幻術師の暗躍と、闇に眠る証拠
最終的な内部革命の鍵は、動かぬ証拠の存在にあった。夜鴉一族の討伐だけでは、風の一族と評議会の支配を覆せない。彼らが、クロ先生の死とケンジの追放に共謀していたという証拠が必要だった。
ターゲットは、里の中央行政ビル地下深くにある評議会中央記録庫。そこは、里の全ての秘密が眠る場所であり、今や風の一族の最も厳重な**監視体制**下に置かれていた。
「風の一族は、**感知結界のスペシャリストよ。霊力の流れ、風の振動、あらゆるものを感知してくる」長老ロクの隠れ家で、リナは計画を説明した。「私が単独で潜入する。ケンジとタロは、外部の錨**となってほしい。」
「錨?」ケンジが尋ねた。
「ええ。ケンジの安定した紫電の霊力は、この里で最も予測可能な霊力よ。里の霊力の流れが乱れたとき、あなたはその安定した霊力で、一時的な霊力の空白地帯を作って。私が、幻術で自分の霊力をその空白に溶け込ませる。」
ケンジの覚醒した力が、戦闘だけでなく、超高精度な潜入を可能にする、斬新な戦略だった。
真夜中。里全体が深い闇に包まれた中、作戦は実行された。
タロは、中央記録庫の外部で、敢えて小さな火遁術を放ち、守備隊の一部を誘導する**陽動**を行った。その一瞬の隙に、リナは、ケンジの安定した霊力の流れに乗って、風の結界をすり抜けた。
記録庫の内部は、まるで巨大な墓所のようだった。古い巻物と文書が何万と並び、湿気から守るための霊力式除湿機が低い音を立てている。
リナは、霊力感知を限界まで研ぎ澄ませた。彼女の幻術は、もはや単なる視覚的な欺瞞ではない。彼女は、周囲の霊力の波長をコピーし、自分自身の存在を霊力的に無色透明にする、高度な技術を使っていた。
「見つけたわ...」リナは、評議会の古い封印が施された特別区画で、目的の巻物を発見した。
それは、ケンジが里を出る数ヶ月前、クロ先生が暗殺されそうになった時期の、秘密通信記録だった。
巻物を開くと、リナは震えを抑えられなかった。そこには、評議会の一部のメンバーが、クロ先生の雷神の器に対する思想を危険視し、外部の勢力(夜鴉一族)に情報と支援を提供し、里からケンジを排除しようと共謀していた事実が、明確に記されていた。
彼らは、ヤテンの野望を利用し、クロ先生の権威を失墜させ、里を内部から支配しようとしていたのだ。
リナが証拠を写し取っている最中、記録庫の入り口に、突然、冷たい霊力の波が押し寄せた。
「誰だ!そこで何をしている!」
風の一族の隊長、風魔リュウが、巡回ルートを外れ、単独で記録庫に戻ってきたのだ。彼の感知術は、リナの完璧な幻術をも、空気の微細な乱れとして捉え始めた。
リナは、逃走を試みた。しかし、リュウは既に通路を封鎖している。
「幻術師か!無駄だ!私の風遁の前では、欺瞞は通用しない!」リュウは、風の霊力を掌に凝縮し、通路全体に無数の風の刃を放った。
**絶体絶命**の危機。リナは、もはや逃げられないと悟った。
「...これこそ、修行の成果だわ!」
リナは、最後の手段に出た。彼女は、自分の全ての霊力を解放し、リュウが感知するであろう、全ての感覚を一瞬で過負荷にする、**超複合幻術**を放った。
光、音、霊力の波長、風の振動... 全てが一瞬で乱れ、リュウの感知能力は完全に麻痺した。
「ぐっ...!この霊力の奔流は...何だ!?」
リュウが平衡感覚を失い、意識を回復するまでの、ほんの一瞬。リナは、その隙を見逃さなかった。彼女は、証拠の文書を握りしめ、事前にタロが準備していた緊急脱出用の隠し通路へと、稲妻のような速さで飛び込んだ。
タロとケンジの待つ隠れ家に戻ったリナは、全身汗だくで荒い息を繰り返していたが、その手には、里の闇の核心を暴く、決定的な証拠が握られていた。
「やったな、リナ!」タロが安堵した。
「ええ...私たちは、これで里の評議会を、正々堂々と裁くことができるわ。風魔リュウは、私たちが戻っていることに気づいたはず。評議会の緊急集会は、明日にも開かれるでしょう。」
嵐を呼ぶ計画の第一段階は完了した。最終的な衝突への準備が整った。




