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踊り子の街の闇と、潜入開始

踊り子の街の喧騒は、夜になると、さらに熱を帯びる。巨大な富と、その裏側に隠された闇が交錯する場所。夜鴉一族よるがらすいちぞくの闇オークションは、街の最も豪華な一角にある、城塞のような邸宅で行われていた。

「準備はいいわね」リナは、安物のドレスを着て、髪を上品に結い上げていた。彼女の霊力チャクラは、周囲の華やかな霊力に紛れるよう、極限まで抑制されている。「私たちの目的は、情報よ。戦闘は極力避ける。先生の犠牲を無駄にしないで。」

タロは、高価な旅人の装束に身を包み、自信に満ちた富豪の若者を装っていた。その表情には、もはや里のエリートの傲慢さではなく、任務を遂行する者の冷静な覚悟が宿っていた。

「俺は、上層階の客たちの会話から、競売の品と夜鴉一族の繋がりを探る」タロが言った。「ケンジ、お前の役目は、俺たちの影だ。霊力抑制を絶対に破るな。」

ケンジは、派手な服を着たタロのボディガードという設定で、頭から分厚いフードを被っていた。彼の背中には、**雷剛らいごう**が布で何重にも巻かれ、ベースギターケースのような形で背負われている。

「わかってる。今回は...俺の力ではなく、俺の意志で戦う」ケンジは、そう決意していた。師の死が、彼の力を暴走させる恐怖を植え付けたが、同時に、その力なしでは何も守れないという真実も教えてくれた。

彼らは、リナが幻術げんじゅつで作り出した偽の招待状と、盗み聞きした合言葉を使って、警備を突破し、邸宅内部へと潜入した。

広間は金と光に満ち溢れていたが、その空気は重く、影守かげもりの霊力を彷彿とさせる闇の霊力が、会場の隅々まで行き渡っていた。

リナは、広間の喧騒に紛れ込み、すぐに**分散行動ぶんさんこうどう**に移った。彼女は裏の通路へと向かい、警備の裏側を探り、邸宅の通信中枢を探し始めた。

タロは、自信満々にシャンパンを片手に、金持ちの客たちの中に溶け込んだ。彼の鋭い霊力感知は、人々の会話の断片から、重要な情報を拾い集めていった。

「...競売の品は、古代の祭壇さいだんの破片らしいぞ」タロは、ケンジに聞こえるように低い声で囁いた。「夜鴉一族は、それを集めている。どうやら、**禁忌の召喚術きんきのしょうかんじゅつ**を完成させるつもりらしい...」

ケンジは、広間の隅で壁にもたれかかり、神経を集中させていた。彼の役目は、霊力の暴走を抑え、タロとリナを待つこと。それは、彼の性分に最も反する、忍耐の修行だった。

その時、ケンジの霊力経路が、警鐘を鳴らした。

広間の二階のバルコニーに、一人の忍者が現れた。彼はカラスの仮面も、影守のような漆黒の装束も纏っていない。代わりに、顔には、青雲の里の忍者のそれとは異なる、観測用の複雑な文様の仮面をつけていた。

男の視線が、ケンジのいる広間の隅に、ピンポイントで向けられた。

「あいつだ...」ケンジは心の中で呟いた。彼の体内の**紫電しでん**が、危険を察知して激しく脈打ち始めた。

男は、監視者かんししゃだった。彼の霊力は、攻撃的ではないが、非常に緻密で、周囲の霊力のわずかな乱れも見逃さない。彼は、ケンジの布に包まれた雷剛と、その奥に隠された嵐の心臓の存在を、確実に感じ取っている。

ケンジは、全身の筋肉を硬直させ、力ずくで紫電の噴出を抑え込んだ。

「抑えろ...抑えろ...!」

彼の血脈は、力を解放しろと叫んでいる。しかし、もしここで紫電を解放すれば、オークション会場全体がパニックに陥り、タロとリナの作戦が失敗するだけでなく、影守を呼び寄せることになる。

それは、ケンジと、監視者との間の、無言の精神戦だった。

ケンジは、師の教えを思い出した。衝動ではなく、意志。彼は意識的に紫電の衝動を雷剛の金属の中へと流し込み、地面へと分散させた。

バチッ

一瞬、雷剛の布の下で、微かな紫電のスパークが走ったが、それはすぐに消えた。

監視者は、顔の文様が刻まれた仮面の下で、わずかに首を傾げた。彼は、確実に巨大な霊力を感知した。しかし、その霊力は、すぐさま完全に消失した。まるで、存在しなかったかのように。

監視者は、戸惑いながらも、再び視線を会場全体に移した。ケンジは、冷や汗を流しながらも、その場に立ち尽くした。

「ケンジ!情報が入ったわ!」リナからの微かな幻術による伝達が、ケンジの脳内に届いた。「奴らは、天翔てんしょうの聖地にある古代寺院で、儀式を行うつもりよ!それが、嵐の心臓を完全に覚醒させ、制御するための場所だわ!」

そして、タロが素早く合図を送った。

「撤退だ。これ以上は危険だ!」

ケンジは、雷剛を背負い直すと、タロと合流した。彼らは、リナが仕掛けた小さな幻術の混乱に乗じて、邸宅の裏の**逃走経路とうそうけいろ**から素早く脱出した。

夜の踊り子の街の屋根の上。三人は、息を整えた。

「聖地...儀式...」タロが息を切らしながら言った。「奴らは、本当にケンジの力を、何かの道具にしようとしている。」

「天翔の聖地よ。それは、中立国にある、古代の霊力が最も強い場所だわ」リナは、手に入れた巻物を握りしめた。「儀式までの時間は、わずか二週間。私たちには、時間がない。」

ケンジは、雷剛の重みを強く感じた。師の犠牲を乗り越え、彼はついに敵の計画を知った。これは、もはや逃避行ではない。それは、決戦へのカウントダウンだった。

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