00 プロローグ
ドォォン!ドォォン!ドォォン!
どこからともなく聞こえてくる、けたたましい爆発音。
度重なる爆発とその衝撃で、迷宮の天井から石屑がパラパラと落ちてきた。
辺りに広がる煙と血の不快な匂い。
しかし、発生源である当の本人達は気にした素振りもなく、ただ淡々と敵を倒している。
__ように見えるが一人だけ、明らかに鬼気迫る表情をしていた。
「はぁ__なんであんな考え無しに、敵に飛びかかるかな」
通った鼻筋に、夜空を閉じ込めたのかと疑う程の深い紫の瞳。
穢れを寄せ付けないかのような純白の髪は艶めいており、いっそ銀にも見えた。
それなりに整っている顔立ち。しかし、今はその顔に影が差し、眉間にはしわが寄っていた。
カノン・ノンスリアム。年齢は十八。冒険者ランクはA。
世界に五組しか存在しないAランクパーティー『蒼天の嵐』、唯一の魔術師。魔力の色は黃。
この世界の魔術の威力は、込める魔力量、イメージ力、魔術式、そして魔力の"色"で決まる。
赤は攻撃特化だが、支援力は0に等しい。
逆に、緑は支援特化だが、攻撃力が0に等しい。
最後黄色は赤程の攻撃力を持たないし、緑程の支援力も持たないが、どちらも使いこなすオールラウンダー。
この三色で成り立っている。
だがしかし、カノンは赤をも超える攻撃力を持ち、緑をも超える支援力も持っている。
まさに、天才魔術師。
彼女も自分は才能に溢れていると自負していた。
魔術師として最高の才を持つ私なら、何もかも上手くいくだろう。そう、思っていた。
* * *
「よし、全て片付いたな。今日の任務は達成だ。ホームに戻るぞ」
「「「「了解」」」」
リーダーの判断に残りの四人全員が、同時に了解の意を示す。
各々、倒したモンスターの魔石を取り出し、皮や肉などを持ち帰りやすいように解体していく。
カノンも自分の解体分に取り掛かるが、ナイフを入れた瞬間、辺りに嫌な鉄臭い匂いが込み上げてきた。
(血生臭い……。この作業はきっと一生慣れないんだろうな)
そう思いながらも、初めてではないので黙々と作業を進める。
しかし、カノンが一体分の解体を終わらせる頃には、他のメンバーは既に二体は終わっている。
最終的には自分は半分の量も終わらぬまま、仲間達は自分たちの分を終わらせていた。
負けじと手を動かすが、疲れと焦りで余計に遅くなった。
「カノン、活動場所に帰ったら話がある」
いつの間にか横に来ていたリーダー、__ドゥラークが話しかけてくる。
無理やり笑顔を貼り付けたかのような、引きつった笑顔だった。
「帰ったら、ですか?」
「あぁ」
「今ではダメなんですか?もう少しで解体が終わるので、それまで待ってくれれば__」
「この俺に意見するな。……その、あと少しの解体にどれくらいの時間が掛かるか、見ものだな」
含み笑いが聞こえたのでカノンは、顔を上げる。
さっきまでの作り笑顔は、見下した薄笑いに変わっていた。
(嫌な笑い方。私の強化魔術がなければ、こんな高レベルな階層ではすぐ死ぬのに)
馬鹿にされたままでは面白くないので、解体のスピードをあげる。
(魔術でやるとグチャグチャになっちゃうから、手でやるしかないだけで、きり刻むスピードはこの中で私が一番高いんだからな……!)
ザシュ、ザシュ。
そう、恨みを込めながら思いっきり突き刺しても、非力なカノンでは少ししか刺さらない。
魔法での攻撃力はとても高いが、物理的攻撃力は正直いって、ゴミカス。
それでも、少しずつ少しずつ解体を終わらせていく。
(あと三体……二体……一体!これで終わりっ!)
