第103話~魔王と〈後継者〉~
「魔王? 魔王ったら・・・・・・あの魔王?」
「いかにも」
威厳たっぷりの声でそう応える魔王。
「・・・・・・で? そんな魔王さんが俺にどんな御用ですかねえ?」
なんとなく予想はついていたけど一応聞いてみる。
「お前以外の〈後継者〉は全て揃った。が、お前を連れていく役目の悪魔達が不甲斐なかったからな。我が直々に出る事にしたのだ」
「・・・・・・ああ、そう。そりゃあご苦労なこった」
刀を構え、精神を集中させる。
「で? 俺がわざわざ連れて行かれると思ってるのか?」
やや挑発するように言う。
・・・・・・が、先ほどまで魔王のいた場所には、誰もいなく。
「だろうな。だから我が出ると言ったのだ」
咄嗟にその場にしゃがむ。
虚空を黒い剣が通り過ぎる。
「・・・・・・む。反応は中々のようだな」
魔王の声を聞きつつ、その場からバックステップで離れる。
おいおい・・・・・・今の攻撃見えんかったぞ。コイツチート使ってんだろ。瞬間移動とかやめろし。
「だが」
魔王がその場で手を水平に振る。
すると、宙に浮いていた黒い剣のうちの一本が振動し、やがて物凄いスピードでこちらへ直進してきた。
「これは、どう避ける?」
魔王の問いかけ。
「――――――ぅらあ!」
刀を下から上に振り、黒剣を弾き飛ばす。
「どうしたよ。もうお終いか?」
「いいや? 後ろを見るといい」
あ?後ろ?
振り返る。
目の前に迫る、黒剣。
「うおっち!」
その場にしゃがみ込んでそれを回避する。
「自動追尾性能かよ・・・・・・!」
「お前が諦めるまでは永遠に追い続けるぞ? 諦めて我と一緒に来い」
「冗談!」
黒剣がカーブし、再びこちらへ飛んでくる。
「追尾してくるんなら――――――」
右手に炎を纏わせ、タイミングを計る。
3,2,1――――――!
「追尾出来ないようにするまで! 『火龍拳』!」
黒剣と炎を纏った拳がぶつかる。
「らあ!!」
拳を思い切り振り抜き、黒剣を粉砕する。
「ほう・・・・・・見事だ」
手でも叩きそうな様子の魔王。
「感心してないで自分の背後にでも気をつけるんだな!」
瞬時に魔王の背後まで移動し、首を狩らんと刀を振る。
殺った――――――!
空振り。
え?
「ふむ・・・・・・踏み込みが浅いな」
迫る黒剣。
魔王が振っていた。
「っぶねえ!」
頭を捻る。間一髪。頬が薄く切れる。
「おいおい・・・・・・なんつー反応速度だ」
バックステップ。アイツ今何やった?
「休憩している暇はないぞ?」
また背後から聞こえる声。
「一度見せた技が二度通じると思うんじゃねえぞ!」
振り返りながら刀を振る。
・・・・・・が、やっぱりいない。
なら、
「上だ!」
上空から迫っていた魔王を突き刺すように刀を突き出す。
「む・・・・・・!」
魔王はどんな原理か分からないが、滑るように横に移動して刀を避ける。
「次は二本だ」
そして、またあの追尾性能のある黒剣をこちらに向かって放つ。
「うるあぁ! 『火龍連拳』!!」
それを炎を纏わせた両拳で殴って粉砕。
再び背後に回った魔王に刀を振り、やっぱり逃げられる。
「ええいちょこまかと! 仮にも王なら正々堂々来いやあ!」
「『魔』を忘れてもらっては困るな。我らの辞書に正々堂々という文字はない」
三度飛んでくる黒剣。今度は四本。
「ああああああ鬱陶しい! 『火龍閃』!!」
刀に炎を纏わせ、それを水平に振る。
すると剣先から炎の龍が現れ、四本の黒剣を呑み込んだ。
炎の龍は勢いを衰えさせず、咆哮を上げながら魔王へと迫る。
「ふむ・・・・・・龍の形か。面白い」
が、魔王が手を横に振るだけで掻き消える龍。
やっぱてめえチート使ってんだろ・・・・・・!
「さっさとくたばれや『魔王』!」
「お前がこちら側へ来れば早い話だ『我が〈後継者〉』!」
魔王と龍稀が激戦を繰り広げている中。
「・・・・・・うん。やっぱりそうですよね」
一人呟くリリア。
「謝らないと・・・・・・」
それは朝の出来事。
なんとなく気まずくなってから、一度も彼とは話していない。
「うう・・・・・・一体何処にいるんでしょうか・・・・・・」
辺りを照らすのは、二つの輝く月だけ。つまりは暗い。気を抜けば転んでしまいそうなくらいに。
「また一人でうろうろと・・・・・・どれだけ人を心配させれば気が済むんですか・・・・・・」
今日は朝一度会ってから今まで一度も会っていない。
「むう・・・・・・昨日約束したのに・・・・・・」
呟いたその一言で昨日の事を思い出してしまい、
「うわああああああ・・・・・・! やめて! 黒歴史とか言わないでええええええ・・・・・・!」
一人その場で悶えるリリアがいた。
「そんな目で私を見な・・・・・・ん?」
叫び声を上げようとして、小さな違和感。
辺りは暗く、静かだ。
だというのに、
『――――――』
『――――――』
何処からか、風に乗って声が聞こえる。
「あれ・・・・・・? この声どこかで聞いたような・・・・・・」
『――――――!』
「! また・・・・・・!」
リリアの足が、自然と動き出す。
「この声は・・・・・・まさか・・・・・・!」
歩きから、走るへと変わる。
声の主を探すように、走る。
そして、見つけた。
細い通路を抜けた先にある、大きな広場。
彼と、誰かが、戦っていた。
白い髪に、真っ赤な瞳。
そして、周りに浮かび上がる黒剣。
「あれは・・・・・・悪魔?」
そういえば、以前にも彼が悪魔に襲われていた事があった。
その後に旅に出るとか言い出して勝手にどこかへと・・・・・・あ、イライラしてきた。
いや、それよりも。
「助けなきゃ・・・・・・」
彼は大事なパートナーだ。リリアの手が背中に背負っている大剣の柄に触る。
そして、乱れた息を整え、いざ走り出そうとした時。
『――――――さっさとくたばれや魔王!』
――――――え?
