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解決(1)

「ここで何してんの。」

女が言った。

「それはこっちのセリフだよ。こんなところに女性が1人は危ないんじゃないかな?」

シランはいつものような調子で言う。

女は目を細めた。シランの真意を探ろうとするかのように。

「あんた、さっきのコンビニの、、、」

「ああ!さっきはどうも。」

2人の間に沈黙が流れた。

すると女は積み上げられた鉄骨の上から地表へと、軽い身のこなしで飛び降りた。

そしてシランの正面まで来る。

瞬間、シランは押し倒されていた。

「、、、!」

手足を抑えつけられ、指先を動かすこともかなわない。

「ケリをつけさせてもらう。」

女はどこからかナイフを取り出した。

コンビニ強盗が持っていた携帯用ナイフだ。

この女が現場から盗んでいたのだ。

しかしこれでシランは確信した。この女の正体を。

しかし時すでに遅く。

シランの眼前にナイフの刃が近づいてくる。

さすがのシランも死を覚悟した。

「さよなら。通り魔。」

女がそう口にしたのを聞いた。

その瞬間。


ーーカーン、カーン、カーン


なにか金属がぶつかったような反響音が工場内に鳴り響いた。

女の動きがピタリと止まる。シランもまた、その音の正体を探るように首をひねった。

ーーカーン、カーン、カーン

音は2人に近づいてきている。

先程シランがやってきた方から人影が近づいてくるのが見えた。

その人影は壁伝いにゆっくりと歩いていた。

ふと、シランの体が軽くなった。

女がシランから離れ、今度はその人影を睨みつける。

シランも立ち上がった。

人影は徐々に鮮明にその姿を現した。

細身の男だった。男の手には大きな鎌が握られていた。

鎌は男が動く度、壁に何度も打ち付けられ、鈍い金属音を発していた。

その男はこの状況に似つかわしくない、満面の笑みを浮かべていた。しかしその目はギラギラと光っている。まるで獲物を見つけ、今まさに狩ろうとしているハイエナのようだ。

雰囲気だけでその男が異様であることはすぐにわかった。


「こんばんわぁ。まさかこんなとこに人がいるなんてぇ!ラッキーだなぁ。」

男はやけに明るかった。その口調がこの状況に似つかわしくなく不気味だ。

「君たちカップルぅ?」

「あんた誰?」

女が冷たい声で言った。

「かわいそうだけどぉ、今日は君たちに決ーめたぁ!あはははは!!」

男は女の問いかけに答えず、喚いている。

「、、、通り魔。」

シランが呟いた。

次の瞬間、シランは女に思いっきり手を引かれ体勢を崩した。

「えっ!?」

ーービュンッ

先程までシランがいたところを、なにかが通り過ぎた。カツーンと反響音をたてて落ちたのは鎌だった。

「うわ、、、。」

シランは己の身に何が起きたのか。何が起きようとしていたのかを理解し身震いした。

「行くよ。」

そう言うと女はシランの手を引いて走り出した。

「あははァ!!追いかけっこ?」

男の声が後ろで響いた。



はぁ、はぁ、はぁ

シランは肩で息をしていた。

「あんた体力ないね。」

対して女は涼しい顔でシランを一瞥した。

2人は廃工場の奥の積荷の裏に逃げ込んでいた。女の足がとてつもなく速く、手を引かれていたシランは何度も転びそうになった。

「なに、、、あいつ、、、。」

シランは呼吸を整えきれず、掠れた声で呟いた。

「さっきあんた言ってたでしょ。通り魔って。」

「あ、えーと、、、。君を通り魔だと思って、コンビニからつけて来てたんだけど、、、。」

シランはゼラが鳴いた時、いや、その前から女を怪しいと思っていた。

強盗と対峙した時の身のこなしはただ者ではなかった。おまけに廃工場なんかに入っていったのだ。こんなに怪しいことはない。

「は?ていうか、それなら私だってあんたを、、、。」

「あ、、。」

シランは女にナイフを突きつけられた時の言葉を思い出した。

(あのとき確か『さよなら。通り魔。』って言ってたな。)

