海上の試練と、塩の結界
天翔の聖地の山を降りた雷風行チームは、数日かけて南の海岸沿いにある小さな**漁村**にたどり着いた。昇月国は海を隔てた島国であり、渡航には船が必要だった。
「この力は...水に引き寄せられる」ケンジは、海辺に立っているだけで、全身が粟立つのを感じた。体内の紫電が、大量の海水霊力に反応し、いつ暴発してもおかしくないほど激しく脈動している。
「海は、お前の雷にとって巨大な導体だ」タロは眉をひそめた。「万が一、暴走すれば、この村どころか、沖合一帯が感電死するだろう。霊力抑制を最大にしろ。」
彼らは所持金が乏しく、船を調達するのは困難だった。タロが、残された宝石や里の貴重な品を使い、口の固い**船長**を捜し出した。
船長の名はカイセン。顔に深い皺が刻まれた老練な漁師で、彼らの素性を疑っていたが、タロの差し出した金と、昇月国への渡航という危険な依頼に惹かれて、船を出すことを承諾した。
「昇月国は、古い国だ。あそこへ行く船はめったにない」カイセンは、船の帆を張りながら言った。「妙な術を使うなら、海に放り出すぞ。この船は、塩の守護に守られている。嵐の雷より怖いのは、人間の霊力だ。」
ケンジは、船の狭い船倉で、雷剛を抱きしめ、琥珀の勾玉を強く握りしめた。彼の体内の力は、船の揺れと、周囲の海水の霊力によって、絶え間なく揺さぶられ続けていた。
「くそっ、まるで電気風呂に入っているみたいだ...!」
二日目の航海。水平線の彼方から、水と霧の霊力を纏った、三隻の高速艇が接近してきた。
「海賊よ!昇月国への航路を荒らす、**霧の一族**だ!」リナが警戒した。彼らは、特殊な水遁術と、海上の地理を熟知した、荒くれ者の集団だった。
「金を置いていけ!さもなくば、海の藻屑となるぞ!」海賊の一人が、水でできた鎖を船に向かって放った。
「戦闘だ、だが水に触れるな!」タロは、炎の精針を、海賊たちが繰り出す水の鎖の根元に向けて放った。タロの火遁は、水に負けることなく、鎖を蒸気に変えた。
リナは、水面全体に霧の幻術を重ねて展開した。海賊たちは、自分たちの水遁術が作り出した霧と、リナの幻術の霧が混ざり合い、目標を見失った。
しかし、海賊たちの船長が、怒りに満ちた一撃を放った。
「水遁・大渦潮!」
船が、巨大な渦潮に巻き込まれそうになった。船長カイセンは、必死に操船するが、船は傾き、甲板に海水が打ち付ける。
「ケンジ、頼む!少しでもいい、風を!」タロが叫んだ。
ケンジは、船倉から甲板に飛び出した。彼の足元から、海水を通して紫電の霊力が流れ出す恐怖と戦いながら、彼は雷剛を空に突き立てた。
彼は、海ではなく、空中に向かって、制御された極小の紫電を放った。
パチッ!
その放電は、巨大な雷鳴にはならなかったが、空中の霊力を一瞬で歪ませた。その衝撃波が、海賊の船長の術を乱し、渦潮が小さくなった。
「この霊力...!?雷だ...なぜ水に落ちん!」海賊船長は動揺した。
その隙に、リナは幻術を解き、船長カイセンは残った霊力を振り絞り、船を渦潮から一気に離脱させた。海賊たちは、彼らの船足の速さに追いつけず、怒りの叫びだけが海に響いた。
数日後。船は、昇月国の海域に近づいた。周囲の海は穏やかになったが、そこには異様な光景が広がっていた。
空と海の間、昇月国の沿岸全体が、白く shimmering な結界に覆われていた。
「あれが...塩の結界よ」リナは、息を呑んだ。「昇月国は、外部からの霊力による侵入を拒む。特に、強力な元素霊力を持つ者を弾くわ。」
船長カイセンは、船を止めた。「これ以上は行けん。結界を越えるには、船を降り、自らの足で向かうしかない。霊力が強すぎる者は、結界に触れただけで弾かれるぞ。」
昇月国は、彼らの希望の地であると同時に、ケンジの覚醒した力に対する最初の物理的な拒絶を示していた。
ケンジは、雷剛を握りしめた。彼の体内の紫電は、結界の存在に反応して、さらに激しく脈打っている。
「錨を強く持て、ケンジ」タロが言った。「ここから先は、誰も入れない孤立した国の試練だ。」
三人は、小さなボートに乗り換え、昇月国の孤立主義の象徴である、塩の結界に向かって漕ぎ出した。




