真相
生まれついたときから既に病気だったのだと思う。「殺人衝動」が自分で抑えられなかった。だが、これは普通の人が感じる殺人衝動とは違う。
普通の人は、憎んでいる特定の相手などにこの衝動を抱く。だがこの『病気』は非情なまでにランダムで誰彼構わずこの衝動の対象になる。まさに通り魔だ。きっかけがあるとすれば、目の前で人が殺されたり、そういう話を聞いたり、何か刺激を受けるようなことがあった後は起こりやすい。だからコンビニ強盗の時、気にしない態度をとったのも殺人衝動を抑えるためだ。
この殺人衝動が湧いたとき、理性は意味をなさない。すぐにその結界は壊され、気づいたときにはもう遅い。
だから被害を最小限にするには、なるべく人と関わらないことが1番なのだ。
今までそうやって耐え忍んで生きてきた。
だが、それももはや、、、
「そんなときに通り魔のニュースを知った。」
あれは昔自分が引き起こした事件だ。もう二度とあんなことを起こすまいと思っていたのに。また自分がやったのか?いや、ちがう。よく似ている手口だが私のではない。ならば、
「ならばこいつを私の最後の犠牲にしよう。」
この私になりすましている犯人を殺して私も消える。そうすれば世間の「通り魔事件」にも終止符が付く。
「これが通り魔事件の真実。どう?聞きたいことは聞けた?」
女はそこまでを一気に話して、ふぅと一息ついた。
「殺人衝動か。」
ゼラは2人の間で静かに寝息をたてていた。
「君、死ぬつもりだったんだ?」
「、、、そうよ。」
シランが口を開く。
「ほんとに?」
「、、、っ!」
死ぬのを怖いと感じたことはない。
ならばなぜ早く死のうとしなかったのか。
自分にもわからない。
ーーほんとに死ぬ気があった?
ーーなんでまだ生きてる?
ーーー殺人鬼がのうのうと生きやがって。
「ほんとに死んじゃうの?」
「、、、は?」
「こんな奇病なかなかないよ!?まあモノマネ病も珍しいと思うけどね?君には是非とも生きて僕の研究ざいりょ、いやいや、助手になってほしい!」
何をいっているのだろうこの男は。阿呆病という奇病にでも侵されているのか?
「あ、、、そう言って通報する気?」
「え?なんで?」
「いや、しろよ。通報。」
「え?えぇ、、、?」
女は大きなため息をついた。
「あんたと話してると疲れる。」
「うん。よく言われる。」
「君の奇病を治す手伝いをするよ。研究者として、君の奇病は興味深い。」
「治す?そんなことができるの?」
「さあ?やってみないとわかんないよ。」
「皆私に生きていて欲しくないでしょ。」
死にたいかと問われれば自分でも分からない。生きる理由なんてないのにここまで生きてきてしまった。
「死ぬことを償いだと思ったら大間違いだよ。」
「、、、!」
「僕から言わせれば、君は死ぬべきじゃない。奇病からも罪からも逃げるべきじゃない。僕は、奇病の被害を減らすために研究してるんだ。でも患者を殺すことで被害を減らしてもそれは解決じゃない。」
シランは真剣そのものだった。
シランが通り魔事件を追っていた理由は犯人を捕まえるためじゃない。
患者の奇病を研究し、治療法を突き止めること。それこそが、シランの目的である。
女はシランを睨んだ。
(怒らせたか、、、)
「ごめん。知ったような口を聞いて。よく相手を怒らせるんだ。」
「わかった。助手になるわ。」
「うん。君の好きにするとい、、えっ?」
シランは思わず間抜けな声をあげた。
女は続けて言った。
「でも、一つ条件がある。」
「条件?」
「あんたの研究を手伝う間、もしまたこの病気で誰かを殺したら、」
「今度こそ、お前を殺して私も死ぬ。」
強い眼差しだった。
「、、、つまり心中だね?」
「その言い方やめろ。」
シランは嬉しそうだった。
「わかった。その条件のむよ。心配しなくても君にもう人を殺させたりしないから。奇病だって絶対に治してみせるさ。」
「、、、変なやつ。」
ーーニャア
いつのまにかゼラも起きていた。
「じゃあ、行こっか。僕らの研究所に。そういえば名前はなんていうの?」
「、、、シオン。」
2人と1匹は薄暗い廃工場を背に歩いていった。