第26話 肉好きの若者が、実俺最強的話。
「さて、一息ついたところで、話をするかな。」
と、先ほどまで妙に揚げ物への執着心に囚われていたっぽいデロイが、爽やかに話を切り出す。
なおブレダン伯爵が「そういえば用事を思い出した」と言って使用人を連れてそそくさと退室したため、部屋には老人と若者、それからアイナス、デロイとアールスラーメの5人が座っている。
「アルがいないときに、ニックの左肩に竜紋が刻まれているのを確認した。」
とデロイが言うと、アルは「左肩…」と多少の動揺を見せる。
「もしかしたら何か感じたか…ん?どうした?」
「…何でもないわ。続けて。」
「うむ。それでだ。竜紋がどういうものかは…知っているな?」
こくりと頷くアールスラーメ。
「では、いくつか確認したいことがある。」
「うん。」
「まず…納得しているか?」
神妙な表情で問いかけるデロイ。
一方のアールスラーメは「それは問題ない」と、特に不満げな様子は無い。
ただ、一つだけマルスマーダ様に聞きたい、と老人に向かって問いかけた。
「何じゃ?」
「こうなるのを分かっていたのでしょうか?」
「こうというのは…つまり、お主が負ける、ということかの?」
「はい。」
アールスラーメが老人と話している間、若者はアールスラーメの表情を見ていた。
その表情からは、それほど剣呑な雰囲気は感じない。自分が負けると分かっていてけしかけたのか、というような、責めるような感じではなさそうだ、と若者は思った。
ただ、次の老人の言葉は、何となくだが違うような気がした。
「まあ、恐らくああいう結果になるじゃろとは思っとった。」
「アル、分かってると思うが…絶対に何も考えてないぞ、こ奴は。」と、デロイが反応する。
「まあ、師匠ならそうですよね。何か面白そうだから、とかそんな理由でもおかしくないですよね。」と、アイナスも被せてくる。
若者は、様々な感情を心に秘めたまま黙っている。
場の雰囲気に押されて冷や汗気味の老人。
ただ、そんな老人の反応にも「まあ、別にそこまで重要ではありませんので」と、ある意味素っ気ない雰囲気のアールスラーメ。
すると今度は、若者に話しかける。
「それと…ニックにも聞きたいことがあるのだけど、いいかな。」
「何でしょうか?」
ちょっとだけ身構える若者。
自分はそれほど深い考えはなかったよな…と思いながらアールスラーメの言葉を待つ。
「ニックは、やっぱり今でも竜を食べたいって思う?」
「え??あ、えっと…、いや、多少は興味…」
(じー)
「いや!興味は無い…わけでもないですけど当面は固く封印で!」
「そう、それなら良かった。」
ほっとした表情を浮かべるアールスラーメ。
それとは対照的に「え、そこを気にするの?」という顔のアイナスが「いやいや、気にするのって勝った負けた、でもって二人は結婚決定ですかとか、そこを気にしましょうよ!」と叫ぶ。
「だって、もう決まったようなものだと思う。お父様、違いますか?」
「ん?あ…、いや…そうだな。まあ、もう少しじっくり話し合ってからでも…。」
「話し合いは別にいいけど、結果が変わるとは思えない。」
さばさばとしたアールスラーメと、若干戸惑い気味のデロイ。
そんな二人の会話を聞いた面々のうち、アイナスは、
「いやいや、これから二人の思いを確認していくうちに少しづつ縮まる距離とか、デートを重ねて親密度を上げると思わぬハプニングが…とか、なかなか踏み出せない二人がふとしたことをきっかけに急接近とか、いろいろイベントがてんこ盛りだと…。」
と妙に盛り上がり、老人は、
「まあ、別に当人が納得していれば、結果がすべて、資格も十分ってことじゃろ。」
と結論じみた話をする。
そんな老人にアイナスが「資格というのは竜紋ですか?ニックさんの」と聞くと、老人は「いや、もっと単純なことじゃよ。」と返す。
「納得のうえでの立ち合い、全力を尽くし、一方が勝って一方は負けて気絶した。結果に文句を言うでもなし、そうであれば面倒くさい理屈はいらないということかの。」
「ふむ…つまり、こういうことですね!」
恐らく若者の真似と思われるポーズのアイナス「俺が勝ったらお前は俺のものだ!」
シュババッ!
恐らくアールスラーメの真似と思われるポーズのアイナス「あら?随分威勢がいいのね、そういうの嫌いじゃないわ。」
ズビシッ!
皆が「一体どこを見ていたのか」という表情を浮かべながらジト目でアイナスを見る中、老人が「正直なところ、勝敗に確信があったわけではないの」と言い、デロイも「事情にそこまで詳しくなかったとはいえ、ニックも良く了承したと思うぞ。」と続ける。
ただし、老人の次の発言には、デロイやアイナスが驚愕の表情を浮かべた。
「まあ実のところ、条件さえ揃えばニックの相手にはならんじゃろ、とは思っとったがの。」
「アルがですか?師匠。」
「ん?いやいや、ここにいる全員じゃよ。」




