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第20話 肉好きの若者が、黒竜の王女と出会う話。その2。

「アルが、そろそろ伴侶を探す頃なのだが、中々相手がいなくてな。誰か心当たりはいないかと、聞きたかったのだ。」

「何じゃそれは。お前の娘なんじゃろ。」


お主が探すか本人に探させろ、という老人。

若者も内心同意である。竜の伴侶を探す伝手を、竜以外に求めても良いのだろうか?

するとデロイが、いや実は…と話し始める。


何とこのアールスラーメ、大きさという点ではそれほど竜族の中でも突出しているわけではないが、戦闘力という点では指折りの猛者らしい。


王女が強い。


特に問題は無い。

むしろ誇らしい、と言っても良い。


ただ、伴侶探しとなったとき、どういう影響があるか。


アイナス「要はあれですね!尻に敷かれるわけですね!」

若者「いやまあ、そうかもしれませんが。」

老人「あれじゃろ、一般的な竜ならまだしも、王族となると世間体も重要ということじゃろ。」

デロイ「まあな。」


つまり、指折りの猛者というか一部では『最強王女』と呼ばれているアールスラーメの相手がアールスラーメに勝てない、となったときに、その相手が同族から認められるかどうかが怪しい、ということだろう。


「一応誤解の無いように説明をしとくが、竜族自体は平和を愛する穏やかな種族じゃぞ。」

「それについては、特に疑ってはいません。」


即答する若者。落ち着いたデロイの雰囲気や、アールスラーメの王女然とした態度を見ても、疑うところは無いと思っている。


ただ、やはり強さへの憧れはあり、実際に強くなろうと鍛えている竜も多いとのこと。


「もちろん絶対的に強くなければならない、というものでもない。ただ、アルの立場からすると、伴侶に求められるものが、どうしてもついてくる。」

「まあ、そうじゃろうのう。」

「場合によっては次代の王だ。やはり強さは期待されても、しょうがないというわけだ。」


だが、同世代でまともに戦える相手がいない。

そこで、先ほどの案件のついでに、老人に相談することにしたらしい。


なお、件のアールスラーメは、アイナスと「ちっこいですね」「あなたの方がよっぽどちっこいでしょ」と微妙な口喧嘩をしている。


そんな様子を横目で見つつ、若者は、当然アールスラーメの相手の心当たりなどは無いが、多少気になったことがあったのでデロイに聞いてみた。


「デロイ王…」

「いや、デロイでよい」

「では…デロイさん、竜族の中でも相当強い方なんですよね、アールスラーメさんは。」

「うむ。」

「マルス翁から、かなりの数の龍が島に住んでいると聞いています。アールスラーメさんよりも強い竜は…全くいないのですか?」

「いる。」

「では…」

「私。それから私の父で、アルの祖父の…」


ああ…と、何となく雰囲気を察した若者は、そのあたりで結構です…と話を区切ると、続けてもう一つ気になることを聞いてみた。


「やはり王族に生まれると、特別な強さや能力を授かったりするのですか?」

「いや、それはない。王族かどうかはあまり関係なく、単純にアルが強いだけだ。」


アールスラーメは、幼いころから実力を認められており、次代の竜族の強さの象徴として、その成長を皆から期待されていたらしい。


その期待通りに成長したアールスラーメ。


結果として、伴侶探しが難航。

なお、アールスラーメ自身は全く気にしていないらしい。



「なるほど、ひたすら鍛えて強くなりました、その結果相手が見つからない…いろいろ残念な方ですね!」

「別に強くて悪いことは無いでしょう?急いで結婚する必要も無いし。」

「行き遅れる人の言い訳ですねそれ。」

「行き遅れって…言っておくけどまだ私17よ。」

「同い年?!この見た目で?!」

「あらそうだったのね。あと見た目で比べるのは流石に無理があるわ。」


引き続き、微妙に口喧嘩っぽい会話をする一人と一頭を見て、何だか急速にアイナスとアールスラーメの仲が良くなっている??と思う若者。

あまり会話の弾まなかった自分とアールスラーメに比べると、何か波長の整合的なものがあるのだろうか。


すると、一連の話を聞いていた老人が、思案顔でデロイに話しかける。


「ふむ…。一つ聞くが、やはり同じ竜族でないとだめかの?」

「ん?いや、まあ流石にそうだと思うが…。なあアル?」


とデロイ。


当のアールスラーメは、引き続きアイナスと会話を続けている。


「戦いに勝つだけが強さじゃないとは思うけど。」

「でも実際に戦って強いことは、分かりやすいって思いますけどね。」

「状況や条件で有利不利がある。噛みつく竜と火を噴く竜が全く同じ条件で戦うのは無理。」

「負けた方に限って後から文句言ったりしますよね。」

「そうなのよね。」


あはは。


「だからこそ時間をかけて、強さを認めてもらうのが大切だと思っているのよ。」

「僕は、勝負!勝ち!っていうのが好きなんですけどねー。」

「そうしたい時もあるけど。とにかくしつこい奴とか。」


あはは。


なんだか急速に仲が良くなって…深まっている?やはり波長が?

