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真・終章~またいつか、その日まで~

 後日談が欲しい、という感想が届きましたので、何ヶ月かぶりに更新を。書き方が前と違うと思いますが勘弁してつかあさい。



















 時間が流れるのはなんて早いのだろうか。魔王を討伐してからもう一年か、二年か。カレンダーらしきものは無いから頼れるのは己の体内時計と元の長さに戻った自分の髪。てかカレンダー作れよ。てか作るぞ。作りたい。


 まあ、どうでもいい事かね。


 俺は相変わらずリリアの部屋にお世話になっている。使い魔って事を忘れがちだが、一応主人に設定されてるんだから仕方ないね。


 部屋のソファに寝そべりながらぼーっと天井を見上げる。リリアは現在勉強中らしく部屋にはいない。銀は頭の上ではなく俺の腹の上でうずくまって穏やかな寝息を立てている。


「……暇だ」


 思わずそんな事を呟いてしまう。だって仕方ないじゃん。魔王はもういないし、そもそも使い魔って何のためにいたかも覚えてないし。


 『使い魔』という単語に反応し、ふと手の甲に浮かんでいる不可思議な模様を見てみる。これが使い魔である証拠なんだそうだ。


「……ん?」


 が、そこでふとその模様がまるで煙のように揺らめいているのが分かった。普段ならくっきり焼印でもしたかのように張り付いてるはずなのに。


 リリアにでも聞いてみようか―――ソファから身を起こした所で、とてつもなく良いタイミングでリリアが帰宅した。お前タイミング図ってたろ。


「おかー」


 気だるげに声をかけてやる。が、リリアはたいした反応は見せず、頬を僅かに朱に染めて俯いたまま動かない。


 ……最近はどうにもこんな感じだ。もしかして例の胸チラ事件(故意にあらず)の事を気にしているのだろうか。体感時間じゃ何年も前の事だというのに。


 まあいいや。とりあえず模様について聞いてみようか。


「なあリリア。ちょっとこれ見てくれ」


「……」


 リリアに近づいて手の甲を見せてやるが、俯いたまま動かない。ぶんぶん手を振ってみるが効果なし。何ぞ?


「リーリーアーさーん? 聞こえてたら返事」


「……ふぇっ。あ、リュウキさん」


 ようやく気づいたらしい。間抜けな声を出すリリアに呆れながらも手の甲を見せる。


「ここの模様なんだけどさ、ちょっと揺らいでない?」


「あ、そうですね……確かに揺らいでます。確かにおかしいですね」


 まさか召喚の時に失敗したのかも? とリリアが呟く。オイコラ。


「ちょっと調べてみましょうか? 図書館もありますし」


「ん、じゃあお願い」


 手を振っていってらっさいと言ってやる。リリアは微笑を浮かべながら小さく手を振り返し部屋から出て行った。再び沈黙の空間、もとい暇な時間が訪れる。


 そうだ。寝よう。暇つぶしには持ってこいじゃないか。再びソファに寝転がり、いつの間にか床に転がっていた銀を再び腹の上に乗せて目を閉じた。


 心地よい眠気が襲い掛かり、俺をゆっくり眠りへと誘って行った。























 一方リリアは学園の大図書館に来ていた。ここには世界中から様々な本を集められ、禁術とかその類以外の本なら何でも揃ってるという大規模な本屋の品揃えよりも豊富な量の本があるというとてつもない規模の図書館だった。


 本棚が何列も並び、その上にその列の本のジャンルを示すプレートが置かれている。リリアは迷わず本の迷宮を歩き『使い魔』に関する本が置かれている棚の本を何冊か手に取り、木製の長方形のテーブルの上に置き、これまた木製のイスに座ってから本を広げる。


 パラパラとページをめくり、彼女がリュウキさんと呼ぶ少年の状態を示すページがないか注意深く見るが、特に目ぼしい情報はなかった。小さくため息をつき本を棚に戻し、再び別の本を手に取りテーブルに広げ睨めっこを繰り返す。


 同じような作業に眠気を覚えながらもそれをやめないリリアの気迫に、周りで本を読んでいた一般人が少し後ずさった。リリアはそれには気づかず同じ姿勢のまま本を読み続ける。


