第74話~まだ旅は始まらない~
「こっちだぞおっさん!」
「ぬぅ・・・・・・待てい!」
ナイスな顔をしたおっさんを挑発した後、学園から遠ざかるように走る。
時折黒い玉が身体を掠める・・・・・・玉が掠った時にガリガリとグレイズ音が脳内に響いた俺はもう駄目なのかもしれない。
「見えた!」
学園の出入り口とも言える巨大な門が見えてきた。あそこを越えれば、国の外まで一直線に走る事が出来る。
学園から真っ直ぐ国の入り口まで道が出来ているからだ。
後はここから出た後、適当にこのおっさんから逃げ切れば良い。
門を開け、外へ出ようとする。
――――――だが、俺は見てしまった。
門のすぐ傍に横たわる、赤い液体の池に沈んでいる複数の何かを。
門を開けようとした手が止まる。
「おいおい・・・・・・冗談じゃねえぞ」
赤い液体に沈んでいたのは、人間だった。
どの人も鎧らしきものを着ている事から、恐らくこの学園の警備員的な何かだったのだろう。
「どうした?もう鬼ごっこは終わりか?」
後ろから迫っていたおっさんが追いついてきた。
そこそこの距離を走ったのに、その顔には汗一つなかった。
「ああ・・・・・・そこに転がっている者達か? 私を侵入者と判断し、攻撃をしてきたので返り討ちにしてやったのだ。呆気ないものだったが」
後ろでおっさんの声が聞こえる。
血の池に沈んでいるこの警備員達は、流れている血の量から・・・・・・恐らく全員死んでいるのだろう。
「・・・・・・わざわざ殺さなくても良かっただろ。幾らなんでもやり過ぎだ」
「何を言っている?悪魔にとって、人間など虫のようなものだ。お前は虫一匹を殺すのも躊躇うのか?」
後ろのおっさん・・・・・・いや、悪魔は、さも当然の事のように言い放つ。
ふと自分の手を見ると、握りすぎた拳が白くなっていた。いつの間にか力を入れてしまっていたらしい。
「虫のような存在、ね」
「ああそうだ。少し力加減を間違えば、簡単に死んでしまう。人間とは脆いものだ」
真っ白になっていた拳から、赤い血が流れた。爪が食い込んだのだろう。
虫のような存在。
そんな言葉を聞けば、普通は怒るのだろうが――――――頭に血が上らない。むしろ全身が冷え切っているように冷たかった。
怒りすぎて逆に冷静になってしまったか?いや、そんな事はどうでもいい。
「だが、お前は違う。そんな人間の中でも選ばれた存在なのだ。――――――さあ、私と一緒に魔王様の所へ行くのだ。人とは違う力を持っていて、さぞ辛からろう?魔王様はそういった人物を集めているのだ」
まあ、確かに人と違うというのは辛い。
その魔王とやらは、そんな人物達を集めているのか。
その集めている人物達が〈後継者〉なのか?
まあ、答えは最初から決まっている。
「答えはNOだ」
「・・・・・・ほう。理由を聞いても?」
「お前が嫌いだから。これで満足か?」
悪魔の眉が少しつりあがった。
「そうか・・・・・・魔王様には傷をつけないでつれて来いと言われたが、抵抗するのであれば仕方ない」
悪魔はそう言うと、右手の掌を広げて黒い玉を作り出し、ある程度の大きさになった所でそれを掴む。
すると、黒い玉はは形を細長く変え、どんどん形を伸ばしていった。
やがてそれは突然止まり、ある物を形作った。
「人の武器を真似するとは・・・・・・真似ばっかりしてると嫌われるぞ?」
「たまたま思い浮かんだのがこの形だったのだ。許せ」
それは、俺が銀に変化させている日本刀。
違うのは、刀全てが漆黒をしている事。
「許せる・・・・・・とでも言うのか?」
「まあ、最初から期待はしていなかったが」
悪魔は刀を両手で掴み、刃先が自分の眼前に来るように構える。
俺は刀の刃先が悪魔の顔へ向くように腕と刀をぴんと伸ばす。
「自分が虫だと罵った者に倒される・・・・・・素晴らしい演出だと思わないか?」
「いくらお前が特別な存在だとしても、所詮は人間だ。種族が違う者に敵う訳がないだろう?」
「種族の違いが戦力の違いではないということを――――――教えてやる」
俺は悪魔を挑発するように、そう言ってやった。
さすがにこのナイスガイを放って逃げ出すのはどうかと思って書いたのが今回の話。後二、三話続きます。多少グロい話になるかと思われます。