第5話 肉好きの若者が、老人から色々教わる話。
肉の熟成を始めてから約1か月。
その間、若者はこの世界や自分の能力について、老人に教わりながら意見を交わした。
基本的な地理、地形。
老人が住むこの台地と熟成中の肉のこと。
動物や魔物のこと。特に食用になる動物や魔物のこと。
経済や歴史の知識と熟成中の肉のこと。
そして老人がこれまで食した肉料理…「ひとまず落ち着かんかい」
老人が外出する日も多いため毎日ではないものの、この世界の基礎的な部分は把握することが出来た。
そして、若者の力、能力、何より若者がここにいる理由について。
自分は何をすべきなのでしょうか。
何かしたいことはあるかの。
美味しい肉に出会う、でしょうか。
意味はわかるが意味わからんの。
肉自体の美味さもありますが、実際には調味料が引き出す美味さもあるのではないか。保存方法や調理方法もしかり。自分の能力が把握しきれず不安もありますが、自分やマルス翁も含めた皆さんが幸せになる方法…要は肉を美味しく食べる方法を模索して…
肉が関わると饒舌じゃの。
等々。
また、若者の能力について、様々な試行を行った。
その結果。
「結局お主の力はよく分からんの。」
「そうですね…。」
老人曰く、この世界の理では全く理解できん、とのこと。
何かしら肉に関係すれば、凡そ何でも出来ると言ってもいい。
ただし肉に無関係な事象については、その能力は完全に鳴りを潜めている。
「まあ、力の発動条件は分かりやすいの。」
茂みが動く・足音がする、といった状況が、食べられる可能性がある動物や魔物の存在に結び付けば、一瞬で完璧に状況を把握できる。
また、肉の可食性や食べごろなどの判別もかなりの精度で可能。
そしてレッドボアの肉を入れた適当な袋と、ただの袋を老人に投げつけてもらったところ、高速で吹っ飛んできたにもかかわらず、「両方とも」音もなく受け止めることができた。
ちなみに「空の袋じゃ」と言って投げつけられたものは、顔面にまともに食らった。
老人が回復術にも精通していたため助かった。
そんな実験を通じて、自分に何ができるのかは、まだまだ分からないことが多いが、少なくとも最低限の把握はできた。
あとは、この能力を今後どう使っていくか、である。
「どう使っていけばいいのでしょうか?」
「まあ、ぼちぼちやればよいのではないかの。」
「はあ…。」
「世界を救うだの、悪を倒すだのに興味があれば、それもまた一興じゃがの。」
「いえ、そういうのは特に…。」
今後はさておき、今のところは若者はそういったことには全く興味がない。
なので、未だ良く分からない能力ではありますが、なるべく使いこなせるようにしたいと思います、と老人に頭を下げつつ述べた。
その姿を見て、老人はいつものように柔らかい笑みを顔に浮かべるのだった。




