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第50話~憎しみ とある少年の日記~



 ○月×日


 ――――――憎い。アイツが憎い。


 アイツのせいで、僕の人生は狂ってしまった。


 アイツさえいなければ。


 僕の家は代々受け継がれてきた名門。つまりエリート中のエリートとなる。


 そんな家柄、絶対に負けは許されなかった。


 かく言う僕も、今まで負けた事は一度もなかった。


 

 アイツに出会うまでは。


 

 アイツのせいで、父親には「出来損ない」と言われた。今まで一度も言われた事なんてなかった。


 確かにアイツは強いだろう。魔力の量もとてつもなかった。


 だが、アイツはその溢れんばかりの魔力をほとんど使わずに僕に勝利した。


 ――――――つまり、アイツは手加減したのだ。


 ただでさえ負けが許されるはずはないのに、手加減されたとなれば父親の怒りようも分かる。


 

 僕が出来損ない?


  違う!僕はエリートだ。アイツに負けたのは少し油断していただけだ!



 次に勝負して勝つのはこの僕だ。絶対に。



 






 ○月△日




 今日、憎いアイツに決闘を申し込んだ。


 それを、アイツはなんと拒否した。面倒だから、と。


 あり得ない。誇りある名門の生まれである僕との決闘を拒否するなど。


 それは僕の誇りを汚す行為だ、として責め立てた。


 すると、嫌々と言ったように決闘をすることを約束してきた。少し気に食わなかったが、受ける、と言った以上僕は何も言わない。次こそは絶対に勝つ。アイツの顔が悔しさに歪むのが想像できた。








 ○月□日


 負けた。何故だ?何故アイツに勝てない?


 僕はアイツに、何故僕が負けるのか、と投げかけた。


 するとアイツはストレートに、


 お前が弱いから。

 

 と言ってきた。


 僕が弱い?学園のトップに君臨する僕が?


 納得いかない。もう一度決闘を申し込んだ。


 するとアイツはもうやめてくれ、と言わんばかりに、激しく首を振った。


 何故僕との決闘を拒否する?名家の生まれの僕の決闘相手をするなど、名誉以外の何者でもないのに。


 結局、アイツは首を縦には振らなかった。




 ○月××日


 アイツが何故あんなにも強いのか?僕はそれを調査するため、朝からアイツに見つからないように尾行した。


 まず朝。一般的な時間よりやや早めに起床。その後、人間が50人は乗っても大丈夫そうな巨大な岩を大量に砕くという特訓をしていた。しかも素手で。


 あり得ない。あんなもの、魔力を拳に纏わせたもので攻撃してもヒビ一つ入らないだろう。


 それをアイツは、何の強化もなしに素手でやり遂げたのだ。


 あの強さは一体どうやって手に入れたのだろうか?引き続き調査を続けることにした。



 ○月×△日


 特訓を終えると、主人を起こしに部屋へ戻っていった。見つからないようにこっそりと後をつける。


 最初は名前を呼びつつ、身体を揺さぶっていたが、この後僕は信じられないものを見た。



 ――――――なんと、自分の主人に張り手を食らわせたのだ。


 食らった相手は宙を飛び、そして重力に従って落ちていき、やがて蛙が潰れたような悲鳴を上げて地面に落ちた。


 その後すぐに起き上がり、講義の声を上げるが、アイツは起きない方が悪い、とぴしゃりと言い放った。


 なるほど。確かに一理ある。


 主人を起こすのも使い魔の使命である。アイツはそれを成し遂げただけだ。


 ふと視界の隅に、元々僕の使い魔だったドラゴンが見えた。


 表情は分からなかったが、とても楽しそうだった。


 僕の下にいた時は、いつもどこか遠くを見ているような気がしていた。僕は間違った事をしていたのだろうか・・・・・・?


