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第87話~俺の答え~




















 その日から俺は、『神楽』の剣術を学んだ。


 初めてこれを見た時、言葉に表せないものだった。


 単純に綺麗だと思った。


 単純に美しいと思った。


 単純に素晴らしいと思った。

 

 だから、学び始めた。


 最初は失敗ばかりだった。


 あの美しい剣術を見よう見真似でやってみたが、それでは足元にも及ばなかった。


 だから学んだ。


 必死で。


 必死で。


 そして、たどり着いた。


 『神楽』の剣術に。


 『神楽』の剣術にたどり着いた俺は、今度は自分で新しい何かを考えた。


 『神楽』ではなく、自分のものを。


 






















「――――――よゥ。どうだった?てめェが自分で隠してきた真実はァ?」


 目覚めた直後、聞きたくも無い声が聞こえる。


 辺りが暗い。


 ・・・・・・いや、暗いというよりは、黒い。


 ひたすらに真っ黒な空間だ。


 その中に、俺と『アイツ』が、二人だけ。


「本当はもう少し続きがあるんだがァ、いっぺんに見せるとてめェがもたないから今日はここまでだなァ」


 あれにはまだ続きがあるのか。


 最後に首を絞めてしまった少女が、ふと頭に思い浮かんだ。


 彼女はどうなったのだろう?


 あのまま死んでしまったのだろうか?それとも、生きているのだろうか?


 『アイツ』の言う改ざんされた記憶では、彼女はどこか違う町へ引っ越していった。


 ・・・・・・そこまで考えて、最悪の考えが浮かんだが、それを消し払うように頭を振る。


「いい加減逃げるのは諦めたらどうだァ?現実を受け入れろ。『闇』を受け入れろ。そして――――――『俺』を受け入れろ。自分を偽ってンじゃねェぞ」


 受け入れろと言われても、俺にはどうすればいいかなんて分からない。


 例えあれが事実だとして、俺はどうすればいい?


 あれが本当の記憶だとして、俺はどうすればいい?


 ・・・・・・分からない。


 あれを受け入れたとして、俺はどうなる?


 何かが変わるのか?


 分からない。


「・・・・・・いつまでもウジウジ悩んでンじゃねェぞ。てめェはどうしたいンだ?受け入れるのか、受け入れないのかァ?」


 若干イライラした声。


 もし俺が受け入れるとしても、どうしろというんだ。


 何をすればいいかなんて分からない。


「その顔は、どうやら受け入れ方が分からないようだなァ」


 全くもってその通りだ。


 やっぱり、コイツは読心術かなんかでも体得しているのだろうか。


 そんなどうでもいい考えは、次に発せられた言葉によって、どこかに吹っ飛ぶ。























「――――――俺を殺せ。『闇』の塊である俺をこの空間で殺せば、『闇』がこの空間にばら撒かれ、やがて溶けて混ざる。それで終わりだァ」


 コイツは、そんな事を言った。


「どうしたァ?まさか、自分の一部だから殺せないとか言わないよなァ?てめェはそんな優しい性格はしてねェもんなァ?」


 俺を挑発するかのように、そんな事を言う。


 その顔は、とても楽しげな顔で。


 どこか、寂しそうな顔で。


 ――――――なんで、そんな顔をしているんだ。


 俺には、分からない。


「ほら、さっさと殺せよ。俺が憎いんじゃなかったのかァ?その手に持ってる刀で俺を刺せば、それで終わりだぞォ?」


 ニヤニヤとしながらも、真剣な表情でそう言ってくる。


 矛盾だらけの表情。


 右手には、確かな重みがあった。


 ふと見てみれば、真っ白な日本刀が一振り。


「今ここで俺を殺さないなら、俺はまたずっと出てくるぞォ?そんで、てめェを弱らせる。それでもいいのかァ?」


 俺は、覚悟を決め、ある答えを出す。


「・・・・・・俺は、『闇』を受け入れる」


「! そォかそォか! ならさっさと刺せよ?早くしないと気が変わって俺がてめェを刺すかもしれないからなァ」























「お前は、殺さない」























「・・・・・・あァ?」


 『アイツ』の顔が、歪む。


「俺は、『闇』を受け入れる。でも、お前は殺さない。例え、お前を殺すだけでしか『闇』を受け入れられないとしてもだ」


 俺の『答え』に、『アイツ』は、顔を歪ませる。


「いいのかァ?今ここで俺を殺さないと、てめェは一生苦しむはめになるぞォ?」


 『アイツ』の、楽しげで、悲しげな声。


「なら、何でここで俺を殺さない?お前が俺だとするなら、俺が今どういう状況なのか分かってるはずだ」


 本当の記憶を見せられて動揺している今なら、楽に殺せるだろうに。


 それを、コイツはしなかった。


「・・・・・・」


 白い髪の『俺』は、俯き、黙り込む。


「お前が俺の『闇』だって言うのなら、言わばそれは『負の感情』の塊なんじゃないのか?それなら、人を一人殺すくらい、何とも思わないんじゃないのか?」


 俺の疑問に、さらに黙る『俺』。


「最初に会った時、お前は俺を殺すと言った。だけど今じゃ『俺を殺せ』と言っている。何でだ」

 

