未解決(2)
片手を紅茶の葉とキャットフードの入った袋に占領されたシランは、ひとりコンビニいた。
ゼラはいつの間にかどこかへ行ってしまったようだ。だが心配はいらない。
ゼラは単独行動を好むが、必ずシランの元に帰ってくるのだ。今までもそうだった。
「結構時間がかかったな。」
コンビニの外は既に日が落ち、墨をこぼしたかのように真っ暗だった。この辺りは街灯も少ない。
シランは空いている手でカップ麺を持ち、レジに向かった。レジにはすでに列ができていた。
疲れた顔をしたサラリーマン。大学生カップル。黒髪の女性。老婦人。
それを一人の若い女性店員さばいている。
この後何か予定があるのか、女性定員はちらちらと時計に目をやっていた。
(大変そうだな。)
その列の最後尾にシランが並んだその時だった。
「全員動くな!」
いきなり店内に怒号が響き渡った。
(、、、なんだ?)
ふと見ると、頭に黒い覆面を被った男がコンビニの自動ドアの前に立っていた。
よく見ると、その強盗の手には、確かに拳銃が握られていた。それを見た店内の客らは動揺した。
「きゃああ!」
「な、なんだよあんた!?」
強盗はざわめく客たちにイラついた様子で、
「さわぐな!そこで大人しくしてろよ?」
と、拳銃を客たちに向ける姿勢でレジまで近づいて行った。
「おい!」
「っ!?」
「ここに金をつめろ。」
レジの上に乱雑にカバンを置いた。
「は、はいっ、、、!」
レジ員の女性はすぐに金をカバンにうつしていく。
そこにいる誰もが硬直し、レジ員の女性の手元を見つめていた。
相手が銃を持っている以上、下手に動けない。
だが、どうせこの手の輩はすぐに警察に捕まる。
(とりあえず今は無事ここから出ることを考えよう。)
誰もが緊張した面持ちで息を呑んでいた。
そんな沈黙をやぶる者がいた。
ーーーードンッ
「袋はいらない。」
その場にいる誰もがその女を見た。先程シランの2つ前に並んでいた女だ。
長い艶のある黒髪。すらっとした足。引き込まれそうなほど黒檀な目。目を奪われるほど綺麗な女性だった。
その女が、まるで何が起きているのか理解していないように、自分の買い物かごをレジに置いたのだ。
「いくら?」
「、、、えっ?」
「だから、いくら?」
「いくらって、、、」
レジ員の女性は呆然としていた。
(まさかこの状況で普通に買い物するつもり!?)
強盗でさえ、女の行動が理解出来ずにかたまっていた。しかし、我に返ったようで、
「おい、お前何してる?動くなって言ったよな?」
拳銃を女の頭に突きつけた。
「何って会計ですけど。」
「そういうことを聞いてんじゃねえ!なんなんだよお前!」
明らかにイラついている。
(まずい、、、。)
「待ってくださいっ!もうすぐ詰め終わるんで!」
レジ員の女性が叫ぶ。
確かにかばんには札束が綺麗に重ねて入れられていた。
しかし強盗は逆上して聞く耳を持たない。
「言ったよな?動くなって!俺が撃たないと思ってんだろ?撃つぞ!撃ってやる!」
(まずいぞ。あの強盗、だいぶ錯乱している。)
誰かが叫んだ。
「きゃあああ!」
ーーーーバァンっ!!
その瞬間、店内に発砲音が鳴り響いた。
その後にあったのは、ただ沈黙。
誰もがもう手遅れであると思った。どう考えても、頭を撃ち抜かれている。そのはずだった。
女は生きていた。傷一つないようだった。
何が起こったのか分からず、皆、呆然と立ち尽くした。
そんな異様な空気の中を、女は何ともないといった様子で、
「ねえ、まだ?」
レジの上のカップ麺とウーロン茶のペットボトルを指さしていた。