第97話~決闘大会三日目~
気持ちのよい朝って何なんだろうか。
窓から光が入ってこないせいでいつもより遅めに起きてしまった。
ベッドから出て窓の外を見れば、光が入ってこない事にも納得できた。
普通なら青いはずの空が、灰色の雲によって遮られているせいだ。まあ、簡単に言えば曇りだな。
「・・・・・・試合中に降るとかないよな?」
ちなみにあの決闘場、コロセウムのような形をしており上を見上げれば空が見えるという。
まあ、つまりは雨が降ったら確実に濡れるという事。
「中止とかあんのかね?」
そんな独り言を聞く者は誰もいなかった。
結論、中止されず。
コロセウムの入り口に受付があったので、
雨降りそうなんだけど→試合がんばってくださいね→へ?いやだから雨が→試合がんばってくださいね→雨で濡れ→試合がんばってくださいね
と有難い返事をもらいましたとさ。ざけんなちくせう。お前はNPCか。『ここは○○村です』とさして変わらないじゃないか。
ちなみに棄権したらどうなるかと聞けば、『月の無い夜道に気をつけて下さいね』と返答。どう見ても脅しです本当にありがとうございました。
そんな訳で逃げられもせずなくなく入場。雨が降ったら全力で避けよう、うん。出来る限りは。
そして俺よりやや遅れて相手の選手が入場。
相手が男で長い黒髪でイケメンでと色々と気になる点はあったが、何より武器に目がいった。
なんとまあ、彼は日本刀を右手に持っていた。
さて、ここで一つ前の国にいたスーパーおじいさんの言葉を思い出してみよう。
色々と細かい事は覚えていないが、多分あのおじいさんは刀を見たことがない。
長生きしているはずのあの人が見たことがなく、そして目の前の対戦相手は持っている。これいかに。
まあ、ただ単に覚えていないだけかもしれないが。
「この武器が気になるのかい? まあ、この世界じゃ珍しいものだから・・・・・・」
俺が刀を見ているのに気づいたのか、相手の男は軽く刀を振ってみせる。
ひゅんひゅんと風を切り裂く音。切れ味は恐ろしく良いのだろう。
さて、こんな物騒な武器を持っている相手に言ってもあまり意味はないと思うが、恒例行事なので一応言っておく。
「こうさ――――――」
「この勝負、降参してくれないか?」
言い切る前に先に言われた。このパターンは初めてだな。一応理由でも聞いておくか。
「なんで?」
「この国を変えるためさ」
男はやや寂しげな表情をしつつ言う。はて、国を変えるとはこれいかに。
「具体的には?」
「あまり詳しくは言えない。今ここで君が大声でそれを叫んでしまえば、僕は即座に首を撥ねられるだろうからね」
首を撥ねられるときたか。という事はよっぽど物騒なものなのか・・・・・・。
男は、ふと俺から視線を逸らしどこかを見つめる。
俺は首を捻って『グキッ』・・・・・・捻って、男の視線を追う。
『主、首から物凄い音がしましたが・・・・・・』
頭の上から、銀の心配そうな声。いや、大丈夫だから。これくらいならすぐ治る。せいぜい首筋に激痛がするくらいだから。
『それ大丈夫って言わないんじゃ・・・・・・』
俺の今の状態を聞いてなお心配する銀に大丈夫だからと言った後、改めて男の視線を追う。
そこには狭いが、やたら煌びやかな世界があった。あそこだけ特別扱いするような雰囲気があるな。
「見えるかい?あそこにこの国の王様がいるんだ」
男が視線をこちらに戻して言う。
「王があそこにいる人に変わってから、同時に国も変わっていったんだ。彼は娯楽のためだけに人を弄んでいるんだ。この決闘大会も彼の娯楽の一部に過ぎないんだよ」
俺も視線を元に戻し、男の言葉を聞く。
よく響く男らしい低い声だ。俺もそれくらいの声だったら絡まれる事も少なくなるだろうに。
『え、注目するトコそこなんですか?』
え?
