第1年後編 第Ⅳ話 生徒会演説会
「選挙結果出たぞー」
選挙管理委員達が当選者表を貼り付けた。次々と集まる生徒達に、俺らも混じっていた。
信任選挙で加藤は会計、愛媛は副会長に就任、そして会長は…。
1週間前の選挙当日。あとは会長立候補者演説のみの時間だ。
朝山の応援演説者は近藤 蒼。朝山と同じクラスの男子生徒で去年から仲がいいやつだ。
近藤が前に出て演説台に立った。
「私は朝山君こそ会長に相応しいと思います。彼は私とクラスが同じで、去年もそうでした…」
応援演説者の大事なことは2つで、なぜその人がその役職に相応しいのか、そしてその人を信頼していいのか表すということ。応援演説者は投票をする生徒にとって心理的な影響を及ぼす。例えば、普段の学校生活では良い印象を持たない生徒がいるとしよう。おふざけを抜けばそんな人に投票する人は少ないだろう。ただし、応援演説者がその人の良さを示せば興味は湧くはずだ。
勝利の決定打を出せるわけではないが、応援演説があるからこそ立候補演説の良さが出る。
とはいえ、この例はとある条件が必要なのだ。
人選である。
学校で人気者な生徒が応援演説をすれば、立候補者への興味は一気に上がる。嫌われている人でも、あの応援演説者があんなに推薦しているなら投票しても損はないのではと思える…かもしれない。
勝利の決定打を出せるわけではないと語ったが、逆の敗北の決定打を応援演説者は出すことができる。しかも人選という理由でなのだ。
また、前の応援演説者の方が印象が大きい場合、既に敗北は決定するのだ。
「以上のことから、私は朝山君こそが会長に相応しいと思います!ご清聴ありがとうございました!」
説明している間に近藤の応援演説は終了したが、この応援演説はグッドだ。ハキハキして前を向いてしっかり喋る。基礎はパーフェクトだが、印象には残りづらい。淡々と話されても面白味もなく聞く側は睡眠状態へと入ってしまう。
ついに朝山の出番だ。
「みなさん。こんにちは。生徒会会長に立候補した朝山 隆介です。6限目なこともあり、みなさんも眠いと思いますので1分以内に終わらせてみせます。さて、この高校は長らく他校との交流は避けていました。ですが、どうでしょうか。他校との関わりがないなら、もしゼーレヴェなバグラチオンのような他校が攻めて来た場合、技術は対抗できるでしょうか。そこで、私は他校と外交を活発化し、他校から訓練などを模倣するようにします。そうでなければ、我々の青春は脅かされる毎日となるでしょう」
会長が実現を目指す目標は"公約"と呼ばれ、この公約が重要な一票を変え当選への道になるのだ。一番生徒が待ちに待っているのはこれである。
この朝山の演説に耳を傾ける者もいれば、寝ている者もいる。正直なところ、この平和ボケている学校に軍事関係を話そうなど無駄だったのかもしれない。だが、運命のこの瞬間、高峰はそれどころじゃなかった。そんなことは考えられず、ただ自分自身のことを考えていた。
「以上、私の演説を終わりにします。ご清聴ありがとうございました」
ついに来た。俺達の出番だ。
舞台に現れる天城。その姿に騒つく。当然ながら彼女はクラスの人気者であり、男女問わずモテていた。
「みなさん、こんにちは。生徒会会長立候補者の応援演説に志望した天城 汐恩です。私は高峰君こそ、会長に相応しいと思います。私は彼の幼馴染であり、昔から彼を良く知っています。その優しさで、今の私はここに居ることができていると感じています…」
幼馴染というのは信頼できる。昔からの姿を見てきて、どんな人間だったが、どんな性格だったがも語ることができる。つまり技が増え戦略も広がるわけだ。
「ご清聴ありがとうございました」
応援演説が終わると、俺の番がやって来た。
「みなさんこんにちは。生徒会会長に立候補した高峰 眞木です。私が会長になったら、まず全体的に校則の改変を行い、そして本校を番組への出演を目指します」
俺は軍事に一切関わらない演説をした。
原稿作成中、俺はこの学校に来た初日を思い出した。
中学では陰キャだった俺はカースト的には一番下だった。だから、高校デビューをしてみようと生徒会に入り副学級委員長にもなった。でも、生徒会は想像と比べてずっと忙しいし仕事も複雑かつ重要なものばかりで、思っていたのと違うという気持ちがあった。きっと、これを経験したのは俺だけじゃないはずなんだ。同じことを考えていた同級生や先輩もいるはず。共感できるというのなら、清き一票を入れてくれるはずだと信じた。高校受験で目指していた"自由"は、まだ消えていない。自由は味方、校則改変こそ自由への一歩なんだ。
番組の出演は、叶うことなら叶ってほしい。番組に出るなんて、みんなの夢だもの。これは全生徒が耳を傾ける言葉だ。それに、高校生活で番組に出てみたいなどの声も聞いたことがある。
「ご清聴ありがとうございました」
あっという間に終わった。体育館に響き渡る拍手と生徒たちの顔に安心した。
選挙終了後、応援演説者と立候補者の集合体も写真を撮影した。
「はいチーズ」
川門先輩がカメラのシャッターを押す。
この集合写真は、学校の歴史に刻まれた。
「やったー!」
掲示された選挙結果発表を見て、俺は喜んだ。
[生徒会会長 高峰 眞木]
「俺の負けだ。高峰」
「朝山…その…」
「謝らないでくれ。俺の内容がいけなかった。お前の演説を見て、俺はこの高校に入った時を思い出したんだ。高校はどんな場所なのかわからないまま、ワクワクして楽しみだった。だが、実際は不自由なこともあって、生徒会も忙しくなってその気持ちを忘れていた。ありがとう高峰。思い出させてくれて」
「…朝山!」
俺は朝山にハグをした。
「ちょっ…おいおい。ここで抱きつくんじゃない。変な目で見られるだろう?」
その光景を見ていた愛媛、加藤、近藤、天城、石井、村瀬、安芸も幸せな表情をした。
カシャリと、川門がその瞬間を撮影したのだった。