 そう考えると、何故か少し寂しい気持ちになった。


 いけない。僕は気を引き締め、再びアイツの調査を続ける事にした。



 ○月×△日


 アイツは昼食を食べ終わった後、学園の外へ出た。


 エリートであるこの僕が授業をほったらかしにして外へ出るのはいささか問題があったが、アイツに勝つためだ。やむを得ない。



 学園を出て、街へ入ると、相変わらずの活気。


 声を張り上げる中年の男性。


 売込みをする若い女性。


 それを見て鼻を伸ばす男性など、様々な人で溢れている。


 アイツはそれら全てを無視し――――――時々絡んでくる男性を殴り飛ばしながら――――――静かに路地裏に入っていった。


 この国は治安もそこそこ良いのだが、路地裏などといった人目の届きづらい所では未だに犯罪はある。 

 

 そんな危険な所にあえて行くとは、アイツは一体どういう神経をしているのだろう。


 そんな路地裏をしばらく歩いていると、突然、広大な空間が現れた。


 路地が段々と広がっていくわけでもなく、突然、とてつもなく広い空間が現れたのだ。


 アイツはその空間の中心部へ向かってゆっくり歩いていった。


 すると、そこに何かがあるのが見えた。


 犬の鳴き声が聞こえる。幼い子供のものだと思える高い声も聞こえる。ここは一体なんなのだろう?


 歩き続けて、ある程度行ったところで、ようやくここが大きな建物だということが分かった。


 こんな路地裏の奥に?


 一体どうやって?


 そして、何故こんな治安の悪い所に?


 謎は深まるばかりだが、アイツが動き出したので僕もそれについていく。


 入り口と思わしき巨大な門をくぐり、中へ入る。


 すると、アイツに向かって数匹の犬が飛びついた。


 尻尾を千切れんばかりに振っている事から、よっぽどアイツに懐いているのだろう。


 という事は、アイツは前にもここに来た事があるのか?


 それとも、初対面であそこまで懐かせる何かを持っているのか?


 ますますアイツという存在が分からなくなった。


 しばらく犬とじゃれ合っているのを見ていると、建物の中から誰かが飛び出してくるのが見えた。


 小柄な身体からして、恐らく先ほどの声の出元である子供だろう。


 子供がアイツに向かって飛び掛る。


 それを、見事な当身で叩き落すアイツ。


 さらに続々と子供達が現れる。


 それをアイツは、次々と避けたり叩き落したりしている。


 これも特訓なのだろうか?


 もしそうだとすれば、一体何の特訓なのだろうか?


 多人数との戦闘?何故わざわざ子供を相手に?


 段々頭がこんがらがってきてしまった。一旦思考を中止する。


 無心の状態でよく見ると、ただ単に子供達とじゃれ合っているだけのように見えた。どうやら特訓ではないらしい。


 しばらくそんな状態が続いた。



















 長い。長すぎる。


 陽は傾き、視界が真っ赤に染まっている。もうすぐ夜だという事を分かっていないのだろうか、アイツは。


 何故観察している僕の方がイライラしてるのだろうか。訳が分からなくなったので一旦思考を中止する。


 しばらく見ていると、子供達の目がだんだんと閉じていくのがわかった。


 子供にとってはそろそろ寝る時間なのだろう。


 アイツは眠そうな子達を、一体どうやったのか次々と眠らせていった。本当に何をしたのだろうか?


 やがて全ての子供達を眠らせたアイツ。心なしか、アイツも眠そうに見える。


 その後、アイツは子供達を全員背負って建物の中に入っていった。


 その数分後、アイツが出てきた。先ほどとは違い、子供達は背中にはいなかった。子供達はきっと建物の中だろう。


 そしてアイツは、別れを惜しむかのように、ゆっくりと、時々振り返りつつその建物を後にした。











 ようやく学園に戻ってこれた。先生からは一体どうしたのか?と聞かれたが、うまく誤魔化しておいた。


 アイツを倒すために尾行した、など、学園トップの僕の口からは決して言えない。


 アイツは自分の部屋へ・・・・・・かと思いきや、何故か時計塔の上へ登っていった。その後にあのドラゴンがついていった。


 何をするか少し気になったので、僕も後ろからついていく事にする。



 時計塔の最も高い所へ登り、近くの出っ張りを椅子代わりにしてそこへ座った。


 そしてポケットに手を突っ込み、何かを探しているようにガサガサと動かしだした。


 目当てのものが見つかったのか、ポケットから手を出すアイツ。


 手に握られていたものは・・・・・・何だろうか?僕には分からない物だった。


 それを口に当てるアイツ。楽器か何かだろうか?


