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41:ムジークの町

 レゾの町を出てお昼まで、まったくモンスターのモの字も見なかった。

 まぁモンスターの多くが夜行性だし、日中に活動する連中もこんな開けた場所には滅多に出てこない。


 昼食は街道脇の木の下に敷物を敷いて、そこでランチタイムだ。

 

「なんだかのどかねぇ」

「まぁ地上のモンスターは、だいたい夜行性だからね。そうでないモンスターだって、たいはんは森や山の中だし」

「そ、そうね。早く食べてしまいましょう」


 うぅん、ルナの態度がどことなくよそよそしい。

 それにしてもアレ、本当に全部食べるんだろうか?

 大食い自慢の大人でもないと、完食するのは難しいと思うんだけど……。

 実際、三割ほど食べてから口に運ぶスピードは遅くなってるし。


「にゃー。ルナ、お腹満腹にゃか? おいにゃ代わりに食べるにゃよ」

「にゃび、お前自分の分はもう……まだ食べられるのか?」

「余裕にゃ~」

「にゃ、にゃびはなんて言ってるの?」

「うん。ルナのそのパン、にゃびが食べたそうにしてる」


 それを聞いたルナの表情が、パァっと明るくなった。

 やっぱり食べれないんだな。


「にゃび、食べたかったらこれ、あげるわ」

「うにゃ~」

「良かったなにゃび。ありがとう、ルナ」

「べ、別にお礼なんて言われる筋合いないわよ」


 そう言ってルナはそっぽを向く。顔が赤い。

 熱はなかったし歩いてる間は特に何もなかったけど、本当に大丈夫かなぁ。


 にゃびが大盛サンドをペロリと平らげた後、しばらくして俺たちは出発した。

 陽が暮れる前に町へ到着しないと、こののどかな街道も危険になる。夜になればモンスターが街道にも近づくからだ。


「地図だと右の道ね」

「この先は街道から逸れるし、森に近いから周囲に気を付けよう」

「警戒にゃら任せるにゃ~」


 そう言ってにゃびは俺の肩にするするっと上った。

 そこで見張るってのか。



 



「右奥の茂み」

「にゃ~」


 街道を逸れて暫くすると、小さな林道にでた。

 するとさっそくだ。

 耳のいいルナがモンスターの足音を察知して知らせてくれる。


 警戒していると、現れたのは角を持つ狂暴な兎──ホーンラビットだ。

 それが五匹、地面を蹴って飛び跳ねる。


「"プチ・ファイア"」


 動きの素早いホーンラビットだが、俺の火球はそれを追いかける。

 にゃびの素早さは奴らを圧倒し、ルナの矢はホーンラビットの動きを先読みして確実に命中させていく。

 ほとんど一瞬だ。

 元々そう強くもないモンスターだけど、以前の俺なら一匹相手でも勝てるかどうか怪しいところだ。


 ステータスボードを手にして、随分と強くなったな。

 でも、自分の力に自惚れないようにしないとな。


 林道を抜けるまでにもう一度、ホーンラビットが現れた。

 それも片付け、林道を抜けると遠くに町が見える。


「あれかな? ブレンダの故郷は」

「地図だと他に町はないようだし、そうだと思うわ」

「今日はあの町でご飯にゃ~」


 夕日が沈む前にブレンダの故郷、ムジークの町へと到着。

 彼女の家の番地は、冒険者ギルドで教えて貰っている。

 町の人にその場所を聞きながらやって来たのは、狭い路地にあった小さな店だった。


「そういえば、ブレンダのご両親は商売をしてるって聞いたな」


 ダンジョン攻略時にそんな話をしていた。

 商売は上々。支店もいくつかあって、従業員も大勢――。

 ブレンダが話していたような店には、とても見えない。

 看板は色あせ傾いているし、窓ガラスはヒビが入ったまま。

 見栄っ張りな彼女のことだから、全部嘘だったんだろう。


 ブレンダはずっとお金を貯めていた。

 お金を実家に届けてくれって、死に際に俺に頼んだ。

 きっと……彼女の見栄は、希望だったのかもしれない。


「ねぇ、二人とも。お願いがあるんだ」

「うにゃ?」

「な、なに?」


 店から少しだけ離れた場所で俺は話す。


「事情は俺から話す。二人は俺の話に、合わせて欲しいんだ」


 そんなお願いをした。

 二人が頷くのを確認し、それから店内へと入る。

 薄暗い店内は雑貨屋のようだけど、こんな路地裏のお店じゃお客も来ないだろう。


「すみません。どなたかいますか?」

「にゃ~」


 お店だというのに店員がいない。

 暫くして小さな男の子が出てきた。


「はい、何かお探しですか?」


 この子がダスティなのかな。


「ごめん。俺たちは客じゃないんだ。ブレンダの──」


 そこまで言うと、男の子はパァっと表情を明るくしてカウンターから出てきた。


「お姉ちゃんの仲間なの! ねぇ、お姉ちゃんは!?」

「あの……お父さんか、お母さんはいるかい?」

「うんっ。待っててねっ」


 あの子に「お姉ちゃんは死んだんだ」って……言えるわけがない。


「うにゃぁ」

「にゃび……ありがとうな」

「辛い、わね」

「うん。あの子にはね……。でもご両親にはちゃんと話さなきゃ」


 やがて出てきた中年の夫婦は、何かを察したように悲しい表情を浮かべ、俺たちを招き入れてくれた。

 その際、母親が男の子を──ダスティを連れて外へと出ていく。


「息子には、近くに住む義母の所に……」

「そう、ですか。その方がいいと思います」


 いつかは伝えなきゃいけないだろうけれど、それは今でなくてもいい。

 暫くして母親が戻ってきて、二人にブレンダの死を告げた。

 

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