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天翔への旅と、雷の血を拒む者

踊り子の街での潜入作戦から二十四時間。雷風行チームは、夜鴉一族よるがらすいちぞくが儀式を企てる**天翔の聖地てんじょうのせいちに向けて、旅を続けていた。期限は二週間。彼らの旅は、もはや調査ではなく、純粋な競走きょうそう**となった。

天翔の聖地は、霊的な力が強く、厳格な孤立主義をとる中立国の山脈にある、古い寺院だとリナは特定した。彼らは目立たないよう、霊力を最小限に抑えて移動する。

道中、三人は休むことなく修行を続けた。

タロは、手のひらに炎を凝縮させる練習に没頭していた。彼は、このままでは影守かげもりに再び敗北することを理解している。彼は火遁かとん術を、熱量だけでなく、影守の闇遁やみとん術に対抗するための、光と霊力の緻密な刃へと変えようと試みていた。

リナは、疲労がピークに達していても、霊力の波を広範囲に広げ、数百メートル先の追跡者の有無を感知する広域感知幻術の修行に時間を割いた。

そしてケンジ。彼は、雷剛らいごうを担ぎ、ひたすら**「制御された衝動」**の再現に集中した。師の犠牲という重荷が、彼の力を暴走させる。彼は、怒りでも悲しみでもなく、クロ先生の遺志という冷静な意志だけを力に変えようともがいていた。

「違う、ケンジ!力じゃない!意識だ!」タロが、修行の合間に叫ぶ。「お前の衝動は、感情に左右されすぎている。雷剛が熱を帯びる瞬間、霊力を流す前に、一瞬静止しろ!」

ケンジは、汗だくになりながら、雷剛を振り下ろす。彼の体術たいじゅつの動きに、タロの緻密な霊力制御の理論が加わり、少しずつ形になっていく。

数日後、彼らは天翔の聖地へと続く山道の麓にある、古い孤立した村にたどり着いた。村全体が、静かで、強大な封印の霊力に包まれているようだった。

村の中心で、彼らは一人の老婆に出会った。彼女は、質素な白い法衣を纏い、背筋を伸ばし、その瞳は全てを見透かすかのように鋭かった。彼女は、彼らが近づく前に、杖を地面に突き立て、静かに言った。

「...止まりなさい。あなたの中に宿る、恐ろしい**破壊の霊力はかいのれいりょく**よ。」

老婆は、忍者の装束を脱いだ旅人の姿のケンジの中に、嵐の心臓、つまり紫電の血脈の存在を、即座に見抜いたのだ。

「何者だ...」タロが警戒して印を結んだ。

「私はこの山を守る、封印の術師ふういんのじゅつし。そして、あなたの中に宿る力は、古代よりこの地で禁じられてきた、災厄の雷だ」老婆は静かに言った。「雷神のらいじんのうつわよ。あなたをこの聖地へ通すわけにはいかない。その力が目覚めれば、世界は再び混沌に呑まれる。」

「止められるとでも言うのか!」ケンジは思わず反発し、雷剛に手をかけた。

「止めます」老婆は静かに断言した。「あなたの力は、制御できない暴走の雷。私はここで、その力を永遠に封印するか、あなたを無力化する。」

タロとリナは、戦闘態勢に入った。老婆の霊力は、影守のような攻撃的なものではないが、重く、純粋で、彼らの霊力を押し潰すほどの圧力を放っていた。

「待て」ケンジが、二人の前に出た。彼は、雷剛を地面に突き立て、戦いを拒否した。

「俺は...あんたとは戦わない」ケンジは言った。「あんたが恐れているのは、俺の力だ。破壊そのものだ。だが、俺はもう、ただの暴走する怪物じゃない。俺は、もう大切なものを失った。これ以上、誰も傷つけたくない。」

そしてケンジは、老婆に対して、自分の意志を証明することを決めた。

彼は、静かに目線を閉じた。胸の中で荒れ狂う紫電の衝動を、怒りでも悲しみでもなく、クロ先生への誓いに変えた。

彼は、意識を雷剛の先端へと集中させた。彼の体内を巡る紫電は、彼の肉体を通って雷剛へと流れ込む。

チィィィン...

音が消えた。雷剛の先端に、完全な静止を保ったまま、掌大の紫色の雷の球が凝縮した。それは、破壊の輝きではなく、澄んだ、純粋なエネルギーの輝きだった。

ケンジは、その制御の証明を老婆に向かって放った。それは、攻撃ではなく、彼自身の霊力を、完全に制した状態でのデモンストレーションだった。

紫電の球は、老婆の足元の地面に触れ、音もなく消えた。周囲の岩や草木は、全く傷ついていなかった。

老婆の鋭い瞳が、初めて驚きに見開かれた。

「...力は...破壊ではない。制御か。その制御は、単なる技術ではない。それは...魂の意志だ」老婆は杖を下げた。「その力は、あまりにも危険だが...あなたは、それを受け入れた。そして、守りたいものがある。」

老婆は深いため息をつくと、懐から小さな、琥珀色の勾玉を取り出した。

「私はあなたを封印することはできない。その力を破壊する術は、あなた自身の中にしかない」老婆は勾玉をケンジの手に置いた。「この勾玉は、太古の術師が力の暴走を抑えるために使ったもの。あなたの嵐の心臓を、肉体に**繋ぎ止めるいかり**となるでしょう。制御の糸口を、失わないように。」

ケンジは、琥珀の勾玉を握りしめた。師の犠牲が、彼を怪物から、運命を担う器へと変えたのだ。

「ありがとう...」ケンジは深く頭を下げた。

彼らは、老婆の助言と、新たな霊力の錨を得て、天翔の聖地の険しい山道へと足を踏み入れた。

決戦の地は、目前だ。

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