第92話~牙をむく冷めた大陸~
最初は肉眼では見えなかった大砲が黒い点に見えるくらいの場所まできた。
さて、団長は攻撃してくると言っていたがしてくる気配はない。まだ大砲の射程外という事だろうか。
それからまた少し進んだ後、空中に大き目の足場を作ってそこに座り休憩。
「・・・・・・ふう。結構しんどいなこれ」
ちなみにこの足場、維持するには常に魔力を流し続けないといけない。なので、今まで踏み台にしてきた足場は跳んだらすぐに消していた。
体力は回復出来ても魔力は減る一方だ・・・・・・なるべく早めにたどり着かないと、最悪海を泳ぐ事になる。それだけは絶対に嫌だ。
「魔物とか出てきたら危ないしなあ・・・・・・。さて、と」
よっこらせっと立ち上がり、高さより距離をとる跳び方で前に跳び、足場を作った後に先ほど休憩に使った足場を消す。
それを何度も何度も繰り返し、大陸目指して移動する。
聞こえるのはカモメの鳴き声と波の音。BGMにはちょい物足りない気もするが、まあ、無いものねだりしてもしゃーなしだ。
ずっと同じ所ばかり見ていると目が痛くなるので、たまに視線を海に向けて戻し、それを繰り返しながら移動する。
それを数えるのも面倒になるほど繰り返した後、変わらない景色に変化が起きた。
「・・・・・・ん?」
何か、黒い点がこちらに向かってきている。
「・・・・・・んん?」
それが段々こちらに近づくたび、それが何なのかが明らかになってくる。
「・・・・・・へ?」
飛んできたのは――――――黒い、砲弾。
大砲から発射されたであろう砲弾は、俺のすぐ傍を猛スピードで通り過ぎ、綺麗な青い海に派手な水しぶきをあげて沈んでいった。
「・・・・・・oh」
海に落ちた砲弾を唖然としながら見ていると、再びすぐ傍を砲弾が通り過ぎる。
振り返れば、そこには無数の黒い点が。
そしてその無数の黒い砲弾が狙っているものは――――――。
「・・・・・・近くに人はなし。船もなし。それ即ち?」
銀を刀に変化させ、すぐ目の前に迫っていた砲弾を真っ二つに切り裂く。
体積が半分になった砲弾が海へと沈んでいった。
「俺、ですよねー。HAHAHA・・・・・・冗談キツいぜちくせう」
両手じゃ数え切れない量の黒い砲弾を見た後、思わず呟いた。
「これなんて弾幕ゲー?」
すぐ傍を、ヒュンヒュンと砲弾が通り過ぎる。
避けれるものは避け、直撃コースの弾は刀で切り裂き、そうして大陸へ少しずつ進む。
砲弾の数は減るどころかどんどん増えていってる気がするのは俺だけだろうか。
『主、それは私も感じてますよ』
銀よ、お前もか。
「誰だよこれ撃ってる奴・・・・・・しつけえって、のっ!」
砲弾を真っ二つに切り裂き、空中に足場を作って跳び、そして足場に着地した後砲弾を切り裂く。
「そーらーをじゆーにーとーびたーいなー、っと・・・・・・そらよ!」
あたれば間違いなく即死の砲弾を刀で斬り、そして再び進む。
「くそう・・・・・・空を飛べる奴が羨ましいぜ・・・・・・」
俺の場合は飛ぶじゃなくて跳ぶだしな。
この空中に足場を作って移動する方法は直線的にしか動けない。
しかも着地する前に足場を壊されたらそれこそオワタ式だ。
「願いが叶うなら翼がほしいですよー・・・・・・っと!」
足場に着地した後、刀で砲弾を袈裟に切り捨てる。
『主』
「あい?」
そんな事を考えつつ足場を移動していると、銀から声をかけられる。
『私がどんな存在なのかお忘れですか?』
どんな存在?
