第83話~黒と灰色~
――――――そこは、ただひたすらに暗い空間だった。
明かりなんてものは一切なく、自分の手すらギリギリまで近づけないと分からないほどだ。
そしてそんな空間に、俺は見覚えがあった。
だからこそ、俺はこう叫ぶのだ。
「ま た お ま え か !」
と。
分かった方もいるだろう。
自分自身よく分かっていないが、この空間は俺の心の中らしい。
らしいと言うのは、あの白い俺が言っていたからで、自分ではよく分かっていないからだ。
最近は眠るたびにこの空間に出てしまうので、あまり寝ないようにしていたりいなかったり。
だから銀に『あまり寝ていない』と言われたのだ。
いつものごとく気づけば右手に収まっている白い刀を中段で構え、攻撃が仕掛けられても対処できるようにする。
「・・・・・・次はどこから来る?上か?下か?それとも右か左か?」
黒い空間の中から突然白い物体が現れたらびっくりするだろうか?
そりゃあ誰でもびっくりするだろう。ちなみに俺も最初はそうだった。
この空間に来ると、必ずと言っていいほどそのホラーゲームのような展開になっていた。
・・・・・・だが、今日はいつまでも現れない。まさかの時間差攻撃か?
「・・・・・・気配がしない?」
現れないどころか、アイツの気配すらしない。
俺は構えを解く。不意打ちをするなら絶好のタイミングと言えるだろう。
・・・・・・だが、やはり現れない。
「ならばこちらから行くまでよー、っと・・・・・・」
俺はそう呟いた後、足がついている感覚のしない暗い空間をゆっくりと歩き出した。
暗い。
暗い。
ただひたすらに暗い・・・・・・いや、黒い空間。
足がついているという感覚のない・・・・・・そう、まるで空を歩いているかのような、そんな感覚だ。
そんな空間を、俺は歩く。
普通の人なら、いつまでも景色の変わらない空間に恐怖を覚えたりするのだろうか。
なら、何の恐怖も感じない俺は、普通ではないのだろうか?
・・・・・・いや、別に人じゃないって言われてるのは慣れてるけどさ。
「ううむ・・・・・・何だか酔いそうだ」
足がついていない感覚をずっと味わい続けていたためか、少し酔いかけていた。
出口のないトンネルのごとく、どこまでも続く空間。
地面のないような感覚。
まるで宇宙に一人放り出されたかのようだ。
「・・・・・・お?」
そんな真っ暗な空間の中に、微かに光る何かがあった。
距離が遠い場所にあるためか、その光はやけに小さく見える。
だが、この変わらない景色の中、唯一見つけた変わるものだ。
となると、それに向かって進むのは当然である。
「ヒャッハー!新鮮な光だー!」
そんな世紀末モヒカンの台詞をパロディしつつ、俺は光に向かってゆっくりと歩いていった。
「・・・・・・げほっげほっ・・・・・・うぇほっ・・・・・・おうぇ」
結論。何とかたどり着いた。
いつまでもたどり着かないのにイライラして走ってしまったのは唯一の敗因だったり。
暗い空間に横たわり、体内の減った酸素を補給する。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・よし落ち着いた」
しばらく深呼吸を繰り返し、十分な酸素を補給したので立ち上がる。
たどり着いた光の正体は、扉だった。
どこへ続いているのかは分からない。
だけど、何故かこの扉の先へ行かなければならない・・・・・・そんな感じがした。
「ガイアが俺に扉を開けろと囁いている・・・・・・ならば開けるしかあるまい」
ドアノブを回し、扉を開けるために押し出す。
「・・・・・・お?」
だが、どんなに押しても開かない。
ならばと引いてみるが、それでも開かない。
ならスライド式か?横に引っ張ってみるが開かない。
「なんだ、ただのダミーか・・・・・・」
ため息をつく。
まさかやっと見つけた光がただの開かない扉だったなんて・・・・・・。
「・・・・・・ん?」
扉をすぐ近くに、小さな光る何かを見つけた。
拾ってみると、小さな金属で出来たプレートだった。
プレートには文字が彫られており、よく見れば読めそうだ。
「なになに・・・・・・?『下から来るぞ!気をつけろ!』・・・・・・だから何だし」
思い切り振りかぶり、野球のピッチャーのごとくプレートを投げようとして、そのまま静止。
「下から・・・・・・?」
もしやと思い、プレートを投げるのをやめ、光る扉を下部分を、持ち上げるようにして上へ。
すると、扉はガラガラと音を立てて上へ上がっていった。
・・・・・・まさかのシャッター式か。
「まあいいや。これで進めるーっと」
光の扉の向こうに広がる空間を見て、俺は早速嫌な予感がした。
扉の向こうは、一面灰色だった。
黒色が若干薄まったような、灰色の世界を歩く。
こちらはしっかりと地面があり、歩いていても酔わないのは唯一の救いか。
何もない殺風景な灰色の世界を、ただ歩く。
やがて、無数の高層ビルに囲まれた場所に到達。
「・・・・・・よォこそ。待ちくたびれたぞまったく」
高層ビルの上から、姿は見えないのに、声だけが響く。
「早速なんだけどさ。俺帰ってもいいかな?」
「無論却下だ。帰りたけりゃァ、俺に殺されるか身体を奪われるかすれば帰れるぞ?」
「全力で遠慮する」
どちらにせよ俺の人生終わるじゃねえかよ。
「・・・・・・そうだなァ。てめェに少しヒントをやる」
何の?
「てめェが『俺』を認めなきゃ、俺はいつまでもてめェの敵として現れるぞ」
・・・・・・何が言いたいんだ?
「てめェは、自分の『闇』を認めちゃいねェ。『闇』から目を逸らし、それを奥に押し込めたままだ。そうやって固められた『闇』が意思を持ったのが『俺』なのさ」
そう言う声は、何故か寂しそうに聞こえた。
「てめェは自分で自分を認めちゃいねェ。『闇』という自分を作っているものを認めちゃいねェ。そうやって自分を否定するから、いつまでも俺は現れるんだよ」
・・・・・・意味がさっぱり分からない。
『闇』が意思を持った存在?俺が『闇』を認めていない?
自分を、否定している?
・・・・・・考えれば考える程分からない。
「そうだなァ。さらに特別ヒントだ。少し前に見せた過去の記憶、覚えてるか?」
「・・・・・・ああ、覚えてるよ。何から何まで。なんせ自分の記憶なんだからな」
イケメンをたこ殴りにして、『アイツ』から逃げて・・・・・・。確か、そこで終わっていたな。
「あれは本来の記憶じゃねェ。あれも『闇』に含まれる記憶だから、てめェは自分で記憶を都合のいいように改ざんしてンだよ」
・・・・・・後頭部あたりが、ずきりと痛んだ。
受験が明日。そして私はその前日に執筆している・・・・・・この意味がわかるな。
さあ元ネタ解説いきますかー。
「上からくるぞ!」
元ネタ不明。パロディはいっぱいあるんですけどね。下からとか左からとか右からとか全部とか。
少し重くなってきたような気がしますが、気のせいだ、問題ない。