第98話~四つ目の国~
「さて、と・・・・・・」
ポケットから地図を取り出して広げ、次の目的地を確認する。
「今いたのがラーズか? じゃ次はルナフォード・・・・・・右上か」
ポケットに地図をしまい、次の目的地へと歩く。
国の城門が見えた辺りから、嫌な臭いがしだした。
この生臭い臭い・・・・・・まさか。
「血・・・・・・か?」
『多分間違いないです・・・・・・これは恐らく、血の臭い・・・・・・』
俺の疑問に銀が答える。
しかし穏やかじゃないな。まさか血の臭いがするなんて。
やがて国の城門まで辿り着き、誰も守る者のいない門を通る。
「うわ・・・・・・」
『これは、酷いですね・・・・・・』
中身は文字通りボロボロだった。
至る所から黒煙が上がり、建物は倒壊。
そして、溢れ返る人、人、人。
そのどれもこれもが動かない。それすなわち。
「皆、死んでやがるな・・・・・・」
そう。皆既に死んでいる。
血の臭いがする者や、肉の焼ける臭いがする者などなど。それら全てが、死んでいた。
一度立ち止まって目を瞑って黙祷し、再び探索を続ける。
だが、どこに行っても壊れた建物と動かない人だったものだけで、景色が変わらないどころか生きている人間一人すら見つからない。
これは・・・・・・さっさと帰った方がいいかな。
「・・・・・・ん?」
辺りをざっと見渡してさあ帰ろうかと思った時、一際目立つ大きな建物跡に、頭を抱えて座り込んでいる人がいた。
あれは・・・・・・生きている?
「そこの人。ちょっといいか?」
近づいて声をかける。
だが、近づいて男性だと分かった人は動かない。
「話聞いてます?」
肩を揺らしてみる。
すると男性はハッとしてから辺りを見回し、そして俺をロック。
「ああっ・・・・・・旅のお方! お願いが! お願いがあるのです!」
「うおっ」
そして勢い良く立ち上がり、俺の肩を必死の表情で揺さぶる。
「ちょ、まっ・・・・・・落ち着け! もちつけじゃなくて落ち着け!」
男性はその言葉で肩を揺さぶるのをやめ、表情をやや和らげる。
「旅のお方、お願いがあるのです」
そして改めてそう切り出す男性。
「一応聞ける範囲なら聞くが・・・・・・なに?」
「はい。実は、私を殺してほしいのです」
は?
「・・・・・・ごめん、もう一回」
「私を殺してほしいのです」
男性の表情は、会った時は違い穏やかな表情をしていた。
話を聞くと、男性はこの国の王様だったらしい。
国の繁栄のためにそりゃあもう色々と頑張っていたそうだ。
「ですが、ある日・・・・・・奴らが攻めてきたのです」
「奴ら?」
「はい。『右下』の奴らです」
右下と言うと・・・・・・ここが右上だとすると、ついさっきまで俺がいた国の事か。
「奴らとは少し前まで友好的な関係を築いていたのですが・・・・・・」
王様の話によると、右下の国とは結構いい感じだったらしい。
向こうは大砲などの武器を、こちらはそれの材料などを交易していたんだそうな。
だがしかし。つい最近向こうから攻めてきたらしい。
こちらも応戦したそうだが、そもそも武器を輸入したのは攻めてきた国のものだ。当然それらの弱点はあちら側は理解しており、そこをついて攻撃。この国はあっという間にこの有様となってしまったそうな。
「奴らは目に付いた者は皆殺しにしました。私は地下に隠れており何とか生き延びたのです」
そして気づけば王様一人だけ生き残ってしまった、と。
「皆この国で死んで行きました。王である私一人が生きて落ち延びるなんて事は出来ません。旅人さん、どうかお願いです。私を殺して下さい」
そこまで言われて、俺はふと自分の両手を見てみる。
今まで何人もの人を、この手で殺してきた。
中には人でないものもいたが、見た目が人だっただけに罪悪感はあった。
そんな両手は、血で真っ赤に濡れているように見えて。
慌ててそれから目をそらす。
「・・・・・・悪いけど、俺の手じゃ殺せない」
「そんな・・・・・・!」
「話は最後まで聞け・・・・・・だから」
ポケットから小型のナイフを取り出し、王様に渡す。
「だから・・・・・・自分で死んでくれ」
これ以上自分の手を汚すのは嫌だった。
手を汚すたび、もう戻れない気がして嫌だった。
だから、これ以上殺したくない。
王様は一瞬呆けた顔になったかと思うと、
「有難うございます・・・・・・それでは、旅人様に幸運があらん事を」
そう言って王様は自分の腹にナイフを突き刺し、前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。
・・・・・・何が幸運だよ。
「死人に幸運を祈られたって、効果ある訳ないだろ・・・・・・」
魔法で少し大きめの穴を掘り、そこに王様を横たわらせ、王冠をとってから上から土をかける。
そして墓標代わりに、王冠をそっと置き黙祷。
「・・・・・・銀」
『・・・・・・はい、何でしょうか?』
「少し、一人にさせてくれ。お前はここら辺で待っててくれ・・・・・・」
『・・・・・・分かりました』
銀を王様の墓の前に置き、そこから離れる。
しばらく歩いていると、雑木林のような場所に辿り着いた。
手ごろな木に寄りかかる。
「・・・・・・なんだかなあ・・・・・・」
どうして俺はこうも人に死に関わるんだろうな。
ある時は自分の手で。ある時は間接的に。
両手を見れば、血で真っ赤に染まってるように見えて。
目をそらしても現実は変わらない。
変わらない、けど。
こんな現実は、直視したくない。
「・・・・・・お困りのようだなァ」
俺の影が離れ、そしてそれが『俺』を形作る。
「・・・・・・白」
「やっちまったモンはしゃァねェだろ。いつまでも引きずってンじゃねェぞ」
こちらに背を向けて説教の紛い事かよ。
「・・・・・・でもさ。そんな簡単に割り切れるもんじゃないだろ」
「割り切れ。殺した本人がそンなンだと殺された奴らが化けて出るぞ」
・・・・・・そりゃあ、怖いね。
「・・・・・・なら、化けて出られないようにしないとな・・・・・・」
そう言って立ち上がる。
「そォだ。それでいい。腑抜けた自分を見てたってイライラするだけだからなァ」
・・・・・・そうですかい。
「・・・・・・ありがとな」
「・・・・・・俺のログには何もないなァ」
そう言って再び影に戻る白。素直じゃない奴め。
「ただいま」
『あ、お帰りなさい』
銀の待つ場所へ戻る。
銀は俺を見るやいなや頭へと飛んでそこに着地し座り込む。もういつもの事だから気にしない。
『悩み事は解決しましたか?』
「悩み事?」
『いえ、何か思いつめたような顔をしていたので・・・・・・』
そんな顔をしてたのか。全く・・・・・・。
「大丈夫だ、問題ない」
『主、それは死亡フラグです』
書きたい小説というか書きたいキャラをケータイで別サイトに投稿したらスッキリしました。
よっしゃこれでこっちに集中出来る!と思えばもう一つ連載抱えてるの忘れてて絶望。