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第8話 肉好きの若者が、老人の弟子と出会う話。

ある日、いつもよりもかなり遅く、老人が外出から帰ってきた。

肉に擦り込む調味料の調合を続けながら、おかえりなさい、と声をかける若者に、うむ、と軽く手を上げて返す老人。

遅く帰ってきたからか、多少疲れた様子だ。


「何かありましたか?少しお疲れのようですが。」

「知り合いに少し稽古をつけておったのじゃが、少々時間が経ってしまったようじゃの。」

「お知り合いの方ですか。」

「うむ。」


老人が稽古をつけている相手なら、相当な実力を持っているのだろうと思う若者。

それが伝わったのか、老人は、まだまだ若いし未熟だがそれなりにやるぞい、と説明を付け足す。


「若い方なんですね。」

「お主と同じ、いや少し下くらいかの。」


若者の年齢は正確には分からないため、恐らく見た目で言っているのだろう。


「明日、の。」

「ん?」

「そやつがここに来る。」


えっ、と驚く若者。


「目的は…もしかして自分ですか?」

「まあ、半分はそうじゃの。」


若者はこれまでの老人とのやり取りから、少なくともしばらくは、自分の存在はあまり公にならない方が良いのでは、と考えていた。


自分の立ち位置を計りかねている、とも言える。


そんな中、老人の弟子とはいえ外部との繋がりが増えることは、出来るだけ避けるべきではないかと思ったが、老人が自ら連れてくると言っているのだから、うまく執り成してくれるのだろうとも思う。


「つまり、マルス翁としては問題ないということでしょうか。」

「そうじゃの。延々と隠し通せるものでもないしの。」

「ちなみに目的の残り半分とは?」

「まあ…来ればわかるじゃろ。時間も遅い、今日は休むかの。」


詳しい説明を省くような老人の話ではあったが、若者は特に異論を挟むようなこともなく、老人の言葉に素直に従うことにした。


―――――――――――――――――――――――― 


翌日、日が中天に差し掛かるころ、若者は裏庭で老人と話をしていた。

どうやら、そろそろ来るらしい。


「昨日は特に聞きませんでしたが、どうやって来るんですか?」

とここまで聞いてから、別の重要な事実に気づいた若者。


「そういえばマルス翁が行き来している方法もよく知りませんでした…。」

「特に説明せんかったからの。まあ、簡単に言えば空を飛んでおった。」

「飛ぶ…?」


この世界で人が空を飛ぶことが一般的なのかどうか、いまいちよく分からない若者。

すると老人は「あまり一般的ではないの」と述べた。


老人かこの地で来る前にいた国では、その稀有な能力を重宝され…というか便利使いで無茶な依頼がひっきりなしだったらしい。


「それも国を離れた原因じゃの。」

「では、お弟子さんも飛んでくるのですか?」

「いや、あやつは別じゃ。」


別の手段…と想像を巡らせる若者。正直あまり思いつかない。

「かなり特殊な方法での…来たの。」


と次の瞬間。


「えっ?」


若者が老人の見つめる方向に視線を巡らせると、何やら空が光っている。


「魔導光臨奥義『光の道』。アイナスの固有の技じゃ。」

「空に道が…。」


裏庭から見て東の方角から、光り輝く道が一直線に伸びてくる。

ただ、よくよく見ると、道の始まりの部分が薄っすらと透けて見えている。

どうやら遠くから延々と伸びてきたわけではないようだ。


そして、光る道の上を真っ直ぐに駆けてくる少年のような人影。

その人影は、急激に大きくなっていく。


「あれが、アイナス…さんですか。」

「そうじゃ。」


そこまで急がんでも、せわしないの…と呟く老人。

だが、その表情は柔らかい。


柔らかい口調と表情、老人が大事にしている存在なのだろう思った若者だった。


――――――――――――――――――――――――


「師匠こんにちは!昨日ぶりです!」


光る道を駆けてやってきた少年は、開口一番、元気に挨拶をしていた。


「師匠ではないといつも…まあよい、よく来たの。」

「はい。お招きありがとうございます。」


というと、少年はぐるっと辺りを見回して、若者の方を向いた。


「あなたが…ニックさんですね。はじめまして、アイナスです。」


ペコッとお辞儀をする少年。


若者は、

「こんにちは、はじめまして。アイナスさんはとても元気ですね。」

と返す。


すると老人が、立ち話もなんじゃ、とりあえず中に入るぞい、と促す。

2人が「はい!」「そうですね。」と返事を返し、揃って家の中に入っていく。


光の道は、いつの間にかきれいに消えていた。


――――――――――――――――――――――――


いつもの位置に座る老人と若者。アイナスは老人の隣に座った。

それぞれの前には湯気が立つ飲み物が置かれている。

それを一口すすった老人は、

「とりあえず簡単に状況を整理するとじゃ。」

というと、つらつらと話し始めた。


「まず、この男はニック。少し前から家に住んでおる。」

「はい。」

「で、こっちがアイナス。魔導七賢の一人じゃ。」

「アイナスです。こんにちはニックさん。」


光の道を見ているからか、魔導七賢の一人と聞いてもそれほど驚かない若者。

「よろしくおねがいします。アイナスさん。」

「ちなみに師匠は魔導七賢の筆頭で僕の師匠ですよ。」

「ちょいちょい教えとるだけで、弟子ではないがの。」

そもそも七賢の中で師匠と弟子の関係を作るべきでもないしの、と老人は言う。


「先程見せていただいた、光の道、凄かったです。」

「そうですか?そこまで遠くまでは行けないし、知らないところにも行けないし。結構不便なんですよ。」

とアイナスは愚痴半分だが、若者からしたら驚愕の技である。


「それに着地の前後に隙が出来るからの。戦闘向きではないの。」

と老人が説明を付け足す。


「それでも凄いですよ。」

「まあ、使い方を間違えねば便利じゃの。」

「そうですね!」


そして老人が、

「次にニックのことじゃが、正直なところ儂もよくわかっとらん。」

と話題を変える。


「わかっとるのは…。」

「とるのは?」

「肉に関わると手がつけられん。」


顔に「??」を浮かべて首を傾げる少年。

若者も、何と説明していいものか、と戸惑っているが、老人はさっさと話を進める。


「それでの、今しばらく、この家に住まわせることにした。」

「それは…いっぱい稽古できますね!」

「いえ、あの、自分は普通の、というか一般人なので、稽古とかは別に…。」

「えっ。もったいない!」

「あくまでご厚意で居候させてもらっているだけですから。」

「うーん。そうですか。」


何やら微妙な表情の少年。


「アイナスよ、あまり押し付けるものではないぞ。」

「そうですね。すいませんでした。」

「いえいえ。」


と、会話が普通に続く。

一方で、もしかしたらアイナスは自分の正体を勘ぐりに来たのでは…と密かに警戒していた若者は、自分が何者か、といった点にほとんど触れずに進む会話に若干戸惑う。


すると少年が、若者に対して声をかける。

「ニックさんがどういう人かはよく分かりませんが、何せ、師匠が一緒に住むっていってるんですよ。それだけで十分です!」


つまり、老人への絶対的な信用がある、ということなのだろう。

それだけの信用を集める老人と出会えたのは僥倖、今後も見放されないようにしっかり頑張ろうと思った若者。

そして、ありがとう、これからもよろしくアイナスくん、と話しかける。


「ん?アイナスは女の子じゃぞ?」

「えっ?!」

「あ、男の子だと思いました?髪短くしちゃってますしねー。」


少年でなく、少女だった。

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