「ふぅ__。お待たせしました。それでは戻りましょう」
「チッ、お前のせいで遅れたのに、なんでお前が指揮ってるんだ。おい!帰るぞ」
忌々しそうに舌打ちをするドゥラークは、心底不機嫌そうだ。
ドゥラークが呼びかけた事によって、仲間達がぞろぞろと近寄ってくる。
『転移』
仲間達が充分に自分に近寄ったのを確認すると、転移魔術を発動させる。
血生臭く何もない殺風景なダンジョンから、一瞬で周りの景色が慣れ親しんだホームに一変した。
「さて、カノン。話なんたが……」
(その前に、解体が終わったこの素材置いてきちゃダメかな。すっごく血生臭い__)
「お前には、今日限りでこのパーティーを脱退してもらう」
「……は?」
全身に鳥肌が立って、背中に嫌な汗が流れる。
あまりの衝撃に咄嗟に言葉が出てこなかった。
「え?いやいやいや……。なんでですか、?私に劣ってるところなんてあります?」
カノンはすがるような目でドゥラークに問いかける。
だが、帰ってきたのは残酷な真実だけだった。
「劣ってる所がありますか、だと?劣ってる所しかねぇだろ笑」
喉元に刃物を突きつけられたかのような、頭を鈍器で殴られたかのような、そんな衝撃がカノンを襲う。
劣っている所しかない、そんな言葉がカノンの頭のなかに響いてその度に心を抉る。
「解体は遅ぇし、気も使えねぇ。運動もできなきゃ、剣も振れねぇ。ダンジョンでは何もせずに後ろで突っ立ってるだけ。正直言って"邪魔"だな」
「だからカノン、もうお前要らねぇわ」
カノンもカノンなりに頑張っていた。
解体は最初の頃と比べたら、精度もスピードも速くなっているし、本を読んで気遣いについて学んでいる。
運動は魔術でカバーすればどうとでもできる。
しかし、今はそんな言葉よりも、他の言葉がカノンの頭の中を彷徨っていた。
ダンジョンでただ"突っ立ってるだけ"?
「っはぁ〜?」
「なんだ?何か言いたいことでもあるか?」
勝ち誇ったかのように、ニヤニヤとドゥラークはほくそ笑んでいる。
(言いたいことでもあるか?ありすぎるっつーの。突っ立ってるだけ?突っ立ってるだけぇ?!)
カノンはこの一言に死ぬほどブチギレていた。
こんなパーティーが世界に五組しかいないAランクパーティーになれたのは、カノンのお陰だろう。
怪我をしないように全員にかけた強化魔術。
モンスターの動きを鈍らせる弱化魔術。
少しでも、怪我をすればすぐに回復。
個々によって掛けるバフも変えていた。
戦力の要となる剣士のドゥラークには、攻撃力重視のバフを。
それをサポートするアーチャーのハラナには、視力強化重視のバフを。
盾で敵を足止めするタンクのハルトには、防御力強化重視のバフを。
戦力にはなってないが、ダンジョン攻略には欠かせないシーフのマリンには、怪我をしないように速度強化重視のバフを。
こんな高度な芸当ができるのは世界でもほんの一握り……いや、両手に収まる程しかいないかもしれない。
(そんな事も分からない馬鹿についていてたのか、私は……?)
自分の見る目のなさに酷く落胆する。
反論しようと口を開けるが、喉に何か詰まって上手く言葉が出ない。
結果、何回も口をパクパクするだけで、言葉は出てこなかった。
正直、パーティー作成当時からいたので、思い入れもあったが、そんな気持ちは今の一言で綺麗サッパリ無くなっていた。
「どうした?口をパクパクさせて。魚か何かか?」
「……魚じゃありません。いいでしょう、お望み通り、このパーティーから私は抜けます。でも一つだけ」
「後悔すんなよ」
そう吐き捨てるように言ったカノンの瞳は、真っ直ぐドゥラークを捉えていた。
カノンの気迫に少々戸惑いつつも、ドゥラークは平静を装っている。
だが、動揺していることは一目瞭然だ。
「はっ、何を言うかと思ったら。後悔なんてするものか。逆に清々するわ」
悪意に満ちたその言葉と、仲間達の嘲笑を背中で聞きながら、カノンはホームのドアノブをつかみ、外に出た。
すれ違いさまに、フワフワした可愛い女子がホームに入っていった。
多分、あれがカノンの抜けた穴を担う人物だろう。
あまりしっかりとは見ていないが、圧倒的実力不足。
期待に満ちた表情をみて、少し同情はするもののそこまで気には留めなかった。
(さて、もう足枷もなにもない。これから何をしようか)
そう考えるカノンの足は不思議と、冒険者ギルドに向かっていった。
1/23大幅な書き換え一回目!
次の話はいつも通り来週の金曜日です。
初めてこの作品を読んで次の話を読もうとしている人は注意です。
ストーリーはそこまで変えてはいないてすが、進み具合や書き方が全く違うので、できれば来週の金曜日まで待ってくれると嬉しいです。
これからもこの作品をよろしくお願いします!




