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語られない日常~隠蔽された最強のお仕事、後編~










「ヒャッヒャッ!」


 両手の指の間に挟んだナイフを投げてくる男。


 それを全て刀で弾き、男に向かって出せる限りのスピードで近づく。



「おっとォ」


 近寄らせまいとナイフを投げつけてくる。


 飛んでくるナイフは的確に心臓や眉間などの急所を狙ってくる。


 それ故に、簡単にナイフを弾く事が出来る。


 まあ同じ場所しか狙ってこないのなら、そこを守ればいいだけの話。


「ふっ!」


 男の懐に潜り込み、鋭い息と共に刀を横へ走らせる。


「そんなカリカリしなくてもいいじゃないですか。よっと」


 それをひらりとかわし、距離をとる男。


「怖いですねェ、怒った人の顔は。ああ、怖い怖い・・・・・・」


 顔を手で押さえる動作をする男。


「そんな怖い顔をされると――――――」


 顔を覆った手をだらりと下ろし、身体を前のめりにする男。


「――――――思わず、恐怖で覆いたくなるじゃないですかァッ!」


 次の瞬間、男の顔が目の前にあった。


「っ!」


「ヒャァッ!」


 右手に持っていたナイフで首を斬ろうとする男。それを刀で弾き、


「ふんっ!」


「ぐほっ!?」


 男がよろけた隙に鳩尾に拳をぶち込む。


 男は数メートルバウンドしながら飛んだかと思うと、空中で回転しつつ両足から着地した。


「・・・・・・ふゥ。中々やりますねェ貴方」


「人殺して喜ぶような奴に誉められても嬉しくないな」


「そんな冷たい態度をとらなくてもいいじゃないですかァ。私は悲しいですよォ、折角の獲物にそんな態度をとられて」


 はぁ、とため息をつき、悲しげな動作をする男。


「ああそうかよ。俺はテメェをボコボコにしたくてたまらないんだがな」


「暴力的です、ね!」


 会話の途中で突然ナイフを投げる男。一本しかこなかったので首を曲げて避ける。


「ちゃっちゃとケリをつけさせてもらうぞ。『タイムストップ』」


 男の時が、世界の時が止まる。


「まあ、これで死んでも文句は言うなよ」


 男の周りを囲むように無数のナイフを投げる。


 ナイフ達は男に当たる直前でピタリと止まる。


 無数のナイフで囲まれたその姿はまるで監獄に捕らえられた囚人のようだ。


「チェックメイトだ」


 パチンと指を鳴らす。と、世界の時が動き出し、男の時間も動き出す。


「!?」


 男が驚いたような声を上げる。


 自分の周りにナイフが突然大量に現れたのだから、驚くのも無理はないだろう。


 止まっていたナイフ達が動き出す。


 このままだと串刺しにされた死体を拝めそうだったので、男から目をそらすために後ろを向く。


 リアル黒ひげ危機一髪なんて見たくも無い。


 やがて男の狂ったような笑い声が聞こえたが、ナイフが何かに刺さる音がしばらく続くと、その声も聞こえなくなった。
























「・・・・・・はぁ。あーしんどかった」


 流石にあのナイフの大群に襲われたのではとても生きてられないだろう。


 ナイフの刺さる音がしなくなったので、あんまり見たくは無かったが男がいる方へ目を向ける。


「・・・・・・流石に、もう一度動くなんて事はないよな」


 身体中にナイフが刺さった動かない男が見えた。


 男の身体からはおびただしい量のどす黒い血が流れていて、それが地面を真っ赤に染めていく。


 もう間も無くコイツは死ぬだろう。そうすれば町に平穏が戻り、ギルドから受けた依頼も達成となる。





「・・・・・・ヒャッ、ヒャッ・・・・・・まだ、私は死んでいませんよォ・・・・・・?」


「・・・・・・!!」


 男が、立ち上がった。


 何度も倒れそうになりながら。


 無理をしたせいか、流れる血の量が多くなった気だした。


「まだ、私は、貴方を・・・・・・殺シ、チャイナ・・・・・・イ」


「・・・・・・お前にゃ無理だ。俺は、殺せないよ。だからさっさと死んでくれ」


「ヒャッ、ヒャッ・・・・・・諦メル?ワタシ、ガ?・・・・・・獲物ヲ殺セナカッタ?私、ガ」


 今にも死にそうなのに、それでも声を出し続ける男。そんな事をやっても、死ぬのを速めるだけなのに。


「もう一度言う。お前にゃ俺は、殺せない」



「ヒャッ・・・・・・ヒャッ、ごホッ・・・・・・」


 男が口から真っ赤な血を吐き出す。


「・・・・・・」


 男に向かってゆっくりと歩く。


「ヒャッ・・・・・・おや?ワタシニ止メデモさすのデスか?」


 ゆっくりと刀を振り上げ、男に向かって――――――。































「・・・・・・ただいまー」


「お帰りなさっ・・・・・・!?あぅ・・・・・・」


 学園に帰り、部屋を開けた直後にリリアがぶっ倒れた。何事?