癒し系で低燃費系でビュンビュン系で・・・・・・。
『今私はどんな姿になっていますか?』
今?刀だな。
『私が変化する条件は何でしたか?』
確か・・・・・・俺がイメージするものだっ・・・・・・。
そしてここまで考えて、銀が何を言いたいのかが分かった。
「銀よ」
『はい?』
「ナイス過ぎるわ。後でジュースを奢ってやろう」
『九杯でいいです』
そんな馬鹿な会話を交わした後、銀を刀から一度元の狼のような犬のような姿へ戻す。
そして新しい足場まで跳んだ後、そこで砲弾が飛んできても大丈夫なように障壁と呼ばれる魔力で出来たシールドを張る。ちなみに障壁に色はない。
砲弾がそれに当たって爆発するが、俺に怪我はなし。せいぜい爆風が熱いなーってくらいだ。
何度か砲弾が当たっても障壁が解けないのを確認した後、目を瞑って集中する。
イメージせよ、ってね。
イメージするは翼。どこまでも飛んでいけるような大きな翼――――――。
「――――――『灰翼』」
俺がそう呟くと、銀が光に包まれ、俺の背中へ移動する。
そしてそこで俺がイメージした通りの姿へ変わる。
「・・・・・・おおう。やれば出来るもんだ」
そうして出来た灰色の一対の翼を動かしてみる。
先ほどチラッと見た時は銀が背中にくっついただけだったが、何故か翼が動く。
「行けるか・・・・・・?」
翼を大きく羽ばたかせ、
「アァーイキャーン・・・・・・」
足場から、空へと飛び立つ。
「フラァ――――――イ!」
最初は海に向かって勢いよく落下していたが、ある程度まで落ちた後突然身体が浮き上がる。
背中を見れば、灰色の翼が強く羽ばたいていた。どうやら成功したようだ。
「ひゃっほう! ここまでくれば俺のターン!」
迫りくる巨大な砲弾を紙一重で避け、回ったり回転したりスピンしたりしつつ空中飛行を楽しむ。
何これすごい楽しい。赤くもないのに速さが通常の三倍になった気分。
足場を作って跳んでいた時よりもスピードが速く感じる。翼パねえ。
まあ、この状態だと刀に変化させれないから武器は別に取り出す必要があるけど。
「いやっほう! 砲弾が止まって見えるぜー!」
これは本当だ。
こちらが早すぎるのか砲弾が遅いのかは知らないが、本当に止まっているように見える不思議。
機動力が限界突破した俺は調子に乗って大陸まで一気に突っ走る。
途中で飛んでくる砲弾は全てかわし、時に華麗に、時にアクロバティックに空を舞った。
気がつけば、大砲は黒い点ではなく細長い筒のような姿に変わっていた。
そして、その筒の中に砲弾を入れている誰かの姿も。
こちらからは姿が見えているが、向こうからは細かい姿までは見えないようだ。何が飛んできたのかと目を凝らしている。
よっしゃーこのまま突っ込むぜーと思った直後に、脳が別のことを考える。
・・・・・・待てよ?もしこのまま突っ込んだらどうなる?
突っ込む→大砲ブチ壊れる→砲弾入れてた人怪我する→それを誰かに見られ「侵入者だー!」→追いかけられる→追い詰められてオワタ
・・・・・・よし。落ち着け俺。まずは落ち着け。クールになるんだ神楽龍稀・・・・・・!
突っ込む直前で身体を急旋回し、十分に距離をとるように離れて一度そこで止まる。
さてどうしようか。向こうとしては俺に砲弾をブチ当てたい。でもそんな事になったら確実に俺の身が良いこの皆にはお見せできないようなすごい事になるだろう。
時々身を掠める砲弾に内心ビクビクしつつも考える。
・・・・・・そうだ。落ちた振りとか出来ないか?海に落ちれば流石に向こうも諦めてくれるだろう。
よし、この作戦でいこうか。
翼を羽ばたかせ、先ほどよりはややゆっくりしたスピードで直線に飛ぶ。
やがて、そのコースど真ん中に砲弾が飛んできた。
もしこれを避けて俺が落ちたとしても、向こうは少し怪しく思うだろう。
何せ砲弾というのは、当たれば爆発するのだから。
だからといって俺が当たるわけにはいかない。先ほども言ったように全年齢対象作品ではお見せできない姿へと変わるだろう。
ならどうするか?
答えは簡単。他の何かを当てればいい。
「『フレイムアロー』!」
右手から短い炎の槍が現れる。
それを掴み、砲弾へと勢い良く投げる。
炎の槍は砲弾の中心に当たり、そしてそこから爆発を起こす。
今だ――――――!
翼を畳んできりもみ回転しながら海へと落ちる。
そして、そのまま海の中へと飛び込む。
頭がコンクリか何かにぶつかったような痛みを感じたがそれは今はどうでもいい話だ。
「(銀、息できるか?)」
銀にしか伝わらない念話というもので呼びかける。
『はい。呼吸が必要ない姿の時は全く問題ありません』
そうか。それ便利だな。
澄んだ青い海の中を泳ぎ、大陸のある方へと向かう。
しっかし・・・・・・本当に撃ってきたな。あれもし当たったら本当に死んでただろうなあ。
・・・・・・自分があの黒い砲弾に当たった姿を思わず想像してしまい、少し寒気がした。
銀が新しい姿になりました。何で灰色なのかは・・・・・・まあ、予想してみてください。メールボックスに予想を送ってくだされば返信します。多分。
そんなどうでもいい話はさておき、元ネタ解説いきましょうか。
「空を自由に~」
ご存知未来からやってきたたぬk・・・・・・ネコ型ロボットの歌。
「翼がほしい」
某映画でも歌われてますね。私これ学校で散々歌わされて嫌いになりましたがね。
「ジュースを奢ってやろう」
「九杯でいい」
こちらはブロントさん。さんをつけないと怒られますよ。