解決(2)
2人の間を鎌が通り過ぎた。鎌は回転しながら後ろの窓に当たり、窓はガラスを散らして割れた。
「もう来たのか!」
「くそっ!行くよ!」
女は走って鎌男から距離をとった。しかしシランはその場にとどまる。
「あっれぇ?女の子の方は逃げちゃったよ?君も早く逃げなよぉ〜。」
「あいにく、君から逃げ切るほどの体力が残ってなくてさ。日頃運動してなかったことを今更後悔してるよ。」
「ふぅん、じゃあ死ぬ?」
「どっちみち、今ので君はもう鎌がないだろ。だから少し話をしないか?」
「話しぃ?」
「君の奇妙な病気についての話。」
「、、、。」
「君が患ってるのは奇病という病気だ。」
「、、、。」
「どんな病気かまだわからない。だから君の話を聞かせて欲しい。」
「、、、さっきからなんの話してんの?」
鎌男は首を傾げた。今までと違う鎌男の雰囲気を感じ、冷汗が首筋を流れた。
「お前も俺が病気だって言うのか!あいつらと同じだ!みんなみんな俺を病人扱いする!あは、あはは、あはははははははははは!」
鎌男の狂った笑い声が工場内に響き渡った。
そしてしばらくの沈黙の後。はぁーと男は息をついて顔を上げた。真っ直ぐ、その目はシランを捉えていた。
「、、、死ね。」
鎌男はものすごいスピードでシランとの間合いを詰めてきた。左手にはスペアに持っていたのであろう鎌が握られていた。
シランとの距離がどんどん縮んでいく。
ーーードォーンッ
次の瞬間。鎌男はその場に倒れていた。
頭上から降ってきた物体に押し潰されて。
ーーー鎌男が来る5分前
ふと、視界の上にゆらゆらと揺れるものを見つけた。
(あれは、、、。)
「ひょっとしたらいい案が浮かんだかも。うまくいくかわからないけど」
「もしうまくいかなかったらあんたの体を盾にしてそこに刺さった鎌であいつを殺す。」
「うん!絶対成功する!!成功させる!!!」
シランは工場の天井を指さした。そこにはワイヤーで吊るされた鉄骨があった。
「あれだ。」
「なるほどね。」
鉄骨は分厚く、何本も束になっていた。
「あれをあいつの真上に落とす。だから真下まで引きつける役とワイヤーを切る役がいる。」
この作戦で難しいのはここだろう。引き付ける方はもちろん、ワイヤーを切る腕力とタイミングも間違えたら終わりだ。
「わかった。ならわたしが引き付けるからあんたが、、、」
「いや、僕があいつを引き付ける。」
「できんの?」
「要は殺されなきゃいい。君がタイミングよく鉄骨を落としてくれたら大丈夫さ!」
「、、、もしわたしがミスったら?」
シランは肩をすくめ、軽い調子で言った。
「2人ともここで終わりだ。」
「わかった。どっちみちその作戦で先に死ぬのはあんただしね。」
女は諦めたように言った。
「あ!でもワイヤーを切る道具がないね。」
「それはわたしがなんとかする。」
その時、
ーーーカーン、カーン、カーン
あの金属音が響いた。
「もう来たのか!」
「くそっ!行くよ!」
女は鉄骨の近くに積み重なった積荷に駆ける。
鎌が窓を割った。女は散ったガラスの破片を素早く上着のポケットに入れた。シランもそれを見ていた。あとは時間を稼げばいい。女が上に辿り着くまで。そして相手を鉄骨の下へ誘導する。
ーードォーンッ
鎌男は鉄骨の下敷きになった。鉄骨は何年もの間放置されたことにより、ところどころ腐敗していたが、成人男性の動きを止めるには十分の質量だった。
「がっ!うぅ、、、」
うめき声が漏れた。口も開くようだ。
「完璧だな。」
女も下に降りてきた。
「さ、その男に用があるんなら早くして。」
女は早く殺したいというふうにシランを促した。
「うん。ちょっと待って。」
シランはおもむろにキャットフードを取り出した。先程の買い物で買っておいたやつだ。小さい缶の中に入っていて持ち運びも便利なタイプ。ゼラの大好物だ。
「、、、?」
シランがキャットフードを床に撒く様子を女は不思議そうに見ていた。
すると、しばらくしてどこからか音が響いた。
、、タッ、タッ、タッ
「よしきたきた。」
どこからともなく現れたのは黒猫。ゼラだ。
「猫、、、。」
女はその黒猫を見て一歩後ずさった。
(猫が苦手なのか?)
ゼラはキャットフードを一通り食べ終わるとシランを振り返った。
「全部食べたな?よし仕事をしてもらうよ。」
シランはゼラを抱き抱えると、鎌男の近くに近づいた。すると、
ーーニャア、ニャアー
ゼラが鳴いた。
「ビンゴ!」
「うぅ、、」
鎌男が呻いた。どうやら意識を取り戻したようだ。
「、、、な、なに!?なにがどうなって、、」
鎌男はシランと女を見上げた。
「ひ、ひぃいい!!」
怯えているようだ。
「君、やっぱり奇病持ちだったみたいだね。」
「き、きびょう?」
「君が持ってる変な体質や症状の事だよ。」
「、、、。」
鎌男はなにか考えているようだ。
「、、、お、俺は、、、」
ポツリ、ポツリと鎌男は言葉を発した。
「昔から、、、モノマネが好きだった。」