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第13話 肉好きの若者が、アイナス家に向かう話。

「じゃあ、いくかの。」

「はい。」

「ヒヒン。」


まだ早朝と言ってもいい時間。

作り置きのゴニ揚げと、現地でパラ揚げを作るための一式を持っての出発である。

荷物は老人から借りた革袋にしまった。


この革袋、見た目よりもかなり多く入り、重さも時間経過も自由に制御出来る優れものである。


「便利な袋を借りれて助かりました。」


と、若者は気軽に礼を言っているが、この世界でも滅多にお目にかかれない、市場に出たら札束で殴り合いが始まる程度の代物である。


ちなみに今回も馬に乗って移動だが、直接アイナスの家まで飛んでいくのは流石に憚る、ということで、少し手前まで飛んだ後に、降りて街道を馬で歩いて行くことになった。


「最初に飛んで移動ということは、アイナスさんの家は、馬だけで移動するのは流石に遠いんでしょうか。」


という若者の言葉を受けて、老人は、「そうじゃの。そのあたりは降りて歩いとる時に話すかのう。」

と言って、この世界の地理について若者に少し詳しく教えることにした。


――――――――――――――――――――――――


しばし馬ごと飛んだ後、比較的拓けた草原に降りた一行。

老人曰く、ここから馬で数刻移動すれば、アイナスの家がある街に着くらしい。


「街道もよく整備されとるし、馬の水飲み場にも困らんしの。ちょうどいいじゃろ。」

「いつもここら辺に降りているんですか?」

「いや、いつもはもう少し近くまで飛ぶんじゃがの。少し話す時間が必要かと思っての。」

「ありがとうございます。」


以前、この世界のことについて色々と老人から教わった若者であったが、地理的な情報はそこまで詳しくは聞いていなかった。

その後は中々詳しく聞く機会が無かったので、是非、と思った。

やはり、自分がいる世界の事は少しでも詳しく知っておきたい。


降り立ってすぐ、馬はポクポクと足音を立てて、二人を乗せたままのんびりと歩き始めている。


大人2人を乗せても問題なく歩く馬。見た目は普通の馬だが、結構な馬力だ。

しかも、何となく二人の会話を理解している気がする。老人のことだから、何か特別な馬を連れてきたのかも、と想像する若者。


そんな若者に老人は、「では、おさらいも兼ねて話をするかの。」と話し始めた。


――――――――――――――――――――――――


老人は、時折若者の理解を確認するように、ゆっくりじっくりと話を進めていた。

要約するとこんな感じである。


この世界は、7つの大陸を、八角形の頂点のうち南の1点を除いた7点に配置したような地形になっている。


大陸間は、ほぼ平地でつながっている所もあれば、間に山脈や海峡がある所と様々である。


1つの大陸に4~5程度の国が治まっているが、ここ数十年は大きな争いもなく平和といっていい状態であった。


ただ、老人が住む近辺が、近年急速にきな臭くなっているのは、以前に話していたウーラン王国の挙動が原因とのこと。


また、円を描くように並ぶ大陸の外側と内側にはそれぞれ海が広がるが、内海は穏やかで船の航行も多く、学問・文化・工業・食、それぞれの交流も盛んな一方、外海は荒れた海が多く不明な点も多いらしい。


ただ、いくつか分かっている箇所もある。


その中でも、東にある大陸から更に外海を東に進むと、いわゆる竜種が多く生息する島、通称「竜の城」があることは広く知られている。


竜種は知能が高く、人間とも特段対立しているというわけではない。ただ、その大きさ故に生活様式が人間とは大きく異なるのと、そもそも外海を間に挟んでいるため、交流はあまりないらしい。


なおウーラン王国は南東に位置する大陸の中央、他の大陸を含めた全体を見てもかなりの国力を誇り、老人の家がある台地は王国の西の端、その先には幾つかの小国があるとのこと。


「その小国の先は、大陸の無い海ということですか?」と若者が聞くと、老人は、「そうじゃの。大陸が作る円の切れ目、という感じかの。」と答える。


ただ、完全に海だけではなく、群島があり、中には人が住んでいる島もあるらしい。


「その話を聞くと、行ってみたい気もします。」

「もしかしたら美味い魔物もいるかもしれんの。」


途端にやる気が漲る若者。

老人に、落ち着かんか、と釘を刺されつつも話が進む。


「それで今いるところが、東の大陸じゃの。我々がいたところとは地続きになっとる。」


東の大陸は、比較的大きな国が横に4つ並んでおり、アイナスの家は大陸の最も東側に位置する国、トランザン王国の首都とも言えるアルダーレインにあるとのこと。


「今は、王国の南側から飛んできて、北に向かって馬が進んでいる、ということでしょうか。」

「そうじゃの。さて、この辺で少し馬を休ませるかの。」

「はい。」


若者が馬から降りると、馬は「別に疲れてないっすけど、まあちょっと休みますかね。乗っている方も疲れるっすよね。」とやたら具体的な雰囲気を醸し出している。


やはりこの馬は会話を…いや、会話どころかそもそも人間に近い思考をしているのでは…と若者が不思議がる。

とはいえ反抗的というわけでもなく、むしろ従順で協力的な態度には助かっているので、まあいいか、と馬の背中を撫でながらしばしの休憩を過ごす。


老人はその様子を見ながら、のんびりと木陰で休んでいる。

そして、一つだけ懸念があったものの、心配し過ぎじゃったかの、と胸をなでおろす。


「これで『この馬、美味そうですね!』とか言われたらどうしようかと思ったの…。」

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