「だって廃工場に一人で来るし、あんたもあの男みたいに変だったし、疑われてもしょうがないわよ。」

女は少し顔をしかめて言った。

「えぇ、、、!僕、あんなのと一緒なの心外だな!」

「今回の通り魔事件はわたしじゃない。」

「ああ。どうやら僕らはお互いに勘違いをしていたようだね。」

「犯人はあの男。」

次の瞬間。

ーーカーン、カーン

あの反響音が響いてきた。

「やばい。来たね。さあ、どーする?」

「どーするって決まってるでしょ。ここで叩く。」

女は当然だといったように答え、立ちあがろうとした。そこをシランが慌てて止める。

「叩くってまさか捕まえるつもり!?強盗のときみたいにはいかないと思うけど、、」

すると女は嘲るように言った。

「捕まえるんじゃない。ここで『殺す』。」

シランは自分が刃を向けられたときのことを思い出した。確かにこの女は人を殺すことを躊躇わないだろう。

それに、女は何かしらの奇病を患っているはず。

その症状次第では他人を傷つけるのも簡単なことなのかもしれない。

だが、シランは10年前のことを思い出していた。

自分がずっと探し続け、最後まで見つけ出せなかった犯人がこの場にいるのだ。


「手、退けて。」

「、、、生捕りにしてくれないか?」

「、、、は?」

「あいつのこと生捕りにしてほしい。聞きたい話があるんだ。別に正義感とかで言ってるわけじゃない。あいつがどうなろうと僕には関係ないから。話が聞けたらその後は君の好きにしていい。」

シランが聞きたいこととはもちろん患っている奇病のことだ。一体犯人はどんな奇病を持っていたのか。それがずっと気になっていた。

「あんた、あいつに知人でも殺された?」

女は言った。

「いや。そういうんじゃなくって、、、」

女はその後しばらく考えるようにして、

「わかった。けど、その後絶対殺す。」

シランは頷いて掴んでいた手を離した。

その次の瞬間にはもう、女は鎌男の方へと駆けていた。

(なんだか、悲しそうな顔をしていたような気がする。ひょっとして、彼女の方こそ大切な人を殺されたのかもな、、、。)


鎌男は2人を見失っていた。女が追いついたとき、完全に男は後ろを向いていた。その背中に向かって女はナイフを振り上げた。しかし、鎌男は一瞬で体をひねり、方向転換した。ナイフは空中に弧を描いた。

「あはは!みぃつけタァ♡」

今度は男が鎌を振り下ろす。それをナイフで防いだが、鎌男は次々と追撃してくる。

「あはははは!」

「チッ!」

振り下ろされる鎌をすべてナイフの刃で受け止める。しかし、確実に一歩ずつ押されていた。

ついに女の背中は壁についた。

「くそっ」

「あはははははは!」

鎌が振り下ろされる。

ーーースカッ

鎌は何にも当たらなかった。女は鎌が届く前に横に避け、完全に男の背後を奪った。鎌男は鎌を振り下ろした体制。どんな超人でもそこから瞬時には体制は持ち直せない。

ーーー『生捕りにしてほしい』

おそらくここでナイフを刺せば生捕りは難しいだろう。

そんな思考が女の頭によぎった。

次の瞬間、ナイフは鎌に振り落とされていた。

「くっ!」

「惜しかったねぇ。あはは!」

女は走った。

「あっ!待ってヨォ、、、」


「えっ!」

シランは走って向かってきた女に腕を掴まれ、廃工場のさらに奥へと連れてかれた。ほぼ引きずられるようにして。

「いたた。、、、えっと、どうなったの?」

「一時撤退。」

女は明らかにイラついていた。

「誰かさんが生捕りなんて言うから。」

女の腕から血が流れている。鎌で切られたのだ。

「その傷、、!」

「大したことない。それよりナイフを取られた。」

「ごめん。」

「、、、なんで謝る?」

「生捕りになんて言ったから。」

「いいから!打開策を考えろ!コンビニときみたいに!」

でもこの女の言う通りだ。

今は沈んでる場合じゃない。

ーーーカーン、カーン、カーン

あの金属音がまた響いてきた。

ふと、シランは視界の上にゆらゆらと揺れるものを見つけた。

(あれは、、、。)

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