具体的に何の波長かは分からないが。


引き続き会話が弾みそうなところ、デロイに呼ばれていることに気付いたアイナスが、アールスラーメに話を振る。


「何か呼ばれてますね。」

「結局は強さにもいろいろあるという…はい、何でしょう?」

「あー…いや、流石に竜族でないと、相手としては相応しくないのでは、という話をしていたのだが…。」

「それは、そうでしょう?」


変なことを聞いた、という雰囲気のアールスラーメ。

それに対してアイナスが、「え、別に人でも竜でも強ければアリでは?」と聞き返す。


「例えば師匠とかめちゃくちゃ強いじゃないですか。」

「うん。それはそう。」


アールスラーメは密かに老人を強さの目標としているので、この問いかけには即答である。


「儂を引き合いに出すな。話がこじれそうじゃ。」


ただ、流石に老人が口を挟む。


だが次に、「ん…じゃあ試しに、こ奴とやってみるかの?」と言って若者を指さしたときは、流石に皆が驚いた。


「「え?」」

「師匠?」

「儂の一番弟子じゃ。実力は保証するぞい。」


驚く2頭とアイナス。平然と答える老人。

対して、やはり驚く若者。


「いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいマルス翁。流石にそれはちょっと。」

「まあ、試しに手合わせくらいはいいじゃろ。」


試しって、無理ですよいくら何でも…という表情の若者。

するとデロイはまさかの思案顔である。


「いや、まさか…うーん。まあ試しに…。」


アールスラーメは、驚き、思案、色々と感情が混じった表情で若者を見ている。

アイナスはジト目で老人を見ている。「師匠、何を言い出すかと思えば…」


ちなみにここまでブレダン伯爵とその付き人もいるにはいるが、一切喋らずじっとしている。

流石に話の展開についていけないのと、何やら聞いてはいけない話を聞かされていることで必死に空気になろうとしている感がある。


「アルが負けるのは想像しにくいが…仮に、仮にだが、実際に戦ってそこの若者がアルに勝ったとして、だ。アル、どうだ?」

「どうって、いや、まあ…。」


アールスラーメも、まさかの展開でまだ多少混乱しているようだ。

ただ、手合わせすること自体を拒否しているというよりは、その先の展開も含めて混乱しているように見える。


しばし考えていたデロイは、結局、「では、とりあえず一度やってみるか?」という結論に落ち着いたようだ。

アールスラーメも、とりあえずということなら…と承諾した。


すると老人が、「よし。では戦い方を決めるかの。」と仕切り始める。

「流石に本気の格闘はできん。周りの被害もあるしの。そこでだが…。」


かくかくしかじか。


つまり、「物理的な接触や魔導などは使わずに、ですか?」とアールスラーメが老人に問いかけると、老人は、「そうじゃ。まあ、要は気合じゃな。」と答える。


アールスラーメは「大丈夫です」と、一度やると決めたら迷いなし、と言わんばかり。

一方若者は、急な話の流れに戸惑いつつも、一つの考えが脳裏に浮かんだ。


もしかして老人は自分のために、この場を整えてくれたのではないか。

自分は老人の弟子として紹介されている。

殴り合うような立ち合いは、正直無理だと思う。

だが、竜が一声吼えただけで気絶するようでは、流石に弟子失格ではないか。

そんな風に言われるかもしれない。

アールスラーメという同族から強さを認められた黒竜と戦う。

畏怖と尊敬を集める竜の前にしても、辛うじて意識を保ち、対面する。

やはり、弟子も相当な実力を持っているようだ、と評価を得る。


そうか。

それならば、あとは自分が頑張るだけ。

思慮深い老人のことだ、最終的にどのような結果になっても、自分や老人の立場が不利にならないように振る舞ってくれるに違いない。


と、若者が色々と考えていると、あっという間に対決の時である。

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