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第9話 肉好きの若者が、老人とアイナスと食事をする話。

よくよく見れば、アイナスは可愛らしい少女だ。

むしろ少年と言われた方が違和感がある。


何故勘違いをしたのか。


髪が短かったから?

喋り方?

その…とある部分の大きさ的な?


いや、違う。


瞬間、若者の脳裏にひらめくものがあった。


「成程、分かりました。」

「ん?なんじゃ」

「肉質が、牡…男性に近かったからです。」


「「は?」」


何を言っとる?という表情の老人。

ほへ?という表情のアイナス。


「いやその、自分でも何を言っているんだと思いますが、そう感じたんです。」

「お主は見た目や雰囲気ではなく肉質で男女を見分けるのかの?」

「いや、そうではないのですが…。」


変なことを言っているのは若者も十分に承知している。

ただ、実際にそう感じてしまったのだ。


「見た目に惑わされずに把握出来る、ということかもしれんがの。もう少し見た目から判断することも覚えたほうがよいの。」


そうですよね…と反省の色を出しつつ、

「アイナスさんもすいませんでした。決して女性的ではないということではなく…」

と謝りながら若者がアイナスに視線を向けると、


「肉質…やっぱり胸のあたりでしょうか…」

と、アイナスが下を向いてブツブツと呟いていた。


「えっと…」

「まあ、アイナスも気になる年頃なんじゃろ。しっかり説明しておけ。」


結局、アイナスへの弁明はしばらく続き、最終的には食事というか肉をご馳走することで決着した。


ちなみに、先日仕留めたキングボアは雌じゃったかの?と老人に聞かれた若者は、

「そうですね、雌でした。身籠った形跡が無かったので、肉質が良かったのはそれもあると思います。ただ、そもそも魔物が子を産むのか、ということもありますし、肉の旨味や脂の甘みにどれほどの影響があるかは、流石に一頭だけでは判断が出来かねるので、可能であれば今後、改めて狩ることができれば良いなと思っています。気絶や血抜きの方法も大まかには把握できていますが、回数を重ねればもっと効率的で効果的な方法が見つかると思いますので。」


と答えた。


「相変わらず肉のことになると饒舌じゃの…。」


――――――――――――――――――――――――


「簡単なものですが、先日のキングボアの肉を厚めに切って焼いたもの、それと、パラロリラの肉に下味をつけて油で揚げたものも準備しました。」

「おお。なかなか良いの。」

「すごく美味しそうですね!」


どうやらアイナスの気分を上げることには成功したようだ、とほっとする若者。


なおパラロリラは、先日老人が「帰宅途中でたまたま出会ったから生け捕りにした」といって持ち帰ってきた鳥系の魔物である。


片方の羽が大人が手を広げたくらい、魔物としては平均的な大きさだが、臆病な性格のため姿を晒すことが少なく、飛行速度も速いことから逃げの一手を打たれるとかなり面倒な魔物である。

討伐難易度としては、強さ自体はC程度だが、捕獲となると実質A相当。

肉質は、赤みが多く若干固めだが肉自体の旨味が強く、市場に出回ることの少ない希少で高価な食材に分類される。

噛み応えがあるのが好きならばそのまま焼いて食べてもよいが、どちらかといえば煮込み系の料理と相性が良いかもしれんの、という老人の談ではあったが…。


「パラロリラは、食品庫に保管されていた香草や香辛料をすりつぶして、別に保管してあった木の実の汁と混ぜてしばらく漬け込んでみました。かなり柔らかくなって旨味も増したと思います。『焼く』や『煮る』よりは揚げる方が相性が良さそうだったので、今回はそうしてみました。」