 一体何時間読み続けていただろうか、そろそろ目の疲労が限界に達するという所まで来てようやく見つけたそのページ。


 リリアはそのページを一語一句注意深く読み、何度も読み返し、読み忘れが無いかもう一度読み―――納得がいかないとばかりにさらに読んだ。


 だが、そこに書いてある内容が変わるはずも無く。両手で支えていた本が滑り落ち、乾いた音を立てて地面に横倒しに落ちた。


 リリアの顔に驚愕と絶望が張り付いていた。


 ページにはこう書かれている。


 ―――使い魔の契約期間について―――





















「……ん?」


 ふと近くに人の気配を感じソファから身を起こす。軽く辺りを見回すともう夜空に星が光る時間帯だった。どんだけ寝てたんだ俺。


「……リリアか?」


 今更だが、この世界にはおよそ電気と呼べるものがない。魔法で光源を作り出して照らすのが基本スタイルだそうだ。そしてこの部屋でそんな魔法を使った記憶はなく、当然視界も真っ暗のままだ。


「ていやっ」


 軽い掛け声と共に指先から小さな光を創り出し、それを天井に向けて射出する。


 打ち出された光の球は天井付近で強く輝き出し辺りを眩しく照らす。光が強すぎた、ちょっと弱める。


 程よい明るさが部屋内を照らし、気配の正体が姿を現す。


「なんだ、やっぱリリアか」


 だが、どこか様子がおかしかった。


 何故か部屋の隅っこに体育座りをしてうずくまり、顔を足のひざにぴったりと張り付けている。おかげで表情が読み取れない。後若干震えてる気もした。


「? おーい」


 試しに呼んでみる。反応なし。大丈夫かコイツ。


 まさか病気とか……いや、それは無いか。


「もしや月一のアへぶらっ!?」


 今度は反応してくれた。ただし本の角が頭から生える事になったが。


 本の刺さった所から血を流しつつもリリアに近づき、やや強引だが顔を無理やりこちらに向かせるように両手で添えてずらす。


「っ……!!」


 その顔を見た瞬間、何故か心臓の奥底を何かで締め付けられたような感じがした。


 目の周りが腫れている。恐らく泣き腫らしたのだろう。ややしゃくっている。というか今も若干泣いてる。


「えー、と。とりあえず状況説明をだな……のぉうっ!」


 説明してくれと言う前に、不意に身体が後ろに倒される。床に背中を強かに打ちつけてしまい呻き声を上げてしまった。視界が若干滲んでるのは気のせいだ。こ、これは涙じゃないかんね!


「いちち……どういう事なの……」


 打ち付けた背中を気にするために後ろに向いていた顔を元の位置に戻す。


 目の前にどアップのリリアの顔がががががががががが。へぇあ?


「今度こそどういう事なの!? 誰か状況説明よろおおおおおおお!!」


 錯乱する俺だが、リリアがさらに胸に顔をうずめて泣き出した事によって俺のパニックが高速の加速的にスピードアップ……ってノオオオオオオオオオ!!


 とりあえず両手で抱きしめてみる。リリアが一瞬肩を震わせたが、さらに強く泣き出してしまった。ザ・逆効果!


 混乱+錯乱+動揺=混沌カオス。そんな最悪のステータス異常にかかった俺に対処法なぞ考える事も出来ず。リリアが泣き止むまでの数分間が地獄に感じましたとさ。



















「……大変恥ずかしい所をお見せしました。ごめんなさい」


 リリアが目の前で正座し、腫れが原因とは思えないほど顔を真っ赤にして謝る。


「いやいや、あそこで錯乱した俺も悪かった。すまんな、突然の事には耐性がないんだ」


 人間誰しも突然の事にはビックリするものだ。当然俺も例に漏れず、と言った所か。


 あ、お前人間じゃねえだろとか言った奴後で校舎裏な。


「で、一体どうしたんだ?」


 処刑方法を考えるのは後にして。今はリリアの壊れっぷりの原因を究明しなければ。


「……実は、ですね」

 

 リリアはそう前置きし、俺に一冊の本を手渡す。読めという事だろうか?


