雪原の探索者と、古き盟約の地
雷剛を肩に担ぎ、落ちこぼれチームはついに北方の地の入り口、広大な**雪原**に到達した。そこは、里の常識が通用しない極寒の地だった。
風が霊力を削ぎ落とし、気温は体力を容赦なく奪っていく。ケンジは、並外れた体力のおかげでまだ余裕があったが、肌に触れる冷気に体内の紫電が反応し、常に皮膚がピリピリと痺れていた。
タロは霊力を体内で制御し、体温を維持しようと奮闘していたが、表情は険しい。「クソッ。こんな場所じゃ、火遁の威力が半分も出せない。この地の霊力は、俺たちの五大元素と相性が悪すぎる。」
リナは厚手の外套をしっかりと纏い、雪を踏みしめる音にも注意を払いながら、周囲を観察していた。
「私たちの大陸の忍術は、暖かな大地の霊力を基盤にしている。この地は、それ以前の古代の霊力に支配されているわ。タロ、霊力ではなく、集中力を研ぎ澄ませ。ケンジ、あなたの体力こそが、この地で最も有効な武器よ。」
「おう!任せておけ、司令塔!」ケンジは力強く頷き、雷剛を雪に突き立てて、休憩の合図とした。
クロ先生は疲労の色を隠せなかったが、その視線は鋭い。「この地に、夜鴉一族が残した印があるはずだ。彼らは、この里の者が知らない何か、古代の秘密を追っている。」
一行が休んでいると、遠くの雪煙の中から、一人の人物が姿を現した。彼は毛皮を纏い、顔は雪と風で深く刻まれた皺で覆われている。手には、古びた狩りの槍を持っていた。忍者ではない。この過酷な地に生きる、**猟師**だろう。
「こんな場所で、里の若造を見るのは珍しい」猟師は警戒心なく近づき、タロが構えるのを見て笑った。「そんな炎の術はこの雪原では無駄だ。儂は、ユキジジイ。この辺りの生き字引だ。」
クロ先生が前に出た。「ユキジジイ殿。我々は、里の調査隊だ。最近、この辺りで黒いローブを纏った集団を見なかったか?」
ユキジジイは目を細めた。「黒いローブ...ああ、見たぞ。奴らは、恐ろしいものを探している。そして、その連中が通り過ぎた後、この地の霊力の流れはさらに冷たくなった。」
リナが身を乗り出した。「彼らは、何を追っていましたか?古い建物、あるいは伝説...」
ユキジジイは凍りついた空気を肺に入れ、息を吐いた。「伝説だ。儂らが子供の頃から聞かされている古い神話だ。この雪原の奥地には、かつて**『盟約の地』**があった。そこには、世界を再び作り直すほどのエネルギーが封印されているという。」
「盟約の地...」タロが呟いた。「それが、夜鴉一族の狙いか。」
「そして、その封印された場所は、古くから**『嵐のゆりかご(あらしのゆりかご)』**と呼ばれている」ユキジジイはケンジの背中にある雷剛を一瞥した。「儂には、お前さんの持っているその異質な力が、その『ゆりかご』から漏れ出したエネルギーに似ているように見えるぞ...数百年前にこの地を凍てつかせた、あの暴走した力に。」
ケンジは背筋に冷たいものを感じた。自分の紫電が、この地の古代の伝説に結びついている。それは、単なる「暴走」ではなく、「再来」なのかもしれない。
「嵐のゆりかごはどこだ?」ケンジは鋭い声で尋ねた。
ユキジジイは静かに、雪煙に隠された遥か遠くの山の稜線を指差した。「あそこだ。あの、雪に半分埋もれた、古い黒曜石の塔。あれが、封印の目印だ。しかし、夜鴉一族はもうそこに着いているだろう。彼らは、普通の忍びの術ではない、冷たい術で塔の周囲を固めている。」
ユキジジイはクロ先生に向き直った。「坊主たちよ。儂はお前さんたちが何者か知らないが、追わない方がいい。あれは、忍者の戦いではない。世界の均衡に関わる戦いだ。」
「ありがとうございます、ユキジジイ殿」クロ先生は深く頭を下げた。「しかし、我々には引けない理由があります。生徒たちの運命が、この戦いに関わっている。」
ユキジジイはそれ以上何も言わなかった。ただ、一言だけ忠告を残した。
「雪原の奥深くでは、幻覚と現実は紙一重だ。目を欺くなかれ。」
チーム「雷風行」は、ユキジジイに感謝を告げ、黒曜石の塔を目指し、再び雪原へと足を踏み入れた。
ケンジは鉄棒『雷剛』を握りしめた。彼の心臓は、寒さの中で不思議と熱く鼓動していた。運命の場所が彼を呼んでいる。
「嵐のゆりかご...。待ってろよ、俺の宿命!」
ケンジの叫びは、冷たい雪と風の中に吸い込まれていった。




