表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/60

第六章: 聖なるクエスト(中編)

昇格試験を終えてギルドホールを出ようとすると「白銀」のパーティメンバーが待っていた。ザンダーの右膝には包帯が巻かれている。

「今日はザンダーが迷惑かけたね。」

パーティリーダーのサインが話しかけてきた。

「いえ、それよりザンダーさんに怪我させてしまってすみません。」

俺が謝ると、ザンダーは「いいんだ。君を侮っていた俺が悪かったんだ。」と手を出してきて言う。仲直りの握手だ。

魔法使いのハットを被ったお姉さんは「でも、ジャンって本当はソロでゴブリンジェネラルを倒していたんだねえ。そりゃ強いはずだよ。」と言う。

リーダーのサインは「あの目潰し攻撃から流れるように背後をついて膝の裏攻撃だろう?あれはよほど鍛えていないとできないよ。」と感心したように言う。

「ホント、ぜひうちに欲しい人材だけれどこれからは二人でパーティを組むんだよね。」

「ええ。そのつもりです。」

「もしこのザンダーみたいな不埒な奴がいたら今度は私たちも味方してあげるからね。頼りにしてくれていいよ。」

「おいおい。俺様だってもうジャンとアリシアの味方だよ。さっき握手して仲直りしたじゃないか。」とザンダーは不満そうである。

「あはは、大丈夫だ。ザンダーは悪い奴ではない。でも、あの試験場でギルド員の前でキスしたからねえ。もうギルドでは公認カップルだから。」

「はあ?」

俺は驚いて横を見るとアリシアは真っ赤な顔をして俯きながら「えへへへへへへ」と呟いている。

女騎士のレイさんは「おい、ジャン。ギルド内では俺たちも守ってやれるがギルドの外ではお前がアリシアさんの護衛騎士なんだからしっかり守れよ。」と言って俺の肩をバンと殴りつけた。

俺はついよろけてアリシアにぶつかったが、アリシアはその拍子に俺の腕を掴んで「ジャンは私の護衛騎士」と呟いている。

どうにもアリシアが正気じゃないので俺は早々に「白銀」のメンバーにお暇を告げてギルドを出ることにした。白銀のメンバーたちは笑いながら俺に手を振ってくれた。俺はアリシアを連れてそそくさとギルドホールの扉を出た。

アリシアは俺の右腕を掴んでピトッと体を密着させてきた。多分俺の顔は火を吹きそうになっていたと思う。

少し気を緩めるとそこで立ち止まって動けなくなってしまいそうなので、俺は全力を理性に放り込んで歩みを止めずに神殿までアリシアを送り届けることに成功した。

アリシアは神殿で俺と別れる時、反対側のほっぺにもチュッと軽くキスをして奥の方に去っていった。

アリシアが離れてもその熱がまだ残っているような感じがした。俺はどこをどう帰って孤児院についたのか全く覚えていない。

もう何かを考えようとしても頭の中がぐるぐるしていて夕食を軽くとった後は早々にベッドに潜り込んでしまった。


♢♢♢


数日後、約束通り朝早くに神殿に向かった。出てきたアリシアはツインテールにしていてローブの下に鎖帷子を着込んでいてメイスと盾を装備していた。

「重装備だねえ。」

俺が驚くと、アリシアは「そうなの。護衛騎士様がいるけれど自分の身を守るのが聖女の務めなんですって。」という。

神殿の馬車で王都から出て街道を進む。

どうやらクエストの目的地は古代の祭壇で、そこに聖女の宝玉という宝石があるらしい。それを間違えればクエスト完遂ということになるのだが、今はその祭壇は邪教の神殿になっているらしい。

どういうことなんだろうと聞いてもアリシアもなくわからないのですというだけだった。

王都を出て半時間ほどすると馬車が止まった。

街道から森の方に細い獣道のような道がある。

「この小道を辿ってゆけばいいんだね。」

俺たちはその道なき道を進み始めた。

その小道を少し辿ると小さな広場に出た。そこには黒い服を着たおっさんが立っている。

おっさんは「アリシアちゃん、さあ、ワシと愛の巣に行こう。もう準備はできているよ。」とアリシアの方に向かってゆく。

明らかにアリシアは怖気を振るった様子で俺の背中に隠れて「ガードン男爵、結婚の話はもう何度もお断りしたはずです。気持ちの悪いことを言わないでください!」とおっさんに向かって叫ぶ。