 そう考えていると、


 

 ――――――どこからか、とても綺麗な音色が聞こえた。


 その音色は、嬉しさが込められ、怒りが込められ、哀しさが込められ、そして楽しさが込められているような、そんな音色。


 喜怒哀楽全てを表せる楽器など、僕は聞いたことも無い。


 注意深く聞いていると、その音色はあの例の楽器から出ていることが分かった。


 その楽器を演奏しているアイツの顔は、どこか寂しげで、そして悲しそうな顔をしていた。


 やがて、ゆっくりとその楽器を口から離すアイツ。


 ドラゴンが、それはなんという曲ですか?と聞いている。


 アイツは、俺がつくったやつだから、名前なんてないぞ、と答えた。


 そう答えたアイツの顔は、笑っているように見えて、でも泣いているような――――――そんな顔をしていた。


























「・・・・・・ふぅ」


 そこまで書き終えた後、日記帳からゆっくりとペンを離し、肩の凝りをほぐすようにゆっくりと背伸びをする。


「・・・・・・結局、アイツの力の秘密は分からずじまい、か」


 長々と書いてきたが、結局アイツの力の秘密は分からなかった。


 引っかかる点としては、やはり楽器を演奏している時の表情。


 何故あのような顔をしていたのだろうか?


「・・・・・・考えていても仕方ない、か」


 アイツに正面から聞くのは少々癪だが、これもアイツに勝つためだ。仕方ない。


 そう考えていると、



 ――――――アイツの力の秘密が、知りたいか?


「・・・・・・っ!?誰だ!」


 どこからか声が聞こえた。


 咄嗟に杖を取り出し、構える。


 だが、見えるものに少なくとも声を発する物などない。


 ――――――もう一度問う。アイツの力の秘密が、知りたいか?


 同じ質問をしてくる謎の声。


「・・・・・・何者だ」


 ――――――力の秘密を知る者、と言えば良いか?


 アイツが何故強いのかを教えてくれるというのか、この声は?


「生憎だが、これは僕自身の問題だ。誰かの力を借りる気などない」


 ――――――良いのか?お前一人では絶対に分からないぞ?


「世界に『絶対』なんていう言葉は無い。いつか必ずアイツの秘密は分かる」


 ――――――お前にそんな猶予があるのか?


「・・・・・・どういう事だ」


 ――――――出来損ない


「っ!!何故それを!!」


 ――――――出来損ないといわれたお前に、『いつか』などあるのか?


「・・・・・・!!」


 この声がなぜそれを知っているかは分からなかったが、少し心が揺らいだ。



 そうだ。出来損ないと言われた僕に『いつか』なんて来るのか?その前に家を追い出されてしまうかもしれない。


 いいや駄目だ。コイツの誘いに乗ってはいけない。秘密を教わると同時に何かとんでもないものを見返りに求めてくるのだろう。そんな奴の言う事など聞けない。


 ――――――迷っているようだな


「うるさい!黙れっ!」


 杖を出鱈目に振るうが、当然声は消えない。


 ――――――出来損ない


「黙れ!黙れ黙れ!」


 ――――――出来損ない、落ちこぼれ、家の面汚し、


「黙れええええええっ!!」


 耳を塞ぐ。だが、声は頭に響くかのように消える事は無かった。


 ――――――どうした。何を迷っている?アイツに勝てば、証明できるのだろう?自分が『出来損ない』などではないと


 




 ――――――そうだ。


 アイツに勝つ事ができれば、僕は出来損ないなどではないと証明できる。


 これまで何度も決闘を申し込んだが、全て負けた。この事が父親にバレれば、もっと酷い・・・・・・あるいは、本当に家を追い出されかねない。




 ――――――力が、ほしいか?


 


「力・・・・・・だと?」


 ――――――そうだ。アイツの力の秘密など知らなくても、お前自身が力をつければいい。そうすれば、自分が出来損ないではないと証明できるだろう?


 

 力。



 







 欲しい。


「・・・・・・力が・・・・・・」


 アイツを倒せる程の、力が・・・・・・!


 ――――――ならば、誓え。我の配下になると


「・・・・・・そうすれば、アイツを倒せるのか?」


 ――――――そうだ。そして証明しろ。お前が出来損ないなどではないと




 そうだ。



 僕は、出来損ないじゃない。


「いいだろう。僕は誓う!今から僕は貴様の配下であると!」


 ――――――よろしい。では、力を授けようではないか


 途端に、体中に溢れんばかりの魔力がこみ上げてくる。


 これ程の量があれば、アイツなど簡単に××せる。


 ――――――今からお前は我が配下だ。我が名は――――――



 そして、僕の意識はそこで途絶えた。

 久しぶりに更新できたと思ったら急にシリアスになってしまった・・・・・・。


 今回出てきた人、分かった方いるかな・・・・・・?

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