第107話~最終決戦!~
「――――――魔王様。例の者が城に侵入しました」
王の間と呼ぶに相応しい、巨大な玉座の置かれた空間。
「うむ、気づいている。あれ程の傷を負って尚も我に挑む・・・・・・やはりあの者が我が〈後継者〉に相応しい・・・・・・」
玉座に座るは魔王。
足元で跪くは悪魔。
「悪魔部隊がほぼ壊滅状態にまで至っています・・・・・・如何致しましょう」
「構わん。そのまま進ませろ」
「は・・・・・・?」
普通ならば絶対に止めろの一言でもあろうはずの状況なのに、全く違う返答がきて、思わず悪魔は呆けた声を出す。
「いや・・・・・・むしろここまで連れてこい。どうせ悪魔たちでは相手にならないからな」
「は・・・・・・はっ!」
悪魔はそう答えた後、闇の向こうへと消えた。
「っくく・・・・・・ふはははは・・・・・・」
それを見届けた後、魔王は人知れず笑い出す。
「いいぞ・・・・・・いいぞ〈後継者〉よ。早く我の元へ来い・・・・・・」
魔王はただ一人、狂ったように笑い続けた。
「ヒャッハー! どけどけどけええええええええ!!」
はい、どうも俺です。ただいま無双中です。
「寄らばKILL! 寄らねば寄る!」
城に入った途端わらわら悪魔が沸いてきたんで、ちょうどいいやとばかりに無双ゲージを溜めてる最中だ。何この一騎当千ゲー。
「はあっ!」
背後からリリアの勇ましい声が聞こえる。
ちらりとそちらを見れば、身の丈よりも長い大剣を振り回していた。悪魔達空舞ってるけど大丈夫か?
「今宵の俺は・・・・・・」
右手に魔力を込め、炎で包み込む。
「――――――阿修羅さえも凌駕するッッ!!」
そして炎を纏った拳で大理石のようなもので出来た床を思い切り殴る。
殴った箇所から亀裂が広がるのを確認した後、その場からすぐさま逃げ出す。
「先に地獄で待ってな悪魔共」
亀裂の広がった床が上に乗っている悪魔達の重量に耐え切れず、崩壊。上に立っていた悪魔達が床下の暗い空間へと落ちていった。
「次はどいつあいつこいつそいつ? あ、じゃあお前でいいや滅殺!」
近づいてきた悪魔から順番に屠っていく。
いや、別に殺してないよ?ちょっと戦闘不能にしただけだから。治療しないと死ぬだろうけど。
「大将はまだ出てこないのかねえ・・・・・・」
というか、さっきから景色が変わってない気がする。
大理石の床、群がる悪魔達、エトセトラエトセトラ。もう空間いじって部屋広くしてんじゃねえの?って思うくらいに景色が変わらない。
「貴様らに足りないのはぁ! 情熱思想理想思考気品優雅さ勤勉さ! そしてぇ! 何より!」
溜めに溜めた無双ゲージを開放。いっつしょーたいむ!
「 速 さ が 足 り な い ! 」
ドゴオオオッ!! という爆音と共に悪魔達が吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ悪魔達は近くにいた別の悪魔にぶつかり、さらにそれが別の悪魔にぶつかり、延々ループしてドミノ倒しになり。
「道が拓けた! 突っ切るぞリリア!」
「了解です! って何を!?」
リリアを米俵のように担ぎ、
「銀!」
『あいあいさー!』
銀が刀から翼へと変化し、俺の背中へくっつく。
「一名様空の旅へご招待ィィィィィィィ!」
「はっ――――――?」
翼をはためかせて空へと舞い、倒れた悪魔達を尻目に真っ直ぐに突っ走る。
徐々にスピードを上げ、ゆっくりだった景色の動きが高速に変わり、やがて模様すら見えなくなった。
「あ、喋ったら舌噛むから気をつけてね」
「――――――っ!」
リリアが何か喋りたそうだったので先に釘を刺しておく。
実際今喋った時も舌噛みそうになった。あぶねえ。
城の中を飛び回り、しばらくして悪魔達が再び追いかけてくるようになった後。
――――――見つけた。
何やらすげえ立派で豪華で巨大な扉を発見。
スピードを徐々に落としつつ、扉の前に着地。
「・・・・・・ふう。で、どうでした空の旅は?」
「最悪です」
うん、笑顔でそんな事言われると物凄く怖いからやめてくれ。
「さて――――――影分身」
煙が三つ舞い上がり、三体の分身がそこから現れる。
「やる事は分かってるな?」
「OK」
「派手に一発」
「ぶっ放してやるぜ!」
四人で同時に頷いてから、同時にポケットから一枚のカードを取り出し、同時に叫ぶ。
「「「「禁忌――フォーオブアカインド!」」」」
叫び声と同時に、やたらカラフルな尋常じゃない量の弾幕が、背後から追いかけていた悪魔達へと衝突。
ぴちゅーんぴちゅーんと音を立てながら次々に墜ちていく悪魔達を見るのは何か気持ちいいな。これが妹様視点か。
「・・・・・・さて。じゃ行くか」
「・・・・・・」
「どったん?」
リリアが無言だったので振り向けば、口元をひくひくと引きつらせながら、墜ちていく悪魔達を見ていたリリアが映った。
「・・・・・・何という無理ゲー」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ何も」
やがて何か呟いたが、声が小さくて聞き取れなかった。
「何もないならいい。さっさと親玉殺りにいくぞー」
やたら立派で豪華で巨大な扉を両手で押してみる。
・・・・・・開かない。何じゃそりゃ。
「むう・・・・・・リリアちょい離れて」
「は、はい」
リリアが俺から離れたのを確認した後、扉のあちこちをぺたぺたと触る。
「ここは・・・・・・違うか。こっちは弱いしな・・・・・・あ、ここは・・・・・・駄目か」
「何をしてるんですか?」
俺の行動に疑問を感じたのか、リリアがそう問いかけてくる。
「ん? 急所探し」
「はい?」
「急所探し。こういう見た目だけ頑丈そうなのはどっかに脆い場所があるはずなんだけど・・・・・・」
一見頑丈そうに見える大きな扉ってのは、がたいが大きいだけに必ずどこか弱い部分がある。
完璧な扉なんてもんは存在しないからな。
「・・・・・・お、あった」
そして、そんな小さな脆い部分を発見できた。
「触って分かるものなんですか?」
「いや、触る必要は無い」
「・・・・・・じゃ、何で触ってるんですか?」
「気分」
「・・・・・・」
リリアが黙った。
「よし」
扉の脆い部分を、指でピンと弾く。
「これで、開くかな?」
ビシビシビシッ! と脆い場所から亀裂が広がる。
亀裂が扉全体にまで達した後、ガラガラと音を立てて崩れ、ただの石の欠片と成り果てた。
「うわー・・・・・・」
リリアが後ろで呆けた声を出す。
「呆けてる暇はないぞ――――――」
リリアの方を向きながら、素早く刀に変化させた銀で飛んできた黒剣を上へ飛ばす。
「さあ、開戦だ」
崩れた扉の奥には、不敵に笑う魔王。
リリアも背中に背負っていた大剣を抜き、正面で構える。
「――――――待っていたぞ〈後継者〉。さあ、我の元へ来るのだ」
「世界の半分でももらえるんなら是非仲間になってやる所だが――――――だが断る」
刀の切っ先を魔王に向け、宣戦布告の意を伝える。
「――――――さあ、」
「始めようか――――――」
――――――ショータイムだ――――――
――――――派手に踊るが良い――――――