「その本の三百二ページを読んでみてください」


 言われるがままに本をパラパラとめくり、問題のページの所を目で追う。


 ―――使い魔の契約期間について―――


 『使い魔とは将来の勇者となる勇者候補を補佐するためのパートナーである』


 『候補生が勇者となった時、または勇者が必要となくなる時代が来た時、使い魔は役目を終え元の世界へと強制的に戻されるしきたりがある』


 ページにはまだ続きがあったが、俺はここで読むのをやめた。大体言いたい事は分かったからな。


「……」


 俺は小さくため息をつく。リリアの慌てっぷりはこれが原因だったのか。


「……リュウキさんは魔王を倒しました。勇者とは本来魔王を倒すための存在なのですから、魔王がいない以上勇者は必要ありません……」


「つまり、俺たち使い魔も用済みって事か」


 もしこれを読んでいたのが昔の俺だったら、どう思っただろうか。


 『勝手にテメェらの都合で呼びやがって用済みになったら帰れ? ふざけるな』


 なんて思ってたかも知れないな。


 そこまで考えて、俺はふといつの間にか頭の上に乗っていた銀を真正面に下ろす。寝息をたてている事からまだ寝ているらしい。呑気な奴だぜ。


 銀の背中を優しく撫でてやる。くすぐったかったのか銀は身をよじらせ、さらに撫でていた手に頬をすりつけた。無意識に俺が撫でていると分かったのだろう。どうやら俺は相当好かれているらしい。


 しばらく優しい目つきでそれを見ていたが、ふと視界に映った手の甲の模様の揺らめきが前よりも強くなっている事に気づき目を細めた。


 もしさっきの本に載っている事が本当だとすれば、俺は後どれくらいこの世界にいれるのだろうか?


 その疑問がきっかけに、脳内にどんどん別の疑問が溢れる。


 リリアはこの先どうなるのか。


 銀は一緒についてこれるのだろうか。それとも置いていかれるのだろうか。


 実は魔王は生きていて、再び世界を征服しようなんて考え出したら―――。


「……さん。リュウキさん!」


「っ!!」


 思考の海に溺れていると、外部から強く名前を呼ばれる。慌てて意識を外に移した。


「どうしたんですか? 先ほどからボーッとして」


「いや……何でもない」


 リリアが心配して顔を覗き込んできたので、曖昧に笑って誤魔化す。


「この契約方法はどんな魔法を使っても絶対に覆す事が出来ないよう特殊な処理がされてるみたいなんです。だから……」


「?」


「……だから……ッ」


 リリアが突然俯き、肩を震わせる。なんかデジャヴ。


「……ごめんなさい。もう耐えられないです」


 言葉の意味が分からず思わず聞き返そうとした。が、それは失敗に終わる。


「どうし―――おうふっ」


 二度目の抱擁。ただし今度は倒れないようやや力加減されているらしい。背中を打ち付けるのはもう勘弁です。


 力強く、それでいてどこか優しい抱擁だった。リリアの心臓の鼓動が聞こえる。速い。


「私は……!! 私は、貴方と離れたくない……ッ!!」


 首をひねって隣を見るが、そこにはリリアの側頭部が見えるだけで表情が読み取れない。ただ、言葉からしてどんな状況なのかは何となく察知出来た。


 首を動かした拍子にリリアの髪がふわりと舞い上がる。女の子特有の柔らかい匂いがした。


 今まで何とも思わなかったのに、何で今になってこんな風に考えてしまうのかね。分からん。


 ただ、今やるべき事、言うべき事は何となく分かった。


 空いていた両手をリリアの背中に回し優しく抱きしめ、背中をさすってやる。


「……大丈夫だ。別に二度と会えないってわけでもないんだろう? また召喚し直せばいい。会いたい時にいつでも会えるさ」


 先ほどの本をめくっている時に書いてあったとある言葉を思い出す。


 『同じ使い魔を再び召喚したい時はその使い魔の一部を媒体にすると呼び出せる』


 使い魔、つまり俺の身体の一部をここに残していけばリリアは再び俺を召喚する事が出来るだろう。


 ご都合主義? まあ、そうかも知れないな。


 でもさ。いいもんだろ? ご都合主義だって。


「……本当に、また会えますか?」


「もちろん」


「またいつか会えますよね?」


「肯定だ」


「絶対に……会えますよね」


「イエス、イエス、イエス」


 リリアが俺の肩に乗せていた頭を引き戻し、見つめあうような形になる。


「楽しくなったら呼べ。辛くなったら呼べ。悲しくなったら呼べ。嬉しい時も呼べ。怒りたくなったら呼べ。全部全部、一緒に分かち合ってやる」


 にしし、と笑ってやる。


「……そう、ですね」


 直後、一瞬にしてリリアの顔が近づき、唇に柔らかい感触。は?


 目だけ動かして下を見る。……オウ。


 まあ言わなくても分かるだろう。マウストゥマウス。唇を合わせるだけの簡単なキスだが、なんかやたら長い気がする。あ、ちょっと酸素が……。


「んー! むーぐー!」


 バンバンバン! とリリアの背中を叩く。がリリアは妖怪子泣き爺の如く離れない。むしろ強く抱きついてきやがった。やめて! 俺の酸素容量はもうゼロよ!


