未解決(3)
女はまるで強盗など見えていないといった様子だった。
その様子がかえって強盗を挑発した。
強盗は、もう一発撃とうとトリガーに指をかけた。しかし、女はそれを見逃さなかった。
女が体を後ろにのけぞらせると、強盗の撃った弾は空気中に弧を描いて消えた。
「、、、っ!?」
急いでもう一発撃とうとしたが、強盗が撃つよりも早く、女は強盗の間合いに入り、手から拳銃をたたき落としていた。
数秒間の沈黙の後、
ーーパチ、パチ、パチ
「うおお!すげぇ!」
店内に拍手が響き渡った。
レジ員の女性は相変わらず怯えている。
しかし、女はその事すらどうでもいいといった様子だった。
(一体何者、、、?)
おそらく女は1回目に撃たれた時も体をのけぞらせたのだ。ごく最小限に。強盗と女の間には少し距離があった。女は弾がどこにとんでくるのか読んでいたのかもしれない。
(そんなことが普通の人間に出来るか?)
拍手は鳴り止まなかった。最初、ただ呆然としていた強盗は、体を震わせた。
「ふざけんなあっ!」
そう叫んで服のポケットから小さい携帯用のナイフを取り出した。そして、なんとそれをレジ員の女性に突きつけた。
拍手も歓声もピタリと止まった。
「なめやがって!でもこっちは金さえ手に入ればなんでもいい!」
レジ員の女性は声も上げられないようで、ただ震えていた。
「さっきみたいな舐めたまねしてみろ。この女の命はねぇぞ!おい、お前。そのカバンを持って外まで来い!」
人質をとる作戦だ。レジ員の女性ごと外に連れ出そうとしている。
だが、女は動揺しない。
むしろ苛つくようにレジ員と強盗を見やっている。
(、、、?)
その様子になにか違和感があった。
「さっきみたいにしてナイフを奪ってくれよ!」
「レジ員さんを助けてあげて!」
客たちが口々に叫んだ。もう頼りの綱はその女しかいなかった。
女は客たちを一瞥すると、ため息を漏らした。
「助けるって、、、なんで?」
客たちは女のその言葉にぽかんとした。
女は本当に意味が分からないと言った様子だった。
「、、、まさか助けない気!?」
「助けてあげて!」
「早く!」
「早く!」
客たちが口々に叫ぶ。
だが女は動こうとしない。
(さすがに無理なのか、、?)
そうは思いつつもシランは違和感を覚えていた。最初からずっと。
強盗の横ではレジ員の女性が成り行きを見守るように不安そうな顔を浮かべていた。
「おかしい、、、」
つい、シランは呟いた。
客たちがいっせいにシランを見た。女もシランに視線を移した。
皆の視線を浴びながら、シランはレジ員に語りかけた。
「レジ員さん。君はこの強盗に怯えている。そうだろ?」
「あ、当たり前じゃないですかっ!」
「でも、さっきから君は怯えているというよりは『不安がっている』ように見える。」
「それのなnっ」
「まあ確かにこの状況で不安になることも間違ってはいない。強盗の人質になっているのだから。」
シランはレジ員の言葉を遮って続ける。
「でもそんな強盗を倒してくれるかもしれない救世主が現れたら、少しぐらい期待するもんじゃない?君はむしろこの女の人が出てきてからの方が不安そうに見えるけど。」
「、、、救世主?」
女が怪訝そうな顔でシランを睨んだが、そんなことはお構い無しにシランはレジ員に向き直る。
「ひょっとして君が不安に思ってるのは強盗に対してじゃなくて、この女性に対してなのかな?」
「なっ、、!」
客たちはどういうことか分からないといった様子でシランの話に耳を傾けていた。強盗もまた、固唾を飲んでシランの話に聞き入っている。
「最初から違和感があったんだ。怯えているはずの店員さんがあんなに綺麗に札束をかばんに入れるかな?って。君はだいぶ几帳面な性格みたいだね。そもそもあの量のお金、咄嗟に準備できないでしょ。前もって準備していたなら別だけど。」
そこまで言い終えるとふっと息をついた。
狼狽える強盗。肩を震わせ俯くレジ員。それを冷めた目で見つめる女。呆気にとられている客たち。
店内がしんと静まりかえっていた。
シランはにこりと微笑んだ。
「つまり、君と強盗はグルだったわけだ。」