第12話 肉好きの若者が、ゴニア肉と悪戦苦闘する話。
ゴニアの狩りから帰ってきた翌日。
つまり、アイナスの家に行くのは明後日である。
若者は、パラロリラの他に、ゴニアの肉も持参するつもりで試行錯誤を続けていた。
どうやら焼くより揚げる方が、やや相性が良さそうだ。
ということで、ゴニアの肉を一口大に切り分け、早速パラ揚げ同様に揚げてみた。
ゴニ揚げである。
若者としては、パラロリラとはまた違った、歯触りの良い柔らかさと、ややあっさりとした肉の美味さが存分に味わえるはず、と期待を膨らましていた。
さっそく試食、と、揚げたてのゴニ揚げを一つ口に運ぶ。
「…?」
美味い。
美味いが。
「う~ん…。」
美味いが、想定よりも一段階低い。
とはいえ、揚げるのも食べるもの初めての肉であり、こんなものだと言われれば、こんなものかもしれない。
「美味いが…。何というか…こんなものなのか?」
悩む若者。
肉は美味しい。まずい肉はこの世に存在しない。
捌き方から下ごしらえ、調理法から食べ方まで、完璧にこなせばあらゆる肉は美味しく食べられる。
と信じている。
そして、こんなものという表現は肉に対して失礼だ、と若者は心の中で謝罪する。
何に謝罪しているのかよく分からないが。
そんな若者の葛藤を他所に、どんどん揚がるゴニ揚げ。
味見をして、首をかしげる若者。
自分の中では、この調理方法には問題ないはずだ。
更に悩む若者。
すると裏庭の方から、馬の鳴き声が聞こえてきた。
「ああ、水かな。」
結局、馬はそのまま飼うことになった。
元々返す予定だったため、今、麓の街に老人が手続きに行っている。
馬小屋の準備を急ぐ必要があるが、今の鳴き声は恐らく水の催促だろうと当たりをつけた若者は、一通りゴニ揚げを作ると、裏庭へ移動した。
井戸から水を汲み、桶に入れて馬の近くに置く。
初めて会った時から、妙に親近感がわく馬だった。
このまま返すのが寂しくなってしまったため、勢いで飼うことを提案してしまった。
そして言われるまでもなく馬の飼い方などほとんど知らない若者は、老人が帰ってきたら自分の我儘を聞いてもらったお礼と、飼い方を相談しようと、水飲み中の馬を撫でながら考える。
「名前も考えた方がいいのかな。」
と思っていたところに、老人が飛んで帰ってきた。
「あ、おかえりなさい。」
「うむ。ただいまじゃ。」
音もなく目の前に着地する老人を見て、若者は、先ほどのゴニ揚げについて、早速老人の感想が聞きたいと思った。
そのため、また何かあったら呼んでくれ、と馬の背中をポンと叩くと、老人を連れて家に入っていった。
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「これじゃな。」
「はい。」
裏庭から家の中に移動しながら、若者は簡単に状況を説明した。
美味しいのだが、何か違う気がする、と。
だが自分ではよく分からないのだ、と。
「まあ、とりあえず食べてみるかの。」
「お願いします。」
老人の目の前には、相当量のゴニ揚げがあるが、最初に揚げたものは大分冷めている。
そのため若者は、
「そちらが後に揚げたものです。」
と、揚げたてに近いものを勧めた。
すると老人は、折角なんじゃし、もったいないのでの、と言って先に揚げた方から食べ始めた。
「…。」
「どうですか?いや、美味しいとは思うんですけど。」
「…。」
「…?」
ゴニ揚げを食べた老人が固まっている。
と思った次の瞬間、ものすごい勢いでゴニ揚げを口に突っ込み始めた。
「えっと…どうですか?」
若者が想像していた反応と全く違う老人の様子に、若干戸惑う若者。
老人は返事もなくひたすら食べ続けている。
が、あるところで老人の手がピタッと止まる。
「ここからじゃな。」
「ここから、というと?」
「ここから、味が全く違っとる。」
そんなことは…と若者がよく見てみると、はっ、と気付く。
「まだ温かい…?」
「うむ。」
「それはつまり…。」
「そういうことではないんかの。」
つまり、揚げたてではだめなのだ。
揚げて、冷めて、そこで完成するのがゴニ揚げなのだ。
揚げること自体は間違っていなかった。
ただ、冷めることで完成する、という考えは全く思い浮かばなかった。
「少し冷めたらおぬしも食べてみるとよいの。止まらなくなるでの。」
「はい。それにしても…。」
「ん?」
「あまり自分の能力や感覚を過信しないで、肉自体が求める方法をきちんと聞き分けて、良い形で実現させてあげないといけないことがよく分かりました。これからも、絶対に自分が後悔しないように、食べた人も後悔しないように、美味しい食べ方の研究を進めていきたいと思います。」
「まあ、何でもよいが…相変わらず饒舌じゃの。」