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第24話 肉好きの若者が、刻まれちゃう話。

「え!デロイさんってそういう趣味が?!」

などと言いつつバッタバッタするアイナスを当然のように差し置いて、デロイは話を続ける。


「実はちょっと確認したいことがあってな。できれば協力してもらえないか。」

「確認ですか?」

「そうだ。」


と言うデロイの口調は相変わらず優しいままだが、何となく断りにくい迫力が混じっている。

何か重要な事だろうかと思う若者は、分かりました、と言って服を脱ぎ始める。

老人は、何となく分かっているような表情。

アイナスは「キャー!」と言いつつしっかりと見ている。


上半身を脱いだ若者を見たデロイは、やはり…といって老人の方を見る。

すると老人も、デロイに対して頷き返す。


「あの、何でしょう?」


という若者。

それに対して、デロイは「左肩の後ろの方に、竜紋が刻まれている」と言った。


「竜紋…?」

「そうだ。」「そうじゃ。」

「…説明いただいても大丈夫ですか?」

「もちろん。」

「そうじゃな。儂から話すかの。」


疑問の浮かぶ表情の若者に、デロイではなく老人が説明を続ける。


「竜紋とはの、分かりやすく言えば、竜族を倒した証明みたいなもんじゃ。」

「証明…ですか?」

「そうじゃ。」


倒した…という当たりに多少のひっかかりを覚える若者であったが、とりあえず説明を聞くことにした。


「竜紋というのは、個々に違ってての。竜族が見れば誰の竜紋かは分かるのじゃが、自分の竜紋が刻まれた相手には、基本的には逆らえん。」

「え?」

「言い方はあれじゃが、竜紋が刻まれた相手が自分の飼い主になるようなもんじゃ。で、飼い主を傷つけるような命令には従わんが、それ以外なら逆らえん。極端な話、【自決しろ】とか【見たもの全て消し炭にしろ】とか、倫理的にどうかという命令も、逆らえん。」


老人の説明に驚愕する若者。

なおアイナスはジロジロキャーキャーし続けている。


そんな大事なものが、どうして自分に…と思う若者だったが、正直心当たりもある。

「お主も薄々分かっとろうが、竜族が真に負けを認めたとき、その相手に刻まれる。」

「はい。」

「まあ、竜族は何だかんだで負けず嫌いばっかりじゃし、単に真正面から戦って勝てば刻まれるもんでもない。じゃから滅多なことでは竜紋は見れん。」


デロイ「本当に、本当に稀なことなのだよ。」

アイナス「ふーん。まあでも、ありますね。師匠何か細工しました?」

老人「バカ言え、儂でも狙って出すのは無理じゃよ。」


ただ、今回は見事に出たの、という老人に対して、若者が一番気になっていることを聞く。


「この、竜紋は消せるんですか?」

それに対しては、老人ではなくデロイが、

「一度刻まれたら、消す方法は一つしかない。」

と説明した。


「それは?」

「この場合は…アルが死ぬことだ。」

生きている間は、消えることはない。

それを改めて聞かされた若者は、戸惑いを隠さない。


「私は、どうしたらいいんでしょうか?」


戸惑い、不安げな若者。

そんな若者に対して、老人が優しく声をかける。

「まあ、心配せんでも大丈夫じゃよ。」

悪いようにはせん、安心せい、という老人の言葉に、若干ながら表情を和らげる若者。


そのやり取りを見つつ、デロイは思う。

(恐らく、そういうことになるんだろうな。)

色々と周囲が騒がしくなりそうだ…とちょっとだけ溜息が出るデロイ。

それでも、それはそれで悪くない、とも思う。


「そろそろアルが起きてくると思うので、今後のことは改めて相談しよう。」

というと、穏やかな表情で若者に微笑むデロイだった。


――――――――――――――――――――――――


アールスラーメは奇妙な感覚に囚われていた。


夢を見ているのだろうか。


自分を喰った相手が、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

すると、まるで吸い込まれるように、自分からその相手に近づいていく。

後ろに回り込んでふんわりと抱きしめるように両手を前に回す。


そして、左の肩にゆっくりと口をつける。


感情が爆発する。

凄い。楽しい。嬉しい。

そして、目が覚める。

…。


アールスラーメが目を覚ますと、ベッドに横になっていることに気づいた。

目線であたりを見回すと、使用人と思われる女性がいる。

「アールスラーメ様。」

と声をかけられる。

声は出さずに静かにうなづく。


「お目覚めになられたことをお父上、デロイ様にお伝えしたいと思いますが、よろしいですか。」

こくり。

すると使用人は、静かに会釈をして、部屋を退出した。

一人になったアールスラーメ。

改めて、さっきの戦い(若者「手合わせ」ですので…)を思い出す。


結果は覚えている。

一通り体を動かしてみる。

体に異常はない。

心は…ちょっとだけ変な感覚がある。


それにしても、さっきのあれは何だったのか。

途方もない力。

それに巻き込まれた自分。

マルスマーダ様は、薄々分かっていたようだ。

だとすると、ちょっと人が悪いと思う。

いや、分かってて、あえてそうなるように仕組んだのか。

…。


色々な考えが浮かんでは消えていく。

そして一つの事実だけが残る。

自分は戦いに負けた。

それも竜ではなく人に。

ということは…?


父さんはどう思っているんだろう。

マルスマーダ様は何を考えているのだろう。

もしかして…もしかしてだが、自分の伴侶に、あの人が?


人が。

黒竜の?

ありえな…くも無いのかな?

強さは、圧倒的、だと思う。

見た目は…まあ、悪くない、かな。うん。

今日初めて会った人とか…まあ、別にそういう出会いも、ありなのかな?

詳しい素性とかも分からないのだけど…まあ、マルスマーダ様のお弟子さんなら、心配しなくてもいいのかな。

人間だが。

人間と、竜。




子供は出来るんだろうか?




「何を考えているんだ私は。」



体を反転させて、ボフッとうつ伏せになったアールスラーメは、わずかに紅潮した顔を枕に埋めつつ、これからの事にぼんやりと思いを馳せるのだった。

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