「揚げるって、何ですか?」

「穀物をすりつぶして粉状にして、肉にまぶしてから高温の油で茹でるんです。」

「あまり聞かんやり方じゃの。油なんぞあったかの?」

「食品庫にあったものですが、使わせていただきました。」


とある地方で採取できるマンナという木の実を絞った汁を、布などで濾して作った油であり、一般的ではないがそれほど高価というわけでもない。

ただ、特有の匂いがあるため、この世界ではどちらかというと食材というよりは燃料という使い道が一般的である。


そのため、「それは火おこし用の油ではなかったかの?」「それって食べて大丈夫なんですかね?」と、二人が揃って疑問を呈す。


大丈夫です、と言われても納得はしていないようだ。

「まあ、とりあえず食べてみてください。」


若者が、まずは焼いたキングボアの肉を皿に乗せてそれぞれの前に置く。

そしてパラロリラの肉を揚げたもの、命名「パラ揚げ」は、まとめて大皿に乗せてテーブルの真ん中だ。


二人は顔を見合わせると、キングボアの肉に齧りつく。


老人もですが女の子がその食べ方は…と苦笑している若者を尻目に、二人はあっという間に食べきってしまった。


「いや、相変わらず美味いの。」

「えっ、なんかこれ美味しすぎません?!」

「うむ。アイナスの家の食事でも、中々ここまでは出てこんじゃろ。」


やはり肉を食べて嬉しそうにしている人を見るのは楽しいな、と思いながら、若者はパラ揚げを勧める。


再度顔を見合わせると、二人は遠慮がちにパラ揚げを口に運んでいく。


1個目を食べた老人は、そのまま無言で2個目に進む。

アイナスは1個目をゆっくり時間をかけて咀嚼して、やはり無言で2個目に進む。


しばらく無言で食べ進める二人。

どうやら気に入ってくれたようだと安心した若者も、遅れて食べ始める。


しばらく無言の食事が続き、何個目かよくわからないくらい食べたあと、老人は、ふぅ…と短く息を吐く。


そして、まるで瞑想するかの用に静かに目を閉じている。

一方、アイナスは、なぜか満面の笑みを浮かべ、師匠とニックの顔を交互に見る。


「ニックさん、一つお願いがあるのですが。」

「なんでしょう?」

「今度、自分の家に遊びにきてくれませんか?」

「えと、マルス翁ではなく、私ですか?」

「はい!ぜひお願いしたいです!」

「それはその…なぜ?」


アイナスは、えっと…、と一瞬ためると、


「焼いたキングボアの肉もとっても美味しかったのですが、このパラロリラの肉を揚げた?ものですか、もう本当に美味しくて、途中から何個食べたか分からないくらいで、気が付いたら全部なくなってて、師匠が自分より2個多く食べたことが許せなくて、そうじゃなくて、こんなに美味しいものを自分だけで味わうのはちょっともったいないなと思って!ぜひ自分の家族にも食べて欲しいんです!」


と一息にしゃべった後、ニコニコしたまま若者を見つめる。


パラ揚げは冷めても美味しいことは実験済みであり、お土産として渡せばよいのでは、と思った若者であったが、どうやらアイナスは、できればその場で作ってほしいと言いたいのだろう。


ただ、外出となると一人で決めるわけにもいかないと、若者が横を見ると、老人は未だ瞑想中であった。


「あの、行っても大丈夫なものでしょうか?」

と若者が老人に声をかけると、


老人は、美味いのぉ…と呟きながら首を縦に振った。


これは大丈夫ということでよいのだろうか?と思いつつ、若者はアイナスに、

「多分大丈夫ということだと思うので、分かりました。」


と答えた。


「近いうちにお邪魔したいと思いますが、マルス翁も一緒で大丈夫でしょうか?」

「もちろん師匠も一緒で大丈夫です!」


一緒なら移動も速くていいですよね、じゃあ何時頃…、と若者とアイナスが話の詳細を詰めている間も、老人はしばらく瞑想したままであった。


なお、その後の、

「明日追加で仕留めてくるかの。100羽くらいなら問題なさそうじゃ。」

という多少物騒なつぶやきは、二人の耳に届くことはなかった。

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