 本当に窒息死する……そう思った所でようやく開放される。


「……ぷはっ。お、俺のファーストキスェ……」


 喘ぐようにして酸素を補給する。ああ、空気がうまい。


「約束ですからね。またいつか会いましょう」


 そう言ってイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべるリリア。何となくムカついたので軽く頭を小突いてやった。


 少し涙目になったリリアを改めて見つめあう。そのうちおかしくもないのに俺が吹き出し、大笑いしてしまった。リリアがつられて笑う。


 その日の夜の出来事は、これから先一生忘れられない思い出となるだろう。いや、絶対忘れてなるものか。






















 模様が揺らめくから薄くなるにステップアップし、同時に俺の身体も薄くなり始めた。


 俺とリリアは部屋を出て学園内を少し歩き、ベンチのある公園のような広場まで来ていた。


 空は満天の星空で雲一つ見当たらない。穏やかな風が長くなった髪を揺らす。


「……あ、そうだ。これ渡しとかないとな」


 ポケットからナイフを取り出し、長い髪を再びバッサリ切り落とす。艶やかな黒髪の束をいつも自分の髪を束ねていたゴムで縛り、飛び散らないようにしてリリアに渡す。


「それでいつでも会えるだろ。ただしいなくなった直後とかはやめてくれよ、反応に困る」


 俺のそんな冗談にリリアが小さく笑った。俺もつられて笑う。


「大丈夫です。実は召喚魔法は意外と準備に手こずるので直後ってのは絶対にないですね」


「そっか」


 短いやり取り。その間にも俺の透過は進み、下半身は既に消えていた。もうすぐ『俺』という存在がこの世界から消え去るのだろう。


 元の世界に戻ると言っていたが、その世界で死んだからこっちの世界に来たんだから多分元の世界には戻らないだろう。どこに行くかは知らないが、まあ、なるようになるさ。


「リュウキさん」


「ん?」


 不意にリリアに名前を呼ばれる。


「……お元気で」


「お前もな」


 手を振ろうとしたが手首から先が既に消えていた。なので笑ってやる。


 やがて首から下が消えてなくなり、全てが消滅するまでのカウントダウンが迫る。


「リュウキさん」


「ん?」


「今になって分かりました。私、多分貴方のことが好きです」


 突如告白めいた事を言われしばし固まる。だが、俺も既に答えは決まっている。返事を返すために口を開く。


「――――――」


 声が出ない。喉が既に消えていた。仕方ないので口パクで告げる。


 リリアの目が一瞬驚きに見開かれ、直後、穏やかな笑みを浮かべた。


「それじゃあ、またいつか」


「―――」


 やがてリリアの姿が、学園の形が、世界が真っ白に染まった。恐らく身体の全てが透過し消え去ったのだろう。


 真っ白な、それでいてあたたかい温もりを感じる。


 不思議な事に意識は残っているので、この世界に残すように、刻み付けるように強く言葉を念じるように思い浮かべる。


 ――――――。


 その言葉は果たして残ったのだろうか。もう分からない。全部が分からない。


 やがて意識も消え去り、真っ白な光が俺を包み込んでいった。













 ――――――俺も好きだぜ、リリア――――――











 その言葉は、しっかりと彼女に届いていた。

 後日談的なもので書いてみました。長いのは仕様ですごめんなさい。色々詰め込みすぎた気もしますが大丈夫だ問題ない。


 あとがきに長々と書いていたのでこちらは出来るだけ短めにしたいです。


 さて、少し前にこの小説のPVを見ました所、なんとPV数が百万を越えていました。嬉しい限りです。


 百万PV記念に何かを書こうとは思っていましたが、既に新しい小説を書いていたので中々考える暇がありませんでした。


 しかし、つい最近書かれた感想に『後日談か続編が欲しい』とあったのです。


 この感想をヒントに灰色の脳をフル稼働し今回の話が出来上がりました。後日談というのが正しいですね。


 結局龍稀は世界から消失した事になっていますが、作中であった通りいつでも会いに行けます。


 後途中のリア充シーンではちょっとイラッとしつつも書きました。小説とはイライラしても書かないといけないシーンがあるものです。


 ……結局長くなってしまいましたね、申し訳ないです。ではここら辺で区切りとしましょうか。


 処女作とも呼べるこの小説を読んで頂き、本当にありがとうございました。それではまたいつか。

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