028 明けましておめでとう!
「なんか海、行きたくない?」
「「嫌だ」」
一拍置いて二人仲良く答える。
これがあれか、反抗期に悲しむ母親の気持ちか、とカノンは経験したことないであろう母性を感じていた。
「なんでよ!もうすぐ新年よ、新年」
こたつの中でバタバタと足を振るカノン。
ノエルが若干嫌そうな顔をしているが本人はお構いなしだ。
「サーナとの戦いから、まだ顎が痛ぇんだよ」
「私もまだ切傷が治っていなくてな。寒さが響くのだ、すまんな!」
「ちぇー、なんだよ!みんなで仲良くワイワイ楽しく海まで冒険したかったのに!」
「いいさ、いいさ!そうやって、こたつでぬくぬくしとけばいいさー」
「ったく、めんどくせぇな。拗ねんじゃねぇよ、赤子か」
「……ふんっ」
「こりゃ、本当に拗ねてやがるぞ」
「うむ、重症だな」
コソコソと2人で話し合う。
行くか、行かないか。それは今後の活動を始める日を決める重要な選択だ。
行けば傷の治り具合から考えてあと一週間は掛かる。
対して、行かなければ4日後には活動を開始できるだろう。
正直、年末年始でなまった身体を動かしたい気持があるのは山々だ。
「どうする、行くか?私は行ってもいいぞ!」
「めんどくせぇってのは理由になるか?」
「うむ、認めよう!」
「じゃあ、行きたくねぇ」
だろうな……。アリスはそれを聞いてしみじみ思った。
ここ周辺に海はない。見に行くなら3時間は歩かなければ行けない。普通に寒い、できれば行きたくない。
「てか、こいつの瞬間移動使えばよくねぇ?」
「こたつは重いから、魔力消費量が半端ないから嫌だ」
「お前、魔力消費量とか気にすんだな」
「……うん」
「絶対気にしたことないだろ」
「だって!私はみんなと今年1年をゆっくり語りながら、綺麗な景色を見たかったの!」
「子供か」
むー、と頬を膨らませるカノン。
2人は察する、これは長引くと。
「そんな語れるほど、知り合ってから時間かかってねぇだろ」
「でも、語るほどの濃い思い出はあるじゃん」
「それはそうだな!」
「む?そういえば!」
何かを思い出したらしいアリスは思いっきりこたつから起き上がる。
いつもは結んでいる髪をを今日は下ろしている。
ひらりと揺れる髪からいい匂いがふわりと香る。同じシャンプー使ってるはずなんだけどな、とカノンは疑問に思った。
「……この使用者によって匂いが変わるのってなんなんだろうね」
「む?何を言っているのか分からないが__」
「って、そうではなくてだな!今から海に行くと時間がないのではないか?」
時計をみると夜の23:50を超えていた。
「おっかしいなぁ……。私の体内時計では18:00のはずなんだけど」
「一回診てもらえ、お前の体内時計」
「しょうがない、ここで語るかー」
「語れる程の事があるならな」
「……まさか、アリスが勝つとは思わなかったな」
「めちゃくちゃ最近の事じゃねぇか」
「それは酷くないか!まぁ、ワイトキングの助けもあるが」
「だって、あのプランだよ!?始まる前とかアリス死んだかと思ったもん」
「失礼だな!」
「葬儀場、良い所紹介してもらおうとか思ってたよ」
「失礼すぎるな!」
「ノエルは惜しかったね。ていうか、負け方ダサかったね」
「言うな」
「あんだけ激しい戦闘繰り広げといて、ただのグーパンで負けるとか……ププッ」
「よし、回復したらカノンvs他4人な」
「4人って……」
「サーナ、プラン、俺、アリス」
「弱いもの虐めッ」
「……」
「もう語り合うネタ切れてんじゃねぇか」
「だって会ってからまだ1年もたってないしね」
「だから言ったではないか!」
「「「「10.9.8.7__」」」」
「もうあと少しで明けるのか!早いな!」
「ほら言ったじゃん!語り合えてたでしょ」
「10分もたたないうちにネタが切れてたのは誰だよ」
「「「「3.2.1__!」」」
「明けましておめでとう!」
「あぁ、おめでとう!」
「おめでとう……」
その瞬間、カノンがパチンッと指を鳴らした。
一瞬で周りの景色が変わる。
「__あれ?」
3人の目に映るのは綺麗な初日の出ではなく、真っ暗な海だった。
「そりゃあ、こんな真冬の00:00に太陽が昇るわけねぇだろ」
「当たり前だな」
「えぇ?!じゃあ、言ってよ」
カノンの顔がみるみる赤くなっていく。
「こたつは重いからやりたくなかったんじゃねぇの?」
「……2人と今年初の思い出を作れるならいいかなって思ったの」
「__いいではないか」
まだ寒い海に人の姿はなく、つんざくような寒さが3人を襲う。
真っ暗な中、海の音だけが辺りを包み込み、息が白く昇る。
誰もいない、視界には海と浜辺とこの3人だけ。
決して綺麗な景色とは言えないが例えられない安心感があった。
「私は好きだぞ」
「まぁ、思い出にはなったわな」
「まぁ、計算通り?」
「嘘つけ」
「……今年もよろしくね!」
「「こちらこそ!」」
またもや一拍置いて二人仲良く答えられたが、最初のような寂しさはなく、嬉しさが込み上がってきた。
「じゃあ早く戻ろうぜ、さすがに寒い」
「こたつもコンセントが抜けているからな」
「え、もうちょっと楽しまない?」
「「絶対に嫌だ」」
明けましておめでとうございます!
今年もこの作品をお願いします!