 矛盾だらけな言葉。


 そして、今までずっと黙っていた『俺』が、ついに口を開く。
























「・・・・・・俺は初めから、てめェに殺されるためだけに生まれてきた存在なンだよ」


 楽しげで、悲しげな声ではなく。


 ただ純粋に、悲しみのみの声で、そう言った。


「てめェがいつまでも自分の『闇』と向き合わねェから、『闇』が俺を作り出したンだよ」


 白い髪で顔を隠して、悲しげな声で。


「言わば俺はてめェと『闇』とを繋ぐ橋みたいなモンだ。てめェが『闇』と向き合えば、俺はもう必要ない」


 悲しげで。寂しげな声で。


「だから俺には明確な名前が無い。必要ないからなァ。どうせ最初から殺されるために生まれてきたんだからなァ」


「・・・・・・だから、俺に殺せと言ったのか」


「あァ、そうだよ。だからさっさと殺せ。同情とかならいらねェからな」


 そんな事を言うその顔は。

 

 その声は。


 やはり、どこか悲しそうで。
























「・・・・・・それでも俺は、お前を殺せない」


 今まで憎いと思った事は何度かあった。


 コイツのせいで夜眠れなくなり、寝不足になったりした時は、大体憎いと思った。


 それでも、殺してやりたいとは思えなかった。


 自分の一部だから?


 違う。


 理由なんて分からない。


 だけど。


 今の悲しそうな声を聞いて、殺せるはずがなかった。


「・・・・・・だから」


 白い髪の『俺』は、肩を震わせながら、こっちに近づいてくる。


「――――――さっさと殺せっつってンだよォ!!」


 『俺』は、その白く細い腕で、俺の首を絞める。


 息が出来ない。苦しい。


「ほらどうしたァ!? このままだとてめェは死ぬぞォ? 殺せよ・・・・・・さっさと俺を殺せよ!」


 顔に笑みを浮かべながら。


 それでも、どこか悲しそうに、『俺』は言う。


「かっ・・・・・・けほっ。できな、い」


「・・・・・・あァ!?」


 『俺』が、俺を怒鳴りつける。


「殺せ、な・・・・・・い」


「何でだよ・・・・・・何で殺さねェんだよ! てめェ死ぬぞ? それでもいいのかよ!」


 死ねない。死ぬことは出来ない。


 だって。


「おま、え・・・・・・手加減、してるだ、けほっ・・・・・・ろ」


「・・・・・・!」


 『俺』の目が見開く。


 俺を殺す気なのかは分からないが、僅かに呼吸が出来るように力が調整されている。


「・・・・・・くそっ!」


 『俺』は俺の首を絞めた手で俺を地面に突き倒し、いつの間にか持っていた真っ黒な一振りの日本刀を、俺の喉元に突き立てる。


「ほォらどうするよ? 俺がちょっと押すだけでてめェは死ぬぞ? ・・・・・・ほら、早く俺を殺せよ」


 狭まっていた気管に急に酸素が入ったため、少しむせている時に聞こえた声。


 でも、俺は分かっていた。


 コイツは、俺を殺せないと。


 ・・・・・・真っ黒な日本刀の切っ先が、微かに震えていた。


 かたかたと。


 切っ先の震えは、やがて刀身に伝わり、そして、『俺』の身体へ。


「・・・・・・っ!」


 『俺』が、息を呑む。


 やがて、俺の喉元に突き立っていた刀は、ゆっくりと離れていった。


「・・・・・・何でだよ・・・・・・」


 『俺』の、疑問の声。


「何で、俺を殺さねェんだよ!」


 疑問は、やがて叩きつけるような叫びへ。


「俺はもう必要ねェんだよ! てめェが『闇』と向き合ったんだからなァ! 用済みになったものを捨てたり殺したりするのは当然だろォがァ! 何で殺さねェんだよォ!」


 ただ、悲しげな声で叫ぶ『俺』。


 そんな姿を見て、それでも俺の答えは変わらない。























「俺は、お前を殺したくない」

 今回やけに長いが大丈夫か?


 大丈夫だ、問題ない。


 今回やけに重いが大丈夫か?


 大丈夫だ、そろそろギャグに戻るから問題ない。

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