ま、おう?
『お前がこちら側へ来れば早い話だ我が〈後継者〉!』
こう、けい・・・・・・?
今、彼らはなんと言った?
彼は、『魔王』と。
魔王と呼ばれた者は、『〈後継者〉』と。
それぞれに。
「え・・・・・・?」
それは、つまり?
『なあ、知ってるか? 魔王が自分の〈後継者〉を探してるんだってよ』
何処かで聞いた噂話。
魔王が復活するのはまだ先だろうと思って、聞き流していた。
魔王の〈後継者〉という事は、将来の魔王で。
「じゃあ・・・・・・」
パートナーだった彼が、その〈後継者〉で。
「リュウキさんは・・・・・・」
身体に力を入れられない。
その場にへたり込む。
なんだろう。この裏切られたような気持ちは。
「魔王に・・・・・・?」
彼がそうなるはずはない。
きっと。
『何度言ったら分かるんだゴラァ! 魔王? そんな肩書きいらねえよ!』
『お前がいらなくても、この先生きていく悪魔達には必要なのだ』
『他の〈後継者〉にでも渡してやりゃあいいだろうが!!』
『お前が一番強いのだ。強い者に王の名を授けるのは当然だろう?』
ほら。拒絶してるじゃないか。
嫌だって。いらないって。
だから、立て。リリア。
魔王を倒さないと。皆の敵だろう?
勇者の敵だろう?
動けよ身体。
ほら。
何で、動かない?
どうして?
何で。
リリアは、へたり込んだまま、動かない。
「ぅるあああ!!」
「ふっ!」
黒剣と刀がぶつかる。
背後から飛んできた黒剣をしゃがんで避け、バックステップ。
「だらあ!」
「はっ!」
再び打ち合い。
一合、二合と繰り返す。
「いい加減諦めたらどう、だ!」
「お断りだ、な!」
三合、四合。
いつの間にか、互いに切り傷が増える。
そして、つば競り合いに持ち込む。
「お前もいい加減、自分が我の〈後継者〉だという事を認めたらどうだ?」
「けっ! 誰が? てめえが勝手に決めたくせにナマ言ってんじゃねえぞ!」
「あの石を触ったのはお前だろう? その時点で我の〈後継者〉となるのは決まっていたのだ」
「だったら注意書きぐらい書いとけっつの!」
互いに強く押し合い、その場から動かない。
「この世界の言語が通じるわけがないだろう」
「だったら翻訳でもしとけ!」
動かない。動けない。
「うらあ!」
「! むっ!」
こちらが一瞬だけ力を弱め、ぐらついた魔王の腹へ拳を打ち込む。
「『神龍撃』!」
そして、溜めた力を解放。
「ぐうっ・・・・・・!」
魔王がゴム毬のように地面を跳ね、やや離れた位置で止まる。
「くそ・・・・・・やっぱりイカれたか・・・・・・!」
左手が変な方向に曲がっていた。
そのうち治るから放っておく。
「改良がいるなこりゃ・・・・・・」
ため息を一つ吐く。
幸せが逃げる?もう逃げる幸せもねえよ。
「立てよ・・・・・・どうした? 俺を拉致するんじゃなかったのか?」
地面に倒れたまま動かない魔王を、挑発。
・・・・・・と言いつつ、こちらも結構限界だったりする。
身体はきり傷でボロボロだし、血も結構流れた。いい加減決着をつけたい所。
「・・・・・・ふっ・・・・・・」
魔王がふらふらになりながら立ち上がり、小さく笑う。
「ははははは・・・・・・」
顔を伏せながら。
「ふはははははははははははは!」
そして、顔を上げて豪快に。
「素晴らしい! 素晴らしい力だ〈後継者〉! それでこそ我の! 我の〈後継者〉だ!」
「うっせえ。誰もお前の〈後継者〉なんてやってねえぞ!」
「幾多の悪魔を殺し! 時に人間を殺し! つけてきた力は強大のようだなあ〈後継者〉!」
・・・・・・嫌な事思い出させやがって。
「喋り過ぎは命に関わるぞ? 魔王」
「はははははははははは! 本当に素晴らしい力だ!」
狂ったように笑う魔王。
「お前もそう思わないか?」
その言葉は、俺には向けられていなかった。
「なあ――――――勇者候補生よ」
細い通路の奥。
「お・・・・・・おいおい・・・・・・」
青い髪に、優しげな瞳。
「何でお前がここにいるんだよ・・・・・・」
リリアが。
そこにいた。
今回やけに長くなったのはきる所が分からなかったからですはい。
高校生活楽しいです。ケータイ可能だから休み時間とかに小説執筆できるし。
・・・・・・あ、これじゃないですよ?というかこっちをケータイで書こうとしたら死にました。何これ。