それで俺も気がついた。ああ、こいつはロ◯男爵だった。

アリシアは「ねえ、ジャン、護衛騎士として私を守って」と僕にささやく。

仕方がないので剣を抜く。

「男爵、女の子に嫌われているんだから大人しく帰ってください。」

男爵は怒り心頭の表情で「はっ、貴族のワシがなぜ平民ずれの命令を聞かねばならんのだ。貴族が命令して平民がその命令を聞くというのが本来あるべき姿だ。お前こそ武器を捨てて平伏しろ!」

あ、だめだ。話が通じない。

殺すまではいかないけれど峰打ちで痛い目に合わせなきゃいけないかなあ。

と、男爵は剣の間合いに入るずっと手前で腕を振り、「やってしまえ」と叫んだ。

と、周りの草むらから5人ばかりの武装した男たちが現れて抜刀した。

男爵は「平民など殺しても構わん。徹底的にやれ。」とか言っている。

俺だって一応王に騎士に叙任された貴族の端くれなんだけれどそんなこと言っても通じないよなあ。

男爵のわがままのために殺されるのもかわいそうだろうと俺は剣の腹でぶっ叩くことにした。

武装はしているが構えもあやふやでほとんど訓練されているとは思えない兵たちである。

鎧の上から剣の腹で殴るように叩くとみんなよろよろと倒れてしまった。

男爵は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「やはり平民の兵士は役に立たぬわ。貴族でないと戦争などできん。」

後ろを振り向いた男爵は「先生、お出ましをお願いします。」と誰かを呼んだ。

すると、後ろから筋肉ダルマみたいなおっさんがのっそりと現れた。

「ははは、平民のお前は知らんだろうが、この方はかのトゥーラン辺境伯領で騎士をされていたお方だ。伝説のイアン・マッカラム様に指導を受けたこともある方だぞ!お前など一捻りだよ。」

と男爵は高笑いして「先生、あの生意気な平民を叩き潰してください。でも娘の方は傷つけないようにお願いします。」と"先生"に向かって言う。

アリシアは「もしかしてイアン・マッカラムってこの間亡くなったあのおじいちゃん?」と小声で聞いてくる。

僕は軽く頷くと“先生“の前で剣を構えて踏ん張る。

“先生“は「剣は殴るもんじゃねえ」と言ってゆっくり鞘から抜いて構えた。

俺は青眼の構えから一気に相手の間合いに飛び込んで連続で剣を振り下ろした。

“先生“はさすがに俺の攻撃を防ぎ切りはしたが既に肩で息をしている。

「まだやる?」

俺は余裕な態度で聞いてみる。

“先生“は顔を歪めている。向こうから打ち込んでも敵わないということには気がついているようだ。男爵に雇われているわけだから逃げ出すわけにもいかないし辛いところだろう。

アリシアが横から「そろそろ諦めなさい。うちの護衛騎士はそのイアン爺ちゃんに基礎から叩き込まれているのよ。あんたでは敵わないことはわかっているでしょう。」と言う。

“先生“は表情を変えて「イアン騎士団長はあのスタンピードを生き残られたと言うのか!」と叫ぶ。

「残念ながらこの冬に亡くなったよ。お墓はチャーチワード孤児院の裏に作ったからお参りしたいならおいでよ。」

そうすると“先生“は突然突っ伏すと、オイオイと男泣きに泣き始めた。

もう男爵は呆然としている。

仕方がないので俺はあのペンダントを取り出して、「これを見たことがある?」とその“先生“に聞いてみた。

“先生“はそれをみてハッと背筋を伸ばすと「これはスペンサー家の嫡子の証。あなた様は…」と絶句する。

「知っていてくれて良かったよ。俺の本名はエドワードって言うんだ。」

「そ、それでは私は主筋に刃を向けたことに…」

「なに、練習みたいなものだから大丈夫だよ」

「私如きが敵わないのは当然のことにございます。」

「国王陛下はあの失地回復を願われているんだ。まだまだ俺も力不足だけれどもし生き残りがいたらスペンサーの後継は失地回復の準備をしていると伝えてくれないか。」

「はっ。私、トーマスは生き残り全員に御嫡子様のことをお伝えさせて頂く所存でございます。皆もスペンサー家が失地回復を目指していると分かれば励みになるでしょう。神が御嫡子様をお残しいただいたことに限りない感謝を!」

そしてまた男泣きに泣き出した“先生“を残して男爵を見ると男爵はそーっと距離を取って逃げ出そうとしていた。

「さて、ガードン男爵。」

「はひっ!」

「アリシアは君とは結婚したくないんだって。」

「そ、そうでありますね!」

「うん。これ以上付き纏わなければなにも言うことはないよ。でも。」

「はいっ!撤退させていただきますっ!」

「倒れた兵士たちの救援もやるんだよ。」

「はっはひっ!」

「じゃっ」

こうして俺とアリシアは先に進むことができたのだった。

さらに数十分進んでゆくと沼地になってきた。なんとか沼の端を進んでゆくと沼の中に奇妙な建物が建っている。気づかれないように様子を探ると、入り口のところに2匹のトカゲ人間が槍を持って門番をしていることがわかった。

「確かに邪教の神殿ぽいね。」

「そうですわね。でもどこに祭壇があるのでしょう。」

「それはわからないな。まずはあの門番を倒して中に入ってみるしかないか。」

沼の深さはわからないので下手をすると底なし沼に沈んでしまう危険がある。そういう危険を回避するためには道伝いに行くしかない。

道を歩くことになれば向こうからは丸見えである。

とにかく白い布を被って巡礼者っぽくして近づくことにした。

アリシアは危険なので合図するまでは物陰に隠れていてもらう。

俺は頭からすっぽりと白い布を被ってまるで老人が歩くようにゆっくり歩くことにした。巡礼者はもうお迎えが来そうな老人に多いし、きっと門番も老人相手ならば油断するに違いない。

けれども、長い参道を向こうから見られていることを承知でゆっくり歩くことには結構精神力が必要である。もう早く駆け出してあっという間に門番を切り伏せたいという衝動に対抗してゆっくりゆっくりと歩みを進めていく。門番たちは特にこちらに異常を感じてはいない様子である。どちらの門番も微動だにせずじっと立ったままである。

近づいても彼らはじっと前を向いたままでこちらに興味を示す様子もない。槍の間合いに入った後ダッシュして刀の間合いに入りながら抜刀して門番の1人に切りつけた。

もう片方の門番は懐から笛のようなものを取り出して口に持って行こうとしている。切り伏せた方の門番の止めは刺せていなかったが、もう一方の門番の腕を攻撃して笛を取り落とさせた。

続く二撃目で門番にトドメを刺し、もう一方の門番にもトドメを刺した後、神殿の扉をそっと開けてみた。中は無人で大きな蛇身の像とその前にお賽銭箱が設置されていた。

奥から物音がしないことを確認すると俺は一旦外に出てアリシアに合図した。

門番の死体は沼に落としてやるとそのままズブズブと沈み込んでいった。やはり深い沼だったようである。

アリシアと一緒に再び神殿の中に入ると蛇身像を見た。アリシアはこんな神像は見たことがないと言う。やはり邪神の神殿だということかもしれない。

お賽銭箱はいくら邪神であってもお賽銭のお金を取るのは良くないので触らないことにした。

像を見ているとその横に通路があった。特には隠されてはいないものである。奥にはトイレのような構造の部屋と反対側に詰所っぽい部屋があった。詰所には先ほどの門番と同じ格好をしたトカゲ人間が4匹いたのでそれほど時間をかけずに制圧した。通路はさらに続いていておよそ10m先には大きな扉があった。扉の前にはやや色の変わった床を見つけた。少し離れたところからその色の変わった床に石を投げてみると、スイッチが起動したようで壁の穴から大量の矢が発射された。

「うわっ!罠も仕掛けてあるのか。」

「すごいね、罠も見つけられるんだ。さすが私の護衛騎士よ。」

「いや、流石にまぐれ当たりだよ。」

矢には毒が塗られてあったみたいで当たったら毒でお陀仏だったかもしれないと思うとちょっと震えそうになったのは秘密である。

「罠が発動しちゃったんだから流石に部屋の中に誰かいたら気がついているよねえ。」

「まあ、注意して扉を開けてみよう。」

扉を開けるとローブを着たトカゲ人間が2匹壇上に立っていた。奥には金色に輝く蛇の像がある。

ローブを着たトカゲ人間たちは「くえっくえっ」と気味の悪い笑い声のような声を上げると腕を奇妙に振った。

すると石畳の床から骸骨人間が浮かび上がってきた。石畳を壊して出てきたわけではないので恐らくは魔法か何かで転送されてきたのであろう。

「ジャン!ちょっと時間を稼いでちょうだい!」

よしっ。俺はナイフを二本取り出した。

骸骨人間の骨に打撃を与えるのは結構難しい。隙間が大きいのでよほど狙わないと当たったつもりが当たっていないことがよくある。だからといって頭蓋骨を狙うと刃こぼれしそうで嫌である。

それで、打撃を与えるよりも骸骨人間の攻撃を受け流す方に主眼を置いて対応することにした。

アリシアは踊るように呪文を唱えている。

アリシアに攻撃が向かないようにひたすらこちらに攻撃を集めて受け流すことに専念した。

アリシアの呪文が終わり、「神の御名にて命ずる!ターンアンデッド!」と叫び護符を掲げると3体ほどの骸骨人間が全身から煙を吹き出しながら逃げ出した。その後、アリシアはメイスを取り出すと骸骨人間の頭にメイスを打ちつけ始めた。

メイスであれば刃こぼれする心配はないので骸骨人間の頭を叩いて骨組みを破壊することが可能である。

俺が前衛に立って骸骨人間どもの攻撃を受け流し、アリシアがメイスで骸骨人間を叩いて倒すという連携で対応している。

やはり餅は餅屋。アンデッドは神殿の聖女様が対処するのが良いということかもしれない。

ほぼ骸骨人間を倒したので、俺はダッシュでローブを着たトカゲ人間たちのところに向かい、攻撃を仕掛けた。ローブのトカゲ人間たちは万番のトカゲ男たちくらいしか体力はなさそうであった。恐らくはもう一度骸骨人間を呼び出そうとしていたのだろう。「くえっくぇっ」と謎の笑い声を上げようとしていた。

「させるかあっ。」

俺はナイフを一体のトカゲ人間に投げつけ、もう一本で手近のトカゲ人間に切り掛かった。

どちらのトカゲ人間も「ぎゃっ」といって呪文を中断した。

その時、骸骨人間を倒したアリシアがやってきた。

「もう、骸骨人間なんて呼び出したらダメなんだよ。」

そういってアリシアがメイスでトカゲ人間たちの頭を殴るとどちらも「きゅう」といって伸びてしまった。

どちらもわずかに息はあるがもう意識不明の重体である。

とにかく、このトカゲ人間たちの宝飾品は奪い取って口には猿轡を噛ませて魔法が使えないようにしておいた。

そうして部屋を探ったが、地上に続く非常口の階段を見つけただけで、他に出口はないようだった。

これだけ探しても出口が見つからないのでアリシアは明らかにイライラしている。

「お、おい、アリシアってば落ち着けよ。」

「これで落ち着けって?一体出口はどこなのよ!」

アリシアは手近にあった蛇の黄金像をむんずと掴み上げると床に叩きつけた。床はゴゴゴと震えた。その黄金像の転がった先には真っ暗な穴が開いたようである。可哀想にトカゲ人間たちはアリシアの暴挙に巻き込まれて既に穴に落ちてしまったようである。

「オホホ、やっぱり私は天才だわ。この穴こそ出口よ。さあ、私たちもこの穴に飛び込みましょう!」

俺は思わずマジマジとアリシアの顔を見たが彼女の顔は真面目なままである。

「わかったよ。じゃあ俺が先に飛び込むからアリシアは後に続いてきて。」

「先導よろしくね。」

まあ、先導するったって穴は一本道だけれど。

穴は垂直ではなく斜めになっていてグネグネと捩れていた。俺とアリシアは思わず「わああ!」と叫びながら穴の中を滑り降りて行ったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