「僕はこの国を救いたいのさ。国王が前の代だった時、この国に救われた事があってね。その恩返しをしたいんだ」
銀と会話しつつもしっかり男の話は聞く。これ聞く人が多すぎると頭がめっさ痛くなる事があるから真似するやつは注意するように。
「知っているかい? この決闘大会で優勝すると、願いが何でも一つだけ叶えてもらえるんだ。勿論出来る範囲でだけどね」
え、それ初耳。
その時、視界の端にキラリと何かが光った。
素早く視線を移せば、こちらに向かって矢を引き絞る男が二人。
こりゃいかん。話ばっかしてないでさっさと戦えってか。
「僕の願いは、『この国を昔のようにしたい』。だから、僕の願いを叶えるために降参してほしい」
男の訴えかけるような言葉。その表情は必死だ。このままだと永遠としゃべり続けるかもしれない。
しょうがない、少し煽るか。
「それだと、自分の願いを叶えるために負けてくれって言ってるようなもんでしょ? そんな話を聞いてはいそうですかで終わると思うのか?」
そんな俺の言葉を聞いた男は、
「そうか・・・・・・君なら分かってくれると思ったんだが」
そう言って悲しげな表情をしつつ、一振りの刀を正面で構える。
「やはり、こうするしかないのか」
悲しげな顔から一転。鋭い目つきに変わり、いつでも戦えるぜと言いたげな雰囲気に変わる。
「そーそー。初めからそうすりゃいいのさ」
会話をしつつ先ほど矢を引き絞っていた男がいた場所へ視線をずらす。
男は手に矢を持っておらず、仲間のような別の男と話をしていた。よし、何とかなったか。
それを確認した後、銀は刀に変化はさせず、拳を構える。
男と俺の間に一陣の風が舞った後、試合開始のファンファーレが鳴り響く。
それと同時に、離れていた男がいつの間にか目の前に。
「はっ!」
「うおっち!」
刀を横薙ぎに振るう男に対し、上半身を仰け反らせマトリックスの要領でかわす。
「そらっ!」
「くっ!」
下げた上半身の変わりに両足で男の腹を蹴る。
男は払った刀を腹の前に起きそれを防ぐ。
足に力を込め刀が振るわれるより早く空中へジャンプ。くるくると回転しつつ男から距離をとって着地。
右拳に炎を纏わせて男へ向かってダッシュ。
こちらの間合いに入るより早く刀が振るわれるが、それを身体を反らして回避。
「『火龍拳』!」
「ぐぅっ!?」
男が刀を腹の前に置くより早くこちらの拳が打ち込まれ、男が低空を飛ぶ。
それを追い討ちするかのように走りより、
「っるあぁ!」
「がっ!」
腹へ回し蹴りを食らわせ、さらに後ろへ飛ばす。
男は空中で回転しつつ着地し、少しふらつきながらも体制を整える。
「『真空一閃』!」
男は何やら叫んだ後、刀を横薙ぎに振るう。
俺とは距離が離れすぎているため、刀があたる事は有り得ない。
だが、叫ばれた言葉から嫌な予感がしたのでその場にしゃがみ込む。
すると、少し前に切ったせいで短くなっていた髪がさらに数ミリ短くなった。え、なんぞ。
考える間もなくさらに嫌な予感がしたので右へ飛ぶ。今度は頬から何やら生暖かい真っ赤な液体が。
えーっと、これすなわち?
「遠距離攻撃とか卑怯だぞゴルァ!」
遠くから真空波を飛ばしているという事。
剣士が遠距離攻撃とかマジシャレにならん。普通前衛で頑張るもんだろ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
愚痴ってる間にも、どんどん当たれば即死の刃が飛び交う。しかも見えるなんてもんでもないからほぼ勘で避けないといけない。
「おまっ、ちょっ、殺す気かテメコラ!」
こちらが叫んでも返答はなし。だんまりですかコノヤロー。うお、右手かすった。いてえ。
「チッ、だったらこっちだって!」
ポケットからカノンを取り出し、ちゃんと弾が入っているか確認してから今もなお刃を飛ばす男に狙いをつけ、撃つ。反動で肩が上がる。
男は飛んできた銃弾に気づいたのか、なんと刀で一刀両断。コイツ人間じゃねえ。
だがそれで一時的に真空波は飛んでこなくなり、その間に、
「『フレイムアロー』!」
右手の内に炎の槍を創り出し、それを男目掛けて投げつける。
男が右に跳んで避け、槍が刺さった場所から火柱が上がった。あれ、これこんなに威力高かったっけ。まあいいや。
「うらうらうらー! いつもより多めに投げてます!」
右手だけではなく左手にも創り出し、それを出鱈目に見えて実は男を狙っているように投げる。ただひたすら投げる。
時々真空波が飛んで来るが、投げつけた槍と相殺するだけだ。
こちらは両手を振り回すだけだが、向こうはやたら大きく動かないと下手したら火柱に呑まれて黒こげだ。
男もそれを分かっているのか、精一杯に動く。だが、大きく動けばその分体力の消耗も激しいわけで。
段々と男の動きが鈍り始める。
それを確認した後、槍を投げるのをやめ、別の魔法を唱える。
「『フレイムストーム』!」
男を中心にして炎の竜巻が吹き荒れる。
一応火力は抑えてあるので、竜巻が止んだら真っ黒こげでした、なんて事はないだろう。そもそもそれ目的じゃないし。
さてここで問題だ。火とは何を消費して燃え続けるのか?
