは、体術の基本がなっていない。あの鉄棒は重い。腰の回転と、背中の筋肉で、衝動を雷剛の先端まで一点に集中させろ。」
タロは、自分の火遁の緻密な霊力制御の知識と、彼の体術の技術を融合させ、ケンジに教え始めた。エリートと落ちこぼれの初めての**協調**作業だった。
ケンジは、何度も雷剛を振り下ろした。最初は、ただの重い鉄棒だった。次に、紫電のスパークが飛び散り、洞窟の岩を焦がした。暴走寸前の状態だ。
「違う!もっと深く、衝動を抑え込め!」タロが怒鳴る。「それは怒りじゃない、意志だ!」
ケンジは汗を流し、その重圧で血の味がした。そして、何十回目かの試行の後、彼はついに掴んだ。
瞬間的な静寂。
ケンジが雷剛を突き立てた瞬間、紫電は爆発せず、鉄棒の先端にまるで液体のように凝縮した。それは、一瞬だけ、完璧に制御された紫色の刀の切っ先のように輝いた。
バチン!
紫電は雷剛から地面へ流れ込み、洞窟の床に小さな穴を開けたが、周囲には全く被害を与えなかった。
「...やったな、ケンジ」クロ先生が弱々しくも微笑んだ。
「完璧だ。霊力消費も極めて少ない。お前は...お前の血脈と、体術を融合させた」タロは目を見開き、驚きを隠せなかった。
しかし、その小さな成功の直後、外から恐ろしい音が響いた。
ゴゴゴゴゴゴ......
洞窟の入り口の雪が、影の霊力によって急速に黒く凍りつき始めた。
「影守だ!追いつかれた!」リナが叫んだ。
クロ先生は立ち上がろうとし、よろめいた。「もう、時間がない。ケンジ。お前は制御の**糸口**を掴んだ。逃げろ!奴らの目的は、私ではない。お前だ!」
ケンジは雷剛を握りしめた。彼の心臓は、逃げることへの恐怖ではなく、制御の可能性を見つけた興奮で満ちていた。
「逃げる...!だが、二度と、仲間を人質にはさせねえ!」
新たな力と、新たな協調を得た雷風行チームは、雪原へと再び飛び出した。逃避行は、さらに苛烈さを増す。




