落ちこぼれチームの結成
ケンジは、消毒液の匂いが充満するアカデミーの医療室で目を覚ました。頭上には、白衣を着た医療班の忍者が三人、彼の脈を測りながら困惑した顔で囁き合っている。
「霊力経路は完全に閉鎖されたまま...」
「しかし、体内で観測された電撃は、通常の雷遁術とは全く違う。純粋な破壊のエネルギーだ。」
ケンジは体を起こそうとしたが、全身がひどい筋肉痛と痺れで悲鳴を上げた。彼は昨日の激しい雷電の爆発を思い出した。あの瞬間、彼の体はまるで誰かに乗っ取られたかのように、自分自身の制御を超えていた。
「クロ先生は...」ケンジはかろうじて声を出した。
「クロ先生なら、重傷だが命に別状はない」一人の医療忍者が答えた。「今、会議室で里長と上忍たちとの緊急会議が開かれている。お前についてだ。」
会議室。それは、里の最高権力者たちが集まる、重苦しい空気が漂う場所だ。
里長は、里でも最年長の、穏やかな表情の老人だったが、今はその額に深い皺が刻まれていた。
「...カラス面の男は、間違いなく伝説の遺物『嵐の心臓』を追っている。そして、その男は、ヒムラ・ケンジの中に、その遺物と呼応する何かを見つけた。」
「里長、あのような危険な力を持つ者を里に留めておくべきではありません!」上忍の一人が強く主張した。「彼は制御不能です。もし、再びあの紫電が暴走すれば、里全体が壊滅するかもしれない!」
沈黙が会議室を支配した。里長が結論を出せない中、松葉杖をついたクロ先生が口を開いた。彼の左腕は包帯でぐるぐる巻きにされている。
「里長、お待ちください。」クロ先生は立ち上がった。「確かにケンジの力は危険です。しかし、彼を里から追放するのは愚策です。奴らは、ケンジが里にいようがいまいが、彼の力を追って来るでしょう。」
「では、どうしろと言うのだ、クロ?」
「訓練させます」クロ先生は言い切った。「彼を私の特別調査隊に入れる。表向きはカラス面の男の足取りを追うこと。真の目的は、里から彼を遠ざけ、私がその紫電の制御を教え込むことです。」
クロ先生の提案は、村人たちの恐怖と、外部からの脅威の両方を一時的に解決するものだった。里長は熟考の末、ため息をついた。
「...わかった。だが、監視役が必要だ。その力に呑み込まれる前に、抑止力となれる者だ。」
そして数時間後、医療室で、ケンジは彼の「チーム」となる面々と顔を合わせた。
まず、タロ。
卒業試験で一番優秀な成績を収めた、火遁術の天才。整った顔立ちで、常に冷静だが、プライドが高くケンジを心底見下している。
タロは腕を組み、忌々しそうにケンジを見つめた。「なぜ俺がこの落ちこぼれチームに入れられなきゃならん?お前の役目は、俺のお守り役だ。変な真似をしたら、俺の火遁が容赦なくお前の紫電を焼き尽くす。」
ケンジは笑って見せた。「へへっ。それは楽しみだぜ、エリート様。俺の『紫電』はそんな生ぬるい火なんかじゃ消えねえぞ。」
次に、リナ。
彼女はアカデミーの女生徒の中で最高の幻術使いであり、冷静沈着な戦術家だ。彼女は昨日、ケンジの爆発を間近で見ていたためか、その表情は複雑だった。彼女の瞳はケンジを観察しているが、それは分析であり、軽蔑ではない。
「ヒムラ・ケンジ。私はリナ。このチームでは私が司令塔を務める」リナは冷たい声で言った。「タロは火力。私は情報とサポート。そして、あなたは...」
リナは一瞬言葉を選んだ。「...私たちの盾です。あなたの力はあまりにも不安定。私たちには、あなたを制御下に置く責任があります。無許可で霊力を使うことは、チームの規律違反と見なします。」
ケンジは目を丸くした。「え、俺、盾なの?なんか地味じゃね?」
クロ先生が松葉杖を手に、部屋の隅で笑った。「地味だと?最高の褒め言葉だ、ケンジ。そして、もう一人いる。私だ。」
ケンジは驚いた。「え?先生も?怪我してるのに?」
「この里で、お前の雷を間近で止めた経験があるのは私だけだ」クロ先生は微笑んだ。「お前たちの任務は、正式には『カラス面の男が残した手がかりの調査』だ。しかし、まずは里の外に出て、お前の制御方法を見つけることが急務だ。」
「つまり、俺たち落ちこぼれとエリートの寄せ集めチームは、里の厄介払いをされたってことか」タロが皮肉を言った。
「その通りだ」クロ先生は頷いた。「だが、この里を守れるのは、もはや教科書通りの忍者だけではない。ケンジ、お前は里にとっての『毒』であり、『解毒剤』でもある。さあ、行くぞ。この旅がお前たちを『本当の忍者』にするだろう。」
里長からの緊急命令を受け、彼らの出発準備は迅速に進められた。ケンジは古い布のバッグに、着替えと大量の即席ラーメンを詰め込んだ。
夕暮れ時、アカデミーの門前。
ケンジ、タロ、リナ、そしてクロ先生の四人は、里の外へと続く古い街道に立っていた。
タロは不満げに鼻を鳴らし、リナは地図を真剣に見つめている。ケンジは興奮で胸を躍らせ、空に向かって叫んだ。
「っしゃあああ!俺たち、落ちこぼれチームの雷風行、出発だぜ!」
この旅が、彼らの運命、そしてオーラ大陸全体の運命を変えることになるのを知る者は、まだ誰もいなかった。




