プロローグ
男は、とにかく、肉が好きだった。
見事なサシが入った霜降り肉も、肉々しさを感じられる赤身肉も、ついでに内臓も、タンも、とにかく大好きだった。
食べられる動物であれば牛や豚、馬といった家畜にもこだわらなかった。ワニ、ダチョウ、シカ、イノシシ、何でも試した。たまにヤバかった。
店で食べるのも、自分で焼いて食べるのも大好きだった。あまりにも好きすぎたので、肥育農家に弟子入りして自分で育ててみたりもした。農家の人からはそのまま就農を勧められたが、何とか断った。
と畜業者に就職して、生体を捌いた。
凄いと思った。
ますます肉に感謝した。
ジビエ料理が美味しいと評判のレストランで働いた。
色々な意味で野性味溢れる職場だった。
しかし、満足はしなかった。この世には、自分が見たことも無いような美味しい肉を持つ動物がいるにちがいない。
想像もできないような調理法があるにちがいない。
どこに行くといいのか。どこを探せば会えるのか。日々研究した。
そして、死んだ。
突然死だった。
死因は…まあ、ぶっちゃけ肉の食いすぎだ。
そりゃそうだ。
米にもパンにも野菜にも全く興味を示さず、甘味や酒には見向きもせず、ひたすら肉や内臓ばっかり食べていたのだ。
しょうがない。
男は、死の瞬間、そう思った。
でも…。
やはり、心残りはある。
もっともっといろんな肉を食べたい。
究極の肉。至高の肉料理。
未だ先の見えない(肉の)世界の果て。
ああ…
まだ、俺はまだ死ねない…
そして、男は光に包まれた。