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01 出会い


 先程までの、最悪な気持ちを晴らすような、雲一つない晴天の光芒がカノンを照らす。

 優しい風が頬を撫で、春の匂いを運んでくる。


 カノンが向かう冒険者ギルドは、大通りの真ん中に位置している。

 大通りの騒がしさにも負けない、威圧感を感じさせる大きさは、異様な空気を纏っていた。

 教会よりも大きい建物は、ここと王城ぐらいだろうか。


 もう、何度見たかも分からない、カノンの身長の倍以上ある大きな扉の取っ手に手を掛ける。


 キィィィ……。

 甲高い金具の擦れた音が、カノンの耳をつんざく。大きさとは裏腹に簡単に扉が開いた。

 一体なんの素材を使えば、この大きさでこんなに軽く仕上がるのだろう。

 創作者は相当な技術者だと推測できる。


(いつか会ってみたいな)


 初心者冒険者が毎年、力の入れすぎで前に倒れるが、毎年となってくると、もはやギルドの醍醐味だ。


 カノンは元々の力が弱く、前に倒れなかったので他の冒険者から一目置かれていたりする。

 __カノンは知る由もないが。


(新人の頃は、貧弱な私でも開くもんだから、びっくりしたんだっけ。 懐かしい……。)


 もう、はるか昔のように感じる思い出に、カノンの口角は少し上がっていた。

 しかし、追い出された記憶が脳を駆け巡る。

 途端、カノンの口角が一気に下がった。


「さっきから、ニヤけたり落ち込んだり。 表情筋が大変そう」


 背後から声が聞こえたと同時に、視界に現れた細く、白い腕。

 次に背中に感じる、柔らかさと温かさ。


「私の背後を取るとはやるね、プラン。 久しぶり。 ダイエットはうまくいってる?」

「うふふ。 それ以上言ったら、頭と胴を引きちぎるわよ」


 後ろから抱きつかれたのにも関わらず、冷静に対処するカノン。

 その表情は呆れている様に見えるが、言動から二人が親しい仲であることがわかる。


 「あら、今日はドゥラーク達と一緒じゃないのね」

「それが実は……」


 つい先程起こった事をプランに説明する。

 ダンジョンで何もしていないと言われた事、馬鹿にされた事、 カノンがいなくなって清々すると言われた事。


 話している最中、カノンの中で閉じ込めていた感情が一気に押し寄せてきた。


(泣きそう。でも、ここで泣いたらあいつ(ドゥラーク)の思うつぼだ。泣かない、私は泣かない__っ!)


 そう自分に言い聞かせるカノン。

 涙こそ出ていないものの、拳には力が入り、声は震え、顔は下を向いていた。

 カノンが泣きそうだなんて、一目見ればわかった。


「私、パーティー初期の頃から邪魔だったのかな……」


「そんなことないわよ!貴方の魔法の才能を超える人なんていないわ!」

「知ってる」


「ドゥ、ドゥラークもバカね。 カノンを手放すなんて」

「本当にそう」


「っ、カ、カノンほど努力家で魔術の学びに熱心な人なんてそうそういないのに!」

「この世に私一人だけだろうね」


「……貴方、本当に落ち込んでる?」

「この上なく」


 カノンの自己肯定感の高さは今に始まったことではないが、こんなに落ち込んでいても下がらない肯定感を持つ人はそうそういないだろう。


「本当そういう所、今も昔も変わらないわね」

「褒め言葉としてうけとって__」


(あれ……?私ってプランといつ出会ったんだっけ)


 思い出しうとしても、頭のなかに霧が掛かったみたいに思い出せない。


 ズキン。

 無理矢理に思い出そうとすると頭に鋭い痛みが走った。


「痛っ」

「大丈夫?」


「ねえ、プラン。私達っていつ__」


 出会ったんだっけ。その一言をカノンは飲み込んだ。

 聞かないほうが良い、とカノンの勘が発する。


「何でもない。 それよりもさ、私ソロで活動しようと思うんだけど、どう?」

「……?そうね、貴方魔法は申し分ないけれど解体作業とか地図とか持ち物とか絶望的じゃない。 ソロはやめておいた方がいいんじゃない?」


「パーティー、か」

「抵抗があるなら、多少リスクはあるけれどソロ活動でも否定しないわ」


 プランの優しさが、カノンの傷ついた心を癒してくれる。

 確かに、ソロ活動の方が迷惑をかけないかもしれない。

 でも__このままソロでやっていくのは、あいつらにトラウマを植え付けられたようで、カノンの意地が……矜持が許さなかった。


「やっぱり、メンバーを募集しようと思う」

「……!それじゃあ張り切って募集するわ!このスーパーエクストラギルド嬢に任せなさいっ!明後日にでもギルドに来て頂戴」


 100人ほど来ても恨まないでね、とカノンに豪語するプランの笑顔は輝いていた。



 * * *





 そうして迎えた二日後。

 集まったメンバーは__二人だけだった。


(おい! スーパーエクストラギルド嬢! なぁにが100人だ! 二十分の一にも満たないんだけど!)


 心の中で文句を言ってもどうにならないので、カノンは冷静に二人を観察する。


 一人は星を閉じ込めたかのような金の髪に、吸い込まれそうなエメラルドの瞳。

 ずっと見ていたくなる程の美少年、女には困らなさそうな顔をしている。

 背筋も伸びていて、立ち振舞も優雅だ。


(天使族かな……。 優しさの象徴にしては眉間に皺がよりすぎじゃない?)


 もう一人は、春を表現したかのような淡い桃色の髪を高めにひとくくりにしている。

 瞳も髪と同色、のはずだが……目に宿る力強さで違う色に見えた。

 身長は120センチ程。

 本人は自覚していないだろうが、カノンとの身長差で上目遣いをしている。


(この身長はドワーフとしか考えられないよな……。でもドワーフだとは思えないぐらい華奢だ)


「今日は募集に応じてくれてありがとうございます。 どうぞ、席に」


「うむ!失礼する」

「チッ__気遣いが遅ぇんだよ。 あくしろや」


「……え?」


 これが後のカノンが語る、人生最大の出会いだった。

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