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第27話 肉好きの若者が、少し仲を深める話。

老人の「誰も勝てんじゃろ」発言を聞いた面々は、各々が複雑な表情を浮かべている。


デロイはさもあらん、といった表情。

アイナスは、えっ?という表情をしている。

若者は、いやいや流石に…という表情をしている。


そんな中、アールスラーメだけは、全く表情を変えずに若者を見ている。

「私の感覚からすると、正直勝てる存在が思いつかない。」


「アル、師匠とかデロイさんとかも含めて?」

「うん。」

「う~ん。体験者が語ると説得力…あるかなあ?」


いやいや、流石に師匠はめっちゃ強いですよ…と悩むアイナス。


すると難しい顔をしたデロイが、「今、ニックの能力あれこれを話していると、話が広がりすぎるようだ。」と、多少脱線気味の話題を戻しつつ、「結局のところ、アルが納得してニックに異論がなければ、その、そういう方向で考えたい。」と言った。


デロイの発言を聞いた若者は、視線を老人に向けて問いかける。

「自分は、どうしたらいいんでしょうか?」


実際のところ、ここまでの展開として、試しに若者は黒竜と戦った。

なおその黒竜は女性だった。

色々あって勝ったことになった。

自分に竜紋が刻まれた。

伴侶として…つまり結婚についてどう思うか、聞かれた。


実際のところ、展開が早いこともさておき、さっき会った女性と成り行きで結婚しろ、と言われているわけだ。若者ではなくても普通は多少なりとも混乱はするだろう。この世界に一人降り立ち、そこまで時間が経っていない若者なら尚更だ。


だが、そんな若者を見て、老人が言う。


「展開が早いのは、まああれじゃが、先ほどの竜紋の話が気になっとるかの?」

「はい。」

「逆らえない、ということにかの。」

「それもあります。」


逆らえない。それは言わば奴隷のようなものではないのか。

騙し討ちのような成り行きと思われて、アールスラーメさんやデロイさん、そして家族や他の竜の方々にしこりを残してしまうのではないか。


そして、自分でいいのか。


「分からないんです。」

「…うむ。」


自分のこともよく分かっていないのに。

そんな自分が誰かと一緒に?


大丈夫なのか?

分からない。


すると老人は、若者に優し気に声をかける。


「ニックよ、縁はとても貴重な、一瞬の煌めきじゃ。」

「あの…。」

「お主は自分が何者で、何をすべきか分からず、常に迷っておるのは知っとる。」


はい、と若者は答える。


「儂はな、だからこそ、縁は必要だと思っておる。」

「そう…でしょうか?」

「縁とは一瞬の煌めき。気付かず、見逃すことも多い。」

「はい。」

「その一瞬を、他人と向き合うことを、恐れてはいかん。」

「向き合う…ですか。」


老人の言葉に考える若者。まだちょっと迷い気味のようだ。

それに対して老人は、続けて話しかける。


「それに竜紋のことについてじゃが、むしろ誇っても良いものじゃの。」

「竜紋を持ってたら他の竜から狙われるとか、そういうものではないんですか?」

「お主は、逆らえないことを気にしとるが、むしろ逆。」

「逆、ですか?」

「逆らえないのではなく、逆らえないほどの強大な存在に対峙した証、勇気と実力の証明じゃ。竜の城に行ってみい。1日で有名人じゃぞ。」


のう、と話をデロイに振る老人。


「そうだな。自分の竜紋も刻みたい、とか無茶ぶりをされるかもしれんな。」

しかもアルの竜紋だからな、島がひっくり返る騒ぎになりそうだな、とデロイ。


「まあ、今はあまり難しく考えんでも、まずは先を急がず、アルと向き合ってみたらいいのではないかの。」


老人の言葉に、そうなんですね…と、段々落ち着きを取り戻しつつある若者。


なお、トントン拍子といった展開の速さに、ちょっとけしかけ過ぎたかのう…?と内心焦っている老人。

ニックとアルなら、結果悪くない組み合わせじゃとは思うがの…とか考えてたりしているが、そんな思いをひた隠しに、何とか良い事を言ってこの場を収めようと苦心する。


そんな老人を横目で見ていたアイナスは、「師匠が真面目だ…早く家に帰って洗濯物を取り込まないと…」と、どこまで本気か分からないような呟きをする。


デロイも「マルスも他人を諭すことが出来るんだなあ」としみじみとした表情を浮かべている。


実際には、どうやらごまかし切れそうじゃの、と心の中で安堵する老人に対して、

(師匠が饒舌なのは何か後ろめたいことがあるに違いない!けしかけ過ぎたか?とか考えてそう!)

(こいつ、結果的には良かったかの、とか思ってそうだな。まあ、実際そうかもしれんが…。)

と、容疑がかけられているのは秘密である。


さて、じっと成り行きを見守っていたアールスラーメ。

「私も、ニックと少し向き合ってみたいな。」


アールスラーメの言葉をゆっくりと反芻しながら、幾分すっきりした表情の若者。

「アールスラーメさんのことを、色々と聞いてみたいです。」


横で見ていた、嬉しいような何処か寂しいような、優しい親の表情のデロイ。

(これから騒がしくなりそうだな。)


そしてブツブツと呟くアイナス。

「えー、何か二人ともすっきりした感じでちょっとあれですよねー。自分も色々話を聞きたいんですけどー。」

「すこしは静かにせんか。」

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