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第6話 肉好きの若者が、熟成肉を食す話。

先日狩ったキングボアの枝肉を、老人が作った氷室で保管してからおよそ1カ月。

若者にとっては当然初めて見る魔物の肉ではあるが、何故か、そろそろ食べ頃なことが分かる。


老人にその事を伝えると、では試食じゃの、とモモや肩など適当な部位を光る剣で切り出す。


言葉は冷静だが何となく楽しげな老人を雰囲気を察して、流石にちょっと待たせ過ぎたかな?と少し反省する若者。


とはいえ熟成期間に妥協はない。必要な期間はしっかりと確保する。


「切り出した肉は、食べやすい大きさに、もう少し細かくしたいです。」

「それならこれを使うとよいの。」


老人が棚から取り出した、若者の二の腕ほどの刃渡りのナイフは、装飾はほとんどないが刃が黒光りしていて、見た目で既に切れ味がよさそうだ。


「とある友人からもらった材料を加工したものじゃ。切れ味は保証するが、怪我せんようにな。」

「とある友人?」

「うむ。最近会っとらんが、気さくで良い奴じゃ。そのうち会う機会もあろう。」


確かによく切れるナイフで、切り出した肉はあっという間に細切れにされた。

「ちょっと切れすぎな気もしますが、便利ですね。」

実際には便利の一言で済まない業物だが、その辺は全く無頓着な若者である。

むしろ肉を美味しく食べるための道具であれば、便利であればあるほど良い。


「で、どうやって食べるのじゃ?」

「今回は味の違いを分かりやすく感じてもらうために、以前と同じように焼きます。ただ、直火だと火加減が難しいので、今回は鉄板を使います。味付けは例の調味料を振ったものと、軽く塩を振ったものと二種類準備します。」

「塩だけかの?」

「はい、肉の旨味を存分に感じることができます。」


ふむ…と顔に多少の疑問符が浮かぶ老人に対して、若者は、食べていただければ分かります、と答えた。


――――――――――――――――――――――――


老人にお願いして凹凸加工した鉄板で、薄く切り揃えた肉を焼く。


「では、食べましょう。」



もぐもぐ。


もぐもぐ。



美味い、と呟く若者。


もくもくと食べ続ける老人。




もぐもぐ。


もぐもぐ。



…。




「ごちそうさまでした。」

「なんとこりゃ、美味すぎじゃろ…。」

「きちんと処理して、熟成させればこんなに美味しくなるんです。もちろん、キングボア自体の美味しさがあってこそではありますが。」

「これはあれじゃな。庶民の味ではない感じじゃな。」

「そうですか?」

「うむ。正直儂もこれほど美味い肉は食ったことがないの。」

「探せばもっと美味しい肉がありますよ。必ず。絶対。間違いなく。」


うんうん、美味しかった、と回想する若者。

他にも色々な調理法で味わってみるべきと、食材としてのキングボアに興味が尽きない。

一般的にはキングボアを生け捕り、の時点で無理難題ともいうべき難易度まで跳ね上がっているのだが、そのあたりの事情には全く無頓着である。


「それにしても、ここまで美味いとあれじゃの。」

「はい?」

「何というか、いずれ厄介なことになるやもしれんの。」


老人曰く、この世界の肉料理は煮込みが中心で、肉質に拘って家畜を育てている人もいるものの、数は少なく一般的ではないらしい。


そこに、これである。

恐らくこの世界でも指折りの実力者である老人が、美味いと言った、これ。

老人は厄介事の匂いを感じたらしいが、若者は全く別の感想を持った。


「この世界で、肉がもっと美味しくなる。嬉しいしかありません。」

「お主はそういうと思ったわ。」


厄介ごと?いえいえ、楽しみしかありません。

ブレない若者の笑顔に、苦笑する老人であった。

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