答えは酸素だ。
もう一つ問題。人間、酸素がなくなるとどうなるか?
長い間なければ死亡、短い時間でも脳に酸素がいかなくて思考能力が鈍ったりする。
つまり、男は今そんな状況にいるのだ。
頃合を見て竜巻を消し、男を解放する。
竜巻の中から所々焦げた男がふらつきながら現れた。おおう。ちょっと火力調整ミスったか。
「さて・・・・・・」
ここでようやく銀を刀に変化させ、膝を突いた男に近づき刀を突きつける。
「降参、してくれない?」
男はしばらく酸素を求めて一生懸命呼吸していたが、それが落ち着くと、
「・・・・・・分かった。ここまでされたら勝てる可能性もゼロだろう。降参するよ」
両手を上げてそう言った。
そして悔しそうに拳を握る男に、
「・・・・・・ああ、そういやあんたの願いって、『この国を昔のようにしたい』だったっけか。俺さ、今の王様好きじゃないんだよね。話を聞く限り変わってから治安が悪くなったみたいだし。もし願いを叶えてもらう時に王様に会えるんなら勢いで何かやっちゃいそうだなー」
と呟く。
「・・・・・・そうかい」
「あ、そうだ。王様に何か言ってやりたい事とかない?」
俺のそんな問いかけに、
「能無し、と」
男が少し笑いつつそう答えた。
「おめでとう! 君がこの大会の優勝者だ。何でも好きな事を余に願うといい」
さてさてここは決闘会場の中央。つい先ほどまで戦っていた場所。
そこに豪華な椅子が運ばれ、そこにやたら豪華な服とマントを着て、宝石が散りばめられた王冠を被った男が座っている。
一応王様という事なので、膝を突いて頭を下げてやっている。
そして先程の言葉には有難き幸せー、とか言っておく。
「それでは王様、私の願いを聞いてもらえますか?」
いくら酷いと言えど、相手は一国の王だ。それなりの敬意は払わなければなるまいて。
「うむ。余が叶えられる範囲であれば叶えてやろう」
「はい、それでは。私は名誉も地位も、金もいりません」
そんな俺の言葉に、王は疑問の表情を浮かべる。
「金も名誉も地位もいらないと申すか。なら何が望みなのだ?」
「ええ、私の望みは――――――」
――――――アンタの命だよ、能無し王様さん――――――
ポケットからカノンを素早く取り出し、ハンマーを上げて王様の顔目掛けて発砲。
轟音と共に放たれた銃弾は、真っ直ぐ狙いの顔へ向かい、そして王様の顔に穴を空けた。
観客席から悲鳴が上がり、誰かが気絶した。
近くにいた衛兵達は身体を硬直させている。
「さて、と・・・・・・」
出来るだけ血の臭いを吸わないように背を向け、ゆっくりと深呼吸。
・・・・・・おっと、右手が震えてるぜ。まあいい、直に治まる。
心を落ち着け、大きく息を吸い、
「皆さん! 残念な事に今の王様は事故でお亡くなりになりました! そこで次の王様を決めなければなりません! そこで私の願いはこうです! 『この戦いで優勝した者が王となる』! 国を捨てて逃げるもよし、同盟を組むもよし! 勝てばあなたがルールになるんです!」
そう叫んだ後、混乱し始めたコロセウムをさっさと出て、国も出て、誰も追ってこない事を確認してから、
「だー・・・・・・」
地面に倒れこんだら汚いので、立ったまま精一杯脱力。
「喉いてえぜちくせう・・・・・・」
まあ、あれだけ叫べばこうもなるか。いつの間にか右手も治まってるし。
『しかし主、何故あんな事を?』
銀から疑問の声が上がる。
んー、まあ正直に言えば、あの王様が変わらなくても俺には関係なかった。どうせ二度と来ないつもりだったから。
ところがどっこいあの刀持った男の話を聞いて、何を思ったのか自分でもよく分からんがああしてた。
『確か、優勝した人が次の王になる、でしたっけ・・・・・・もし次も同じような人になったらどうするんですか?』
「いいや、そりゃないな」
俺の確信を持った言葉に、銀が頭の上で首をかしげる。あ、可愛い。
「次に王になるのは、きっと『昔のようにしたい』と願った奴だろうから」
いやっほいおわらねえ!始業式が十一日で今日は二日。後十日くらい?一日一話だとして十話・・・・・・だめだ終わんない。どうしてこうなった。
ああもう!新しいの書きたいけどこれ終わらせないとかけないし、かといってこっちをてきとうに終わらせたら大惨事だ。どうする、どうするのよ私!続かない!