解決(3) モノマネ
昔からモノマネが好きだった。
少年が母親に手を引かれ、歩いている。
「ママ!みてみて!」
母親が振り返ると、少年はガラス張りのビルにでかでかと掲げらている広告のモデルと同じポーズをとった。
「似てるでしょ!」
無邪気に笑う少年の手にやさしいぬくもりが重なる。
「うん。ランタは将来モデルさんになれるかもね。」
いつものあたたかい笑顔。
「違うよ!僕はこうやってママを笑顔にするんだ!」
「じゃあものまね芸人かな?ふふ。」
そんな微笑ましい親子の会話が都会の雑踏にかき消されていった。
「ふざけんな!」
狭い居間に男の怒号が響いた。部屋の隅で女がうずくまっている。女は肩を震わせていた。
男が激しく音を立てて部屋から出ていくのをドアの隙間からランタは覗いていた。
「ママ!みてみて!」
ランタはいつものように母親を元気づけようとした。人気のモノマネ芸人のマネをしようとしたが、
「ごめんね。ランタ。向こうに行ってて。」
母親は顔も上げずに言う。
「で、でも、、、」
「いいから向こうに行ってなさい!」
母親の怒鳴り声にランタは驚いた。肩をビクッと震わせ思わず尻もちをついた。
母親はハッとして顔を上げる。そして、ランタを泣きながら抱きしめた。
「ごめんね。ごめんねぇランタ。うぅ、、」
その日から母親に笑顔は消えた。
ランタは母親に笑顔になってもらうために、自分は笑顔であり続けた。
父親は、典型的な亭主関白な男だった。母親が少しでも自分に歯向かえばすぐに手をあげた。無論、それは子供に対してもだ。どんなに痣ができようとランタは笑顔だった。
しばらくして母親は耐えきれず首を吊った。家の庭。第一発見者はランタであった。
それでもランタは笑顔であり続けた。街をゆく人々の笑い声をずっと『マネ』し続けたのだ。しばらくして父親も肝臓の病気で死んだ。
「ひどい子供だよ。両親が死んでも悲しくないみたいだ。」
「あそこまでくると不気味だねぇ。」
ランタの歪んだ心をわかってくれる人は誰一人いなかった。
ランタの『病気』が発症したのはその頃だろうか。ランタは周りを『マネ』てまともでいようとした。常に他人をマネて自分じゃない自分を演じてきた。そうすることでランタは周りから受け入れられてきた。
たが、ランタが社会人になった時、とある取引先の男の家に招かれた。
その男はどうやら母親と自分の子供に暴力をふるっているらしかった。取引先の家族は必死に取り繕っていたが、ランタにはすぐにわかった。
これを自分は知っている。
ランタの脳裏に昔の記憶がよみがえった。
ランタは男を殺した。