『主、服を良く見てください』


「服?・・・・・・げっ」


 服をよく見ると、どす黒い血が所々についていた。まあそりゃビックリするわな。























「んー。スッキリ爽快リフレッシュ、ってな」


 服を洗濯し、ついでに髪にも血がついていたので軽く風呂に入った。いやあ、風呂というのは本当にすばらしい物だ。


「リリアは・・・・・・まだ気絶してら」


 未だにぶっ倒れてたままだったので、ベッドまで背負って行き、やや乱暴気味にベッドに落とす。


 「あうっ」と一瞬声が聞こえたが、まあいいだろう。




「・・・・・・ちょっと夜風でも当たってくるか」


 部屋の扉を開け、夜風に当たりに行く事にした。























「やっぱりここ、だよな」


 選んだ場所は時計塔の一番上の場所。


 丁度いい出っ張りがあったので、そこに腰掛ける。


「・・・・・・銀、ちょっと人型なってくれる?」


『え?でもあれって確か危険だからなるなって言ってませんでしたっけ?』


 うん。主に理性が危険だな。


「んー・・・・・・まあいいや。許可する」


 銀が一瞬光に包まれ、かなり前に一度見た例の少女になった。ぐっ・・・・・・相変わらず理性をガリガリと削ってくれる。



 


「隣、座ってもいいですか?」


 ええどうぞ。もちろんどうぞ。


 そう言ってやると嬉しそうに尻尾をブンブン振り、耳をぴょこぴょこと動かしながら隣に座る銀。


















 え?














「・・・・・・え?」


 座ったのを確認した後即座にもう一度銀を見てしまった。所謂二度見というやつだ。


 いやおかしい。前人型にした時は完全に人と変わりなかったはず・・・・・・。




 それが・・・・・・!


「それが何故獣耳+尻尾というオプションがついているんだ・・・・・・!」


「・・・・・・?主、どうかしました?」


 こちらを見て小首を傾げる銀。それに合わせて尻尾も揺れる。


 ぐぅっ・・・・・・!コイツ、いつの間にそんなスキルを覚えた!?


 いやいや、そんな事は置いといて。



 胡坐をかき、足をポンポンと叩く。


 何が言いたいのかというと、ここにおいで、である。


 それを見た銀は嬉しそうに俺の目の前にぽすんと座る。俺に背を向けて座っているのでさっきから尻尾がモフモフと顔に当たるがこれはこれでイイ・・・・・・。


「主・・・・・・」


「この尻尾のモフり感がたまらな・・・・・・どうした銀」


 尻尾をモフモフしていたのをバレないように取り繕う。・・・・・・どうやらバレていなさそうだ。


「本当に、これで良かったのでしょうか?」


「・・・・・・さぁな」


 人を斬った感覚が、今も手に残っている。


 俺は正しい事をしたのだろうか?


 そんなのは、誰にも分からない。


「正しいことなんて誰にも分からんさ・・・・・・誰にも、な」


 銀をぎゅっと抱きしめ、頭に顎を乗せる。あ、抱き枕みたいでイイなこれ。


「うわっ!?ちょっ、主いきなり何を」


「すまん。・・・・・・しばらく、このままでいさせてくれ」


 びっくりした様子の銀だったが、落ち着いたのか抵抗するのをやめてくれた。


「・・・・・・不安なんだ、俺は。あの時、もっと慎重に行動を選べばよかったんじゃないのか?もっと誰もが喜ぶような結末があったんじゃないのか?もう過ぎてしまった事だが、どうしてもそんな思いが離れないんだ」


「主・・・・・・」


 銀の心配したような声が聞こえてくる。


「まだ気持ちの整理がついていないんだ。そりゃ初めて人を斬ったんだからな。だから」


 ――――――落ち着くまで、このままでいさせてくれ。


「・・・・・・・はい。落ち着くまで、私はずっといますよ」


 銀の優しい声が聞こえた。

 シリアスの後はしんみりさせるのが基本形だと思う私ですが、どうもこういうのは苦手みたいです。


 ほら、今でも手が拒絶反応起こしてぷるぷる震えてるんですもん。あはは。


 以